第143話 NPC、鬼畜教職者になる

「思ってたよりも簡単だろ?」


「うっ……もういやだ……」

「おいおい、ルーを泣かすなよ!」


 上級職の教職者に転職してから、簡単な指導で効率的に結果が出るようになってきた。


 今は自分の手をナイフで切りながら、アラン達に聖職者スキルの使い方を教えている。


「ヴァイトさんが傷つくくらいなら、僕が切りますよ」


 ベンは自分でナイフで傷を作ると、俺の方を見てニコニコしている。


「これで僕もヴァイトさんと一緒ですね!」


「おっ……おう」


 ベンは女性勇者達に影響されたのか、ここ最近性格が変わってきた気がする。


「おい、ベンに何教えてるんだよ!」


「いや、俺は何も教えていないぞ?」


 ベンに関しては何か教えたつもりもない。


 学ぶのが大好きなベンが勝手にやっているだけだ。


 ポケットにはいつも俺が写った写真が顔を出している。


 思春期の頃って厨二病になるって言うぐらいだもんな。


「もう……やだよおおおおおお!」


 傷だらけの俺とベンをアランとルーが一生懸命聖職者スキルで治療していた。


 ルーは成長が早く、すぐに傷を治すことができている。


 少しずつ聖職者スキルを使えるようになってきたのだろう。


 社畜バイトニストへの道もあと少しってところだな。


 一方、アランは中々スキルが身につかない。


 元々ポーターをしていたのが、何か関係しているのだろうか。


 そんな俺もアランに効率の良い荷物の運び方を教えてもらったら、ポーターとしてのデイリークエストが出現した。


【デイリークエスト】


 ♦︎一般職


 職業 運搬人

 荷物を効率よくまとめて運ぶ 0/10

 報酬 ステータスポイント3


 どうやら扱いとしては一般職らしい。


 キシャと組み合わせたら、運送業みたいなことができそうだな。


 〝黒百足クロムカデの宅急便〟


 前世で似た名前の運送会社があったから、こっちにあっても変ではないだろう。


 ただ、運んでいるのは人間だ。


「よし、もう一回いくぞ!」


 俺達は何度も何度も同じことを繰り返す。


 その度にルーは声をあげているが、この行為も回数をこなせば見慣れるだろう。


 すでに店主達三人は黙って見ている。


 料理人は包丁で手を切ることが多いからな。


 きっと何も思わないのだろう。


「兄ちゃん、みんなおかしく――」


「俺もこれで聖職者スキルが使えるのか。自分で手を切れば練習はできるな」


 やっとアランは少しだけ聖職者スキルが使えたのだろう。


 今度は自分で指を切っている。


「あわわ……ゔぁいりゅゅゅ!」


 ルーは泣きながらヴァイルの元へ駆け寄った。


 ヴァイルはそんなルーの頭を優しく撫でている。


 我が家の弟は優しいからね。


 ルーもずっと訓練してて疲れてきたのだろう。


「いたいのなれりゅ! あしょぶときたいへんだよ?」


 ヴァイルはニコリと笑っていた。


 確かにたまに魔物と遊んでいるが、魔物は手加減ができないもんな。


 今のうちに痛みに慣れた方が良いってヴァイルも伝えたかったのだろう。


「それにむちゅよりいたきゅない!」


 今鞭って言ったか?


「「「鞭はないだろ?」」」

「お前って本当に鬼畜だな……」

「ヴァイトさん! 僕も鞭で――」


「さすがにそんなことはしないぞ」


 どうやら俺がヴァイルを鞭で叩いていたと勘違いしたのだろう。


 ひょっとしたら捕まっていた時に、鞭で叩かれていたのかもしれない。


 尚更、誘拐や奴隷売買を止めないといけないな。


 そう思うと、鞭を持っている幼女もどきはしっかり教育が必要な気がする。


 幼い時の経験が大人になってからも左右されるって言うぐらいだ。


 このままだと鞭を持ったセーラー服を着たおじさんに成長するだろう。


「ルー、がんばる」


 ルーもヴァイルに言われてやる気を増したようだ。


 再び訓練に戻ると、店内に焦った表情の部下達が帰ってきた。


「ボス! 大変です!」


 血だらけなところを見ると、何かに巻き込まれたのだろうか。


「何かあったのか?」


「傷だらけの勇者達が町に溢れています!」


 慈善活動をしていると、町の外から傷だらけの人達が町にやってきたらしい。


 ほとんどが勇者ばかりで、異変を感じて俺に報告しにきた。


 勇者って言ったら俺の顔が思いついたのだろう。


 確かに店の前には女性勇者達が張り付いているからな。


 だが、こんなチャンスを見逃すことはできない。


「ははは、報告ありがとう」


 俺は笑いが止まらなかった。


 町には傷ついた勇者達。


 目の前には聖職者スキルを学んでいる三兄弟。


 そして、俺は絶賛慈善活動に励んでいる。


 これはどこからどう見てもチャンスだろう。


「お前らすぐに行くぞ!」


 俺は三兄弟を連れて、勇者達の治療に向かうことにした。


 あいつらすぐに死ねば良いと思っているほど、命を軽く見ているやつだからな。


「あいつどんどん悪い顔をするようになってないか?」

「本当に俺らの料理を食べて、泣いていたやつとは思えないな」

「忘れたのか? いきなり無断で壁を壊したやつだぞ?」

「「あっ……元々か」」


 店主達は心配しているのかジーッと俺を見ていた。


 夜の営業まであまり時間もないからな。


「ついでに宣伝もしてくる!」


 ちゃんと宣伝もしてくるから問題ない。


 その言葉を聞いて店主達も笑顔で仕事に戻っていった。

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