第142話 NPC、どこも騒がしいようです

「うおおおおおおお!」

「これだ! これだあああああ!」


 今日も町の外は賑やかだ。


 相変わらず調味料を持ってくる勇者達にキシャが対応している。


「キシャ、ほどほどにやれよ」


『キシャ! キシャ!』


 キシャも勇者と遊べて楽しいようだ。


 鬼ごっこって逃げる方も、追いかける方も楽しいからな。


 攻撃してこようとするやつには、容赦なく反撃するように伝えてあるため、キシャの安全性はバッチリしてある。


 まぁ、今回に限っては勇者達の希望でキシャが鬼役をしている。


 ムカデの触覚がツノにも見えるから、鬼にも見えるだろう。


「じゃあ、また後で来るよ」


『キシャアアアアアアアア!』


 キシャから大きな返事が聞こえてきた。

 

 店に戻ると女性勇者達が列を成している。


「ヴァイトが帰ってきたわよ!」

「このために不眠不休でここまでプレイしたのよ」

「腐眠プレイヤーを舐めてもらっては困るわ!」


 店に入ると同時に女性勇者は窓から中を覗き込んでいる。


「すごい人達だな……」


 つい呟いてしまうほど、前よりも勇者の人数が増えたのが一瞬でわかる。


「全員アランに用がある人達だろ?」


「そうだが……こんなにお金をもらってもいいのか?」


 アランの背後には積まれたお金達。


 いつのまにかアラン達三兄弟はお金に困ることがないほど、勇者達にお金をプレゼントされていた。


 傍から見たら女性達からお金を搾取しているホストにしか見えないだろう。


 それも本人は全く無自覚だしな。


 ただ、相変わらずお金が必要なのは変わらない。


「筋トレはちゃんとやってきたか?」


 俺はアランに抱きつく。


 店に来る前に朝活として筋トレをしてくるように伝えてある。


 それにプレゼントをもらったお礼をアランはしないといけないからな。


 「くっ……」


 聖職者スキルも一緒に発動して、肉体の回復を早くさせる。


 無理な筋トレで炎症した筋肉を一瞬で超回復させると、少しだけ痛みが出てくる。


 本当はスキルをかけながら行えば、痛みは出てこないが自身で聖職者スキルが使えないから仕方ない。


「ギュフフフフフフ!」

「これよこれよ! このために私は三日も寝ていないのよ!」

「ああ、今日も仕事頑張れそうだわ」

「「「アラヴァ最高!」」」


 どうやら町の中も騒がしいようだ。


「勇者のおかげで私達もアランの魅力に気づいたわ」

「あの薄い本最高でした!」


 女性勇者に紛れて、商店街で働く女性も紛れていたようだ。


 慈善活動を始めて、町に勇者が増えたことでこんなに町の雰囲気が変わるとは思いもしなかった。


 町に活気が溢れるのは良いことだな。


「ほら、あんたも話してきなさいよ!」


 ラブに背中を押されたユーマがぶつかってきた。


 俺はアランとユーマに挟まれてしまったようだ。


「きたきたきたきたきたきたきた!」

「これが名物のアラヴァユマサンドウィッチですよ!」

「ああ、もう空が虹色に見えるわ」

「勇者様、最高です!」

「もう私結婚しなくてもいいわ」


 外はさらに騒がしくなっていた。


 気づいた時には女性達が隙間なく窓から覗き込んでいる。


「何かあったのか?」


「いや……」


 ユーマは少しモジモジしながらも、言いにくそうにしていた。


「俺とお前の関係だろ?」


「ダンジョンに行こうと――」


 ああ、外の声が騒がしくて聞こえにくい。


「なんだって?」


 俺はユーマの口元に耳を近づける。


「実はダンジョンに行こうと思ってな。店の手伝いができなくなる」


「「「いやああああああああ!」」」


 外の声で聞こえにくかったが、それよりユーマの言葉に俺はその場で崩れ落ちた。


 ユーマがいなくなるということは、アルやラブもいなくなるということだ。


 まだまだ三兄弟だけでは、仕事が回り切れないのが現状だ。


 そこに教える人もいなくなるって考えたら、絶望しかない。


 それにチェリーにあれだけ早く帰ってくると伝えている。


 今ここを離れたらいけないのは俺でもわかっている。


「ユーマとそんなに離れるのが嫌なのね……」

「アラン、今がチャンスよ!」


 そんな俺達を心配するように、外から視線を感じる。


 んっ……?


 ユーマ達が働けたなら、外にいる女性勇者達でも働けるような気がする。


――ガチャ!


 俺は扉を開けて、彼女達に声をかけることにした。


「ヴァユマもいいけど、アラヴァも捨てがたい」

「リバが地雷な私ですら決められないのよ」

「やっぱりここはサンドウィッチじゃないと無理よ」


 声をかけようにも、禍々しいオーラが出ているような気がして声をかけにくい。


 でも、俺のためにも手伝ってもらわないといけないからな。


「あのー」


 声をかけるとゆっくりと目のみ動き、視線が向いてくる。


 ただ、すぐに逸らして動きを止めた。


「私は壁です」

「私は窓ガラスです」

「私は虫です。いや、虫以下です」


 何度も声をかけてみるが、同じことばかり呟いている。


 まるでゲームに出てくるNPCみたいだ。


 あまりゲームをしたことはないが、何度話しかけても同じことしか言わないからな。


「あの人達急にどうしたんだ?」

「きっと寝不足なのよ。腐眠プレイヤーは遠くから見守るぐらいがいいのよ」

「あー、ああやって寝ているんだな」


 ラブに聞いたら、どうやら立ったまま眠っていると教えてもらった。


 さすが勇者って感じだな。


 寝る時も気が抜けないのだろう。


 それに寝言なら同じことを繰り返すのも仕方ない。


「それよりも工房を貸してくれる人はいたのか?」


「くっ……」


 まさかバカなユーマに痛いところを突かれるとは思いもしなかった。


 慈善活動をしているが、中々工房を貸してくれる人は見つからなかった。


 最悪ユーマに魔物の素材を詰め込ませて、ユーマとともに町に戻ろうと思ったがそれもできない。


「ユーマがダメならアランの教育が先だよな」


 しばらくはキシャの装備を諦めて、アラン達の教育が先になるだろう。


 これからの方向性が決まれば、あとは動くだけだからな。


「覚悟しておけよ。逃がさないからな?」

「はい……」


 アランの肩をそっと叩くと、戸惑いながらも頷いていた。


「ギュフフフフフフ!」

「ひょっとしてアラヴァがヴァラになるのかしら?」

「ヴァラ……それは薔薇ってことかしら!」

「「「いやあああああああん!」」」


 町の中も外も賑やかだが、どうやら俺も忙しくなるようだ。

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