第14話 焼肉
あばらが浮き出るほどのガリガリの体型だった三匹だが、今回の食事で腹が破裂するのではと思うほど膨れていた。
その状態を美味しいもので満たせたというのが余程嬉しいのか、見たこともないような至福の表情を浮かべながら寝そべっている。
「イチ、ニコ、サブ。どうだ? 美味かったか?」
「ウガががが! うがガ!!」
イチ達は飛び上がって俺の下に駆け寄ると、何度も何度も頭を地面に擦り付けている。
流石は三大欲求の一つと言われている“食”だな。
予想していた以上の効果で、まだ俺を認めきっていなかった三匹が完全に服従している。
俺についてくれば明確な利があると分かった以上、余程の事がない限りは裏切らないはずだ。
「俺についてくれば毎日……は無理だが、一週間に一度はこれぐらいの肉を食わせてやる。たらふく肉を食わせたのだから、明日から俺の指示に従って働いてもらうぞ」
「ウガッ! ウガッ! ウガッ!」
上から目線でそう言ったのだが、ノリノリで小躍りしながら承諾したイチ達。
生まれてから、肉を食わせる前までの態度をはっきりと覚えているため、調子がいい奴らと思わなくもないが……いつまでも引きずっていても仕方がない。
従うといった以上は仲間として認めざるを得ないし、目標のためにキッチリと働いてもらう。
もちろん仲間と言えど、序列的には明確に俺とバエルの下だがな。
「それじゃもう寝てくれ。明日は早いからな」
「うがッ! うがガが!!」
イチ達を先に巣へと戻し、残った俺とバエルで後片付けを行う。
それから寝る前にバエルに文字と言葉を教えてから、俺達も明日に備えて寝ることに決めた。
バエルも言葉を覚えてくれればいいのだが、何かしら成長しない限りは難しいかもしれない。
それと、コボルトを食べた影響もそろそろ体に現れてもおかしくないはず。
もしかしたら既に体に影響が出ている可能性もあるが、まだ分かるような体の変化は感じられていない。
コボルトが弱すぎるし、見張った変化は見られないのかもな。
とにかく今日はイノシシを狩ることができ、イチ、ニコ、サブの三兄弟を完全に従えることができた。
明日からはやれることが増えるだろうし、色々と動き出していきたいところ。
翌日。
他のゴブリン達よりも先に起きた俺は、今日からどう動いてもらうかを考えることにした。
まず優先して行いたいのは、くくり罠の数を増やすこと。
そのためには素材となるワイヤーが必要なため、イチ達の三匹にはワイヤー集めを行ってもらいたいのだが……森の中はとにかく危険。
この巣の周辺は比較的安全というのは、ゴブリンに転生してからの数ヶ月で分かったが、巣から少しでも離れると一気に他の生物との遭遇率が上昇する。
俺の時はコボルトだったから良かったが、もっと強力な魔物と出くわしていたら死んでいた可能性も十分にあったからな。
せっかく意のままに指示することができるようになったのに、殺されてしまうのは俺としても大きな痛手。
とは言っても、最弱のゴブリンが強くなるには食べるしかないからなぁ……。
頭を悩ませた結果、イチ達三匹のゴブリンにはバエルが行っていた作業を引き継いでもらうことにした。
幼虫を掘り出すための朽ち木集めに落とし穴の作成。それから石と木材集めも行ってもらいたい。
三匹で行うような作業量ではないが、ワイヤー集めを任せるのは危険すぎるため止む無しの判断。
代わりに、俺はバエルと共にワイヤー集めを行う。
バエルも決して強いとは言えないが、頭はそこそこ良いため連携が取れるのが大きな強み。
最悪の場合は囮として使うことも念頭に置きながら、二人でワイヤー集めを行う。
そうと決まれば早速俺の班となった四匹のゴブリン達を起こし、身振り手振りを使って事細かに指示を出していく。
指示がしっかりと伝わったことを確認してから、俺はバエルと共に巣を出発した。
道中に生えている薬草はしっかりと採取しつつ、前回見つけたゴミ山とは別の方向を進んで行く。
また新しくゴミが捨てられている可能性もあるが、前回からまだ日が浅いため可能性としては限りなく低い。
別のゴミ山を見つけに行った方が確立は高いし、似たようなゴミ山を五つくらい見つけることができれば、日を置いて順々に見て回るだけで使えるゴミの収集ができるようになる。
土地勘のない場所というのは危険が伴うが、危険を冒してでも探す価値は大いにあるのだ。
そんなことを考えつつ、俺が先頭を歩いて進むこと約三時間。
前方から何か複数の生物が向かってくるのを察知した。
かなり大きな生物で……足音から考えるに二足歩行なのは間違いない。
オーガのような大きく雑な足音ではないため、俺と同じゴブリン種か?
いや――鞘と剣が擦れる音がするため、人間の冒険者の可能性が高い。
俺はすぐにバエルに静かにするように指示を出し、草の生い茂った場所に伏せた。
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