第140話 NPC、偽善結社を作る

 商業ギルドから店に向かうと、なぜかベンとルーが店の前に立っていた。


「お前達どうし――」


「ヴァイトさん!」

「ちゃちく!」


 俺の顔を見た瞬間、飛びつくように近づいてきた。


「また会えるとは思わなかったです」

「さみしかった!」


 すぐに戻ってくるつもりだったが、ベンとルーは長い間帰って来ないと認識していた。


 普通の馬車では、片道で数日はかかるため往復するのを考えると、早くても一カ月は会えないと思っていたのだろう。


 実際は5日も経たずに戻ってきているからな。


 それにしてもやけに店内が騒がしい。


「おい、こんなんでいいのか?」

「ボスに怒られないか?」

「早くボスに会いたいぜ!」


 どこかで聞いた声がチラホラと聞こえてくる。


――カラン!


「ただいま――」


「「「「ボス! おかえりなさいませ!」」」」


 一列に並んだスーツを着た男達が、一斉に深々と頭を下げた。


 俺は店を間違えたのだろうか。


 これがメイドカフェ……いや、ヤクザカフェだろうか。


 せめてコンセプトカフェに方針を変えるなら、執事カフェにするべきだ。


 まぁ、こいつらが執事を演じられる気がしない。


「どういうことだ?」


 一人の男が前に出てきて姿勢を正す。


「ボスのために力を合わせようと、俺達は一致団結しました」


 だが、俺とは目線を合わせず、まるで従順さを示すかのようだ。


「なぜ、お前がいるんだ?」


 ヤミィー金庫で働き、アラン達三兄弟を監視していた男がいた。


「一生ボスに付いていくと、あの時に心に誓ったんです!」


 キラキラと光る視線が俺に向けられる。


 表はカミィー銀行、裏はヤミィー金庫を壊滅させた後に、自分の好きなように生きろとは伝えた。


 だが、こんなことになるとは誰も思わないだろう。


 俺も全く思っていなかったからな。


 まるで俺が組長みたいじゃないか。


「お前達がいてお客さんは減っていないか?」


「えっ……あー」


 次第に滲み出る汗が今の状況を物語っているのだろう。


「お前ら全員クビだああああああ!」


 店内に俺の声が響く。


 クビと言われ男達はその場で崩れていく。


「おいおい、その辺にしてあげろよ」

「こいつらも頑張ってたぞ?」

「そもそもお前の弟子だし、雇った覚えもないぞ?」


 グスタフ達は何を言っているんだ。


 俺はこんなバカでヤクザみたいな弟子を持つつもりはない。


「クビになるなら俺達はいらないですね……」


――ガシャ!


 男達の手には武器が握られていた。


 こいつらはどこから武器を取り出したのだろう。


 反撃をしてくると思い、武器を構えるが予想は違っていた。


「お前ら、ボスのために命を捧げるぞ!」


「イエッサアアァァァ!」


 自ら剣や斧で自分達の腹部を刺そうとしていた。


 俺は呪術師スキルを使い、男達の動きを封じる。


 俺がクビって言っただけで、自分達の命を絶つ気なのか。


 生きたくても生きられなかった俺からすると、怒りが沸々も湧き出てくる。


 いくらバカなユーマでもこんなことはしない。


「死ぬぐらいなら俺の役に立ってから死ね!」


「イエス! ボスウゥゥゥゥ!」


 男達の声が一つになって店内に響く。


 これで自殺行為を止められるなら、多少の代償は仕方がないだろう。


 再び武器をどこかに入れると、熱い視線が俺に集まる。


「「「鬼畜だな」」」

「やっぱり鬼畜だね」

「ヴァイトさん、かっこいいです!」

「ちゃちく!」


 どうやら社畜から鬼畜に転職したようだ。


 それに俺が商業ギルドで工房が借りれなかった理由がここにきてわかった気がする。


 こいつらのボスとして認識されていたら、誰も工房を貸したいとは思わないだろう。


 どれもこれも全てこいつらのせいだ。


 今すぐにでも安全な奴らだと、知ってもらう必要がある。


「お前ら、今から慈善活動を始めろ!」


偽善・・活動ですか?」


「そうだ! 町の人達のためになることを積極的にやるんだ!」


「イエッサアアァァァ!」


 部下達は店から出ると、すぐに街へ向かっていく。


 すぐに動けるやつは成功すると、社長ばかり出ている番組で言っていたな。


 きっと良い集団に成長するだろう。


 これをきっかけに俺もボランティア活動に積極的に参加することにした。


 後にこれが社畜による偽善行為をする秘密結社、〝偽善結社〟として、運営達の記録に残ることとなった。


---------------------


【あとがき】


更新遅くなってすみません。

ストックがないため、旅行中にヒソヒソと執筆してます笑


「ねえねえ、お兄ちゃんってやっぱりおかしいよね?」

「しょう?」

「なんというか……普通の人じゃないというのか」


 ヴァイルは何かを思いついたのか、箱を持ってきた。


「おほちちゃまとれびゅーがたりにゃいからだよ」


 どうやら★★★とレビューが足りないから、ヴァイトはおかしいようだ。


「それでどうにかなるの?」

「うん! ちゃちくがおちえてくれた!」

「なんかそれも怪しいわね」


 そう言いながら二人で箱を持ってきた。

 ぜひ、★★★とレビューを集めてヴァイトを普通の人間に戻そう。


「俺……幽霊じゃないぞ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る