第12話 勝負の行方


 バエルと一緒に協力して運び、狩ったイノシシをなんとか巣まで持ち帰ることができた。

 距離的には歩いて三十分くらいの場所なのだが、三時間くらいかかってしまったかもしれない。


 ゴブリンも汗をかくため全身汗だくになりつつ、今にも倒れそうなバエルに水を手渡す。

 ちなみに水を入れる袋もゴミ山から持ち帰ったゴミから作ったため、本当にゴミ様様といった感じだ。


「手伝わせて悪かったな。ただこれで勝負に勝ったと言っていい」

「うが?」


 バエルはいまいち分かっていない様子だが、何も分かっていないのにここまで手伝ってくれていたのは嬉しい部分がある。

 とりあえず今日の夜飯には、イノシシの内臓部分を食べる予定。


 オーガに献上する食材の量としてはイノシシ一匹は多すぎるし、内臓部分は献上する前に腐ってしまうからな。

 無駄をなくすという意味でも、内臓部分は自分達で食べてしまう。


「イノシシの解体は俺がやるから、バエルは少し休んでおけ。ゴブリン三匹が帰ってきたら、もしかしたら戦闘になるかもしれないからな」


 このイノシシを狩った訳だし可能性は低いと思うが、実力行使に出てくることも考えられる。

 何せ、ゴブリンは本当に知能が低いからな。


 バエルに身振り手振りで休むように伝えた後、俺は石のナイフを使って解体を始めた。

 放血は既に終わっているため、内臓は割りと綺麗な状態で残っている。


 焼肉にすれば、さぞ美味しく食べることができるだろう。

 食べるのは夜の楽しみとして心待ちにしながら解体を行っていると、巣に戻ってくる三匹のゴブリンが見えた。

 俺は余裕たっぷりに笑いながら、三匹のゴブリンに近づいて話しかけた。


「随分と帰りが遅かったな。今日も地道に山菜採りをしていたのか?」


 俺がそう声をかけると、三匹のゴブリンは後ろに転がっているイノシシを見て、口を大きく開けて固まった。

 こんな立派なイノシシを俺が持っていることにビックリしているようで、尚且つ新鮮なことから死体を拾ってきた訳ではないこともすぐに理解できた様子。


「……うがガ! ウがガガガ!!」

「何を言っているか理解できない。とりあえずこれで勝負はついたってのは分かるか?」

「うがガ!! うガガががガ!!!」


 焦っているのか興奮しているのか分からないが、最初に生まれた一番大きな体をしているゴブリンが食ってかかるように吠えている。

 言葉を扱えないから、意思疎通ができないのが本当にまどろっこしい。


「約束はどちらが多くの食材を取ってこられるかだったろ? 忘れたっていうなら別に今から武力で決めてもいい」


 血濡れた石のナイフを置き、拳を構えて三匹のゴブリンに近づく。

 昨日までなら間を置くこともなく襲い掛かって来たはずだが、倒れているイノシシを見ているからか動けていない。


 喚いていた一番大きいゴブリンですら、俺相手に怯んだ様子を見せている。

 ただ、更にもう一歩近づいたことで覚悟が決まったのか、手に持っていた野草の入った袋投げ捨て襲い掛かってきた大きなゴブリン。


 今日までまともに戦闘をしたことがなかったからか、ゴブリンの動きは本当にハチャメチャ。

 前と同じように拳を大きく振りかぶった隙だらけの攻撃を仕掛けてきたため、まずは顔面にジャブを入れて動きを止めてから、隙だらけのみぞおちに拳を叩き込む。


 筋力が圧倒的に足りないせいでゴミみたいなパンチではあったが、完璧にみぞおちに叩き込んだことで膝を着いて悶絶しているゴブリン。

 そんな一番大きなゴブリンを見下ろしながら、後ろに控えているゴブリンを睨みつけると、慌てた様子で頭を地面に着けると降参の姿勢を示してきた。


 生まれてから今日まで威張り散らしてきたのに、戦わずに降参なんて情けないと思ってしまうが、完全に屈服したなら痛めつける必要はない。

 降参したのであれば、今日から俺の下で働くことになるゴブリンだからな。

 悶えている大きなゴブリンが回復するまで待ち、呼吸が整ったところで巣の中でゆっくり話し合うことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る