第139話 NPC、町の噂に悩まされる
洞窟を出た俺はすぐに町に向かっていく。
「ちゃちく、まもにょ!」
突然出てきた魔物に弓矢を放とうとしたが、どこかへ向かって走っていった。
あれは何かから逃げているのだろうか。
それとも呼ばれているのかはわからない。
ただ、倒さなくても良いなら楽だな。
しばらくキシャを走らせると数日ぶりに帰ってきた。
町は相変わらず賑やかで変わりない。
変化があるとしたら、ユーマ達以外の勇者が数人いるようだ。
そのほとんどが指導したやつらだな。
「ヴァイトさん、新しいお仕置きをお願いします」
「ぜひ、俺達を強くしてください!」
「早く上位職に転職したいんです」
「なんでもここにNPCカップリングがいるらしいよ」
「ヴァユマより?」
「もうとにかくイケメンらしいのよ」
「ぐふふ、ヴァイトのサンドウィッチね」
俺に声をかける勇者もいれば、遠くからチラチラと見て女子会をする勇者もいる。
ただ、どちらもギラギラした目で見ているから、すぐに気づいてしまう。
「ちゃちく、いちょがちいの!」
「やることがあるからすまないな」
「「「すみません!」」」
頭をすぐに下げる勇者達。
以前は勝手な行動ばかりして、町の人に迷惑をかけていたが、今はそんな素振りはない。
ちゃんと教育した成果だろう。
「おみちぇにきてね!」
「お店ですか?」
そういえば、勇者達にこの町で働いていることを教えていなかったな。
知っているのはユーマ達だけだ。
「この先で友達と働いているから、ぜひ来てくれ」
「「「はい!」」」
本当に同じやつらなのかと思うほど素直だな。
一応近くにいる女性勇者にも手を振っておいた。
「ぎゅふふふふふ」
「じゅるるるるる」
「あそこでサンドウィッチ……」
やっぱり勇者は変わっているやつが多いな。
俺は店には顔を出さずに、そのまま商業ギルドに向かった。
この町の冒険者ギルドには通っていたが、商業ギルドには一度来てから顔を出していない。
商業ギルドに入ると、なぜか視線が集まってくる。
俺がいない間に何があったのだろうか。
「おい、あいつって話題のやつじゃないか?」
「なんだっけ……」
「「鬼畜!」」
「ちゃちく!」
「おっ……おう」
「ちゃちくだな」
耳の良いヴァイルは何かを伝えているようだ。
きっとお店の宣伝でもしているのだろう。
三兄弟のお店が好きだからな。
「ちゃちく! ちゃちく!」
ヴァイルはその後もみんなに何か宣伝しているようだ。
俺は優しく頭を撫でると、嬉しそうにもふもふの尻尾を振っていた。
肩車をしているため、たまに視界の邪魔になっているが、可愛い弟の尻尾だから気にならない。
むしろもふもふして癒される。
受付を見つけた俺はキシャの装備が作れる工房がないか確認することにした。
「魔物に取り付ける椅子を作りたいんだが……」
「魔物に……取り付ける椅子?」
受付をしてる商業ギルドの職員は首を傾げていた。
俺は間違ったことを言っているつもりはない。
ただ、ずっと説明しているのに、どうにも伝わらないようだ。
「工房を借りられたら――」
「工房ですか? それなら直接工房を持っている人と交渉が必要になりますね」
どうやら商業ギルド管轄の工房はなく、直接借りる必要があるらしい。
その辺はどこの町も同じようだ。
「あのー、工房を――」
「ああ、今は難しいな」
「工房を――」
「すまない。弟子達でいっぱいなんだ」
誰かに声をかけようとしても、逃げられるか工房がいっぱいだと断られてしまう。
きっとボギーやブギーのように、関係を深める必要があるのだろう。
「ちゃちく、おなかちゅいたよ?」
「まだお昼を食べていないもんな」
朝から町に向かったが、時計を見るとすでにお昼を過ぎていた。
ちょうどお店も暇になったころだろう。
一度グスタフ達に相談することにした。
「おい、あいつがカミィー銀行を乗っ取ったやつだろ?」
「いや、俺はヤミィー金庫のボスだって聞いてるぜ?」
「はぁん? 俺は魔王だって聞いてるぜ?」
「「……」」
「どちらにしろ――」
「「「店を守らないといけないな!」」」
「ちゃちく、いいこいいこ!」
なぜか商業ギルドを出てからも、俺はヴァイルに頭を撫でられていた。
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