第141話 NPC、慈善活動はイベントです ※一部課長視点

 慈善活動を始めてから、次の日には効果が出てきた。


「ヴァイトさん、ナツメを持ってきました!」

「ありがとう」

「クコの実も――」

「そっちはたくさんあるからいらないな」

「そうですか……」


 なぜかそのお礼として勇者達がプレゼントをくれるようになった。


 慈善活動って何をすれば良いかわからないが、勇者の求めることをすれば慈善になると言われた。


 こういう時はバカなユーマでも頼りになる。


 決して人を脅してプレゼントをもらっているわけではないからな。


 勝手に向こうからお礼をしてくれるだけだ。


「アランさん、この服を着てもらってもいいですか?」


「いや、俺は……」

「それぐらい着てやれよ。慈善活動だぞ」

「どうせまたヴァイトに抱きついて欲しいとかだろ?」


 女性勇者達はアランに詰め寄り、何かを手渡していた。


 すぐに着替えると、部下達のようなスーツを着ていた。


「これを着て意味があるのか?」


 俺に近寄ってくるアランのネクタイを掴む。


 そのまま勢いよく引き込むと、アランはバランスを崩していく。


「うぉっとっとっ!」

「ほら、これも活動の一部だ。かかってこいよ!」


 アランは俺を壁際に追い込んだ。


「だいぶ肉体も変わってきたな」


 しっかりご飯を食べるようになって、アランは以前よりも身長が伸びて大きくなった。


 体格もがっしりとしている。


 服をチラッと捲るが腹筋もしっかりしてきた。


 教えた筋トレは今も続けているのだろう。


 女性勇者側から俺の姿はアランに隠れて見えない。


 これで腹筋を見ているのもバレないはず。


 これも身長差があるからできることだ。


 一連の流れはラブから慈善活動の一環でするように言われている。


 大袈裟に友達と仲良くしているだけで、女性勇者には大喜びの慈善活動になるらしい。


「デュフフフフフフフ!」

「2.5次元最高よ!」

「強気受けのヴァイトも捨て難いわね!」


 アランと戯れているのが、なぜ慈善活動になっているのかはわからない。


 ただ、変わった声を出すほど喜んでいるのなら、俺も嬉しくなる。


 人のために何かをやるって、前世ではできなかったからな。


「これで大丈夫でしたか?」


 アランは女性達に近づくと、袋に入ったお金をもらっていた。


「もうこれはお布施よ! お布施!」

「いくら課金しても足りないわよ」

「あれだけ必要なかったお金をここで使うとは思わなかったわ」


「ありがとうございます」


 どうやら人によってお礼が変わるらしい。


 俺はクコの実やナツメと言った、あまり手に入らない調味料。


 一方のアランはお金をプレゼントされている。


 お金に困っていたアランは現実的な思考の持ち主のようだ。


 生活するにはお金が必要だから仕方ない。


「ベンくんにはいくらでもプレゼントしてあげるね」

「どんどん布教して欲しいわ」

「ヴァベングッズも用意してあげるわね」


「ヴァイトさんと一緒になれるなんて感激です!」


 女性勇者にもらったプレゼントを大事そうにベンは抱きかかえていた。


 俺のグッズなんていつのまにできていたのだろうか。


 写真のようなプロマイドカードやアクリルスタンドなど様々なものが存在しているらしい。


「ルーはおともだちがほしい!」


「んー、それは俺達ではダメか?」


「もうともだちだもん!」


 ルーはお友達が欲しいようだ。


 それはどうやってもプレゼントはしてくれないだろう。


 こうやって少しずつ町の中での慈善活動が広がっていく。


 それに俺だけではなく、部下やグスタフまでプレゼントをもらっているらしいからな。


「ヴァイトさん、いつから訓練に行きますか?」

「この間は顔面から落とされたので、今度は鬼ごっこですかね?」

「最近話題になっている地獄の暴走機関車の乗ってみたいです!」


 勇者って変わった行動しかしないから、何をしたいのか全くわからない。


 調味料をもらったお礼に俺も慈善活動をしてくるか。


「じゃあ、行くか!」


「「「はい!」」」


 俺は男性勇者達を連れて町の外に向かった。



「おい、長谷川!」


「課長から声をかけるって珍しいですね」


「当たり前だ! なぜ人族のイベントだけ仕様が変わっているんだ!」


 今回、部下の長谷川に任せたNPCの好感度を上げるプレゼントイベントが始まった。


 開始して2日目だがすぐに異変が起きている。


 今回のイベントはそもそも上位職への転職に必要な好感度を一定値まで上げるために用意したイベントだ。


 好感度がないとNPCが転職方法を教えてくれないからな。


 それなのに人族だけ全く好感度が上がらない。


 むしろプレゼントを渡すというよりは、物々交換のようなことをしている。


 それもまた人族で忌々しいNPCであるヴァイトを中心に始まっていた。


 他の種族には上位職のプレイヤーが誕生しそうなのに、人族にはその兆しがない。


「何か修正案はあるのか?」


 こういう場合は、強制的にプレイヤーである勇者が目立つイベントを挟んで町の人からの好感度を上げる。


 だが、この町には邪魔をするあいつがいるからな。


 過去に修正を加えようとしても、全て阻止されてしまった。


「ははは、特にないですね!」


「はぁー」


 俺は大きなため息を吐いた。


 プレゼントイベントをわずか2日で終わりを迎えるとはな。


「じゃあ、イベントはここで終わり――」


「それはさせません。今ここで終われば全発酵プレイヤーを敵に回しますよ。ただでさえ、課金要素が少ない中で、ここぞとばかりに今課金していますからね。お布施をなくしたら、このゲーム終わりです」


「ああ、そうか……」


 勢いよく説得させられたら、俺からは何も言えない。


「しばらくはこのまま様子を見ましょう。まだイベントが始まって2日目ですからね!」


「対策案は考えておけよ……」


 そもそもあいつにイベント企画を任せたのがいけなかったな。

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