第11話 警戒心


 くくり罠を仕掛けてから三日が経過した。

 未だにイノシシは掛かっておらず、食材を求めて森の中を探し回る日々を送っている状態。


 落とし穴も一応形にはしたが、くくり罠と比べて欠陥だらけなため恐らく罠にかかることはない。

 期待できるのはくくり罠だけで、何でもいいから罠にかかってくれないと勝負に負ける可能性が出てきた。


 ちなみにこの三日間で得られた食材は野草や木の実、それから幼虫だけ。

 コボルトを倒せたから小さな獣なら倒すことができると考えていたのだが、小さな獣は俺の姿を見たらすぐに逃げてしまう。


 コボルトも向かってきてくれたから倒せたものの、四足歩行の獣にはスピードでは絶対に敵わない。

 勝負の相手である三匹のゴブリンたちも同じようなものだが、俺が罠を作っていた一日目と二日目も食材集めをしており、更に数も三匹と俺達よりも多い。


 一応血眼になって集めてはいるが、今更集めたところで勝ち目がないだろう。

 ただ、先ほども言ったように獣を一匹でも狩ることができれば勝ちは確定すると言っていい。


 野草も木の実も幼虫も非常に軽く、一日かけても一キロ集められたら上出来なぐらい。

 くくり罠にかかるサイズの獣ならば、どんなに小さくても十キロオーバーなため、一匹狩るだけで一気に捲ることができる。


 だから何としてでも獣を狩りたいのだが……本当に罠にかからない。

 近くにいる痕跡は残っているのだが、上手く避けられているんだよな。


 流石に手を加えないと罠にかからず終わると判断して、昨日様子を見に来た時に餌を置いてみたんだが、それが逆に怪しまれる可能性もある。

 色々と考えすぎて雁字搦めになっている気もするが、とりあえず今日も見に行ってみるとしよう。


 バエルには朽ち木集めをしていてもらい、俺はいつものように一人で罠を仕掛けた場所に行ってみることにした。

 もう見慣れた道を突き進み、罠を仕掛けた場所が見える位置に到着。


 遠くから覗くように確認すると、罠の付近を歩いているイノシシらしき獣を発見した。

 嬉しさのあまり声を上げそうになったが、まだ罠にかかっているかどうかは分からないため両手で口を押さえて様子を窺う。


 痛がっている素振りはないが――足にワイヤーがかかっているようにも見える。

 しばらく様子を窺ったが、罠をくくりつけた木の付近からも移動できていないし、その行動からも罠にかかっているのが分かった。


 人間だったころに何度も罠にかけて狩ってはいたが、これまでで一番嬉しいからか心臓の跳ね方が半端ではない。

 大きく深呼吸をしてから冷静さを取り戻し、ゆっくりと罠にかかったイノシシに近づいていく。


 まだ罠にかかって間もないこともあり、イノシシの元気が有り余っているのが分かる。

 中くらいの大きさの個体で、俺が姿を見せるなり襲い掛かろうとしてきたが、足にくくられているワイヤーのせいで一定の距離までしか近づいて来られていない。


 向こうから寄ってきてくれたことで、移動できる距離を掴むことができたのも大きいな。

 距離感が掴めなければ石を投げて遠くから地道に殺すしかなかったが、俺に近づいて来られる距離が分かっているならば木の棒で頭を叩いて殺すことができる。


 武器として使えそうな木の棒を拾ってから、慎重に近づき猛っているイノシシとの距離を詰める。

 前足がワイヤーに引っかかっているのも大きく、俺に攻撃しようとしているがまとに動くことすら難しいような状態。


 そのお陰で何事もなく無事に近づくことができ、そのまま頭部目掛けて木の棒を振り下ろし、驚くほどあっさりとイノシシを気絶させることに成功。

 念のためもう一度頭を叩いてから、事前に作っておいた石のナイフで心臓を突き刺して絶命させる。


 ……よし。ひとまずこれで俺の身の安全は保障された。

 俺が小さいということもあるが、俺と同じくらいの大きさのイノシシに改めて恐怖を覚える。


 これでも中くらいのサイズだから、大きなサイズのイノシシがかかっていたら運ぶのは無理だったかもしれない。

 そんなことを考えつつ、まずはワイヤーの回収から行った。


 構造上、使い捨てのくくり罠だが、ワイヤーは今の俺にとっては貴重なもののため、持ち帰ってもう一度利用できないかを探るつもり。

 ワイヤーがかかっている足を石のナイフで切断してから、木に括りつけていたワイヤーを解く。


 ゴミから作ったものなだけあって、かなり汚れているしボロボロになっているが……何とかもう一度くらいは使えるはず。

 ゴミ山で拾った服で作った自作のホルダーに大事にしまい、後は殺したイノシシを巣に持ち運ぶだけだ。


 ただ、持ち帰るのが一番の難関といっても過言ではない。

 筋力的に厳しいものがあるため、急いで巣に戻ってバエルを呼んできた方がいいかもしれないな。


 何ならこのイノシシを狩ったことで勝負は勝ちのようなものだし、ゴブリン三匹にも手伝わせたいところだが、巣に運び込んで三匹のゴブリンが驚く顔が見たい気持ちのが強い。

 それにインパクトを与えなければ、約束したとはいえ俺のことをナチュラルに見下している三匹のゴブリンが素直に指示を従うようには思えないからな。


 一度、巣に戻ってバエルを呼び、工夫して巣に運び込むとしよう。

 イノシシの下処理も行いところではあるが、今は持ち運ぶことが最優先のため俺は急いで巣へと戻った。



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