第135話 NPC、材料を探しにいく ※一部別視点

「すぐに帰ってくるからいいか?」


「そう言ってしばらく帰ってこないんでしょ?」


 俺は正座をしながらチェリーにジーッと睨まれている。


 別に悪いことをしたわけではない。


 ただ、町の外に少しばかり出かけようとしただけだ。


「いや、今度こそすぐに帰ってくる。材料を集めてくるだけだからな」


「本当に?」


「ちゃちく、うしょちゅかないよ!」


 今回ばかりはヴァイルも一緒に頼んでくれているようだ。


 ウルウルした目で頼まれたら、チェリーも嫌とは言えないだろう。


 キシャに乗って旅行に行くことは決まったが、ヴァイルにこのままだと行けないと言われた。


 どうやらバビットやチェリーだと、移動の途中で落ちるかもしれないとヴァイルにアドバイスされた。


 縄で縛れば良いと思ったが、それだと長時間は難しいようだ。


「わかったよ! 椅子がないと私も行けないから仕方ないね」


 そこで結局キシャの装備を作ることにした。


 イメージは亀の甲羅みたいなところに椅子が付いているような感じだ。


 キシャの移動では振動もあるため、しっかり固定できる椅子も必要になる。


 いくらキシャにゆっくり走れと訓練してもダメだったからな。


 あとは物を使ってどうにかするしかない。


「それでどういう椅子を作る予定だったの?」


「普通の椅子じゃダメなのか?」


「はぁー、それだと乗り物酔い……いや、キシャ酔いしちゃうじゃない!」


 振動を減らせる椅子を作らないといけないようだ。


 すぐにHUDシステムを使ってチェリーは調べる。


 俺のシステムとは違って、勇者達のは便利な検索機能付きだからな。


「スイング式の椅子にしたらどうかな?」


 チェリーはHUDシステムを俺に見せてきた。


「魔物の骨や皮、木材を使ってジョイントを作って、椅子の脚部分に組み込むことで前後左右に動きを相殺するのはどうかな?」


 たしかにチェリーの言う通りに作れば、振動は少しでも減らすことができそうだ。


 それに解体師のスキルを使えば、魔物の骨や皮はすぐに手に入る。


「あとは椅子を吊り下げるサスペンションも必要かもね」


 イメージとしては装備の角に脚を作り、その先に椅子を取り付けるサスペンションをつけてハンモックのような形で椅子を固定していくようだ。


 これなら左右前後の動きを脚のジョイント、縦の動きを椅子のサスペンションで、振動はかなり減らせるらしい。


 ただ、俺にジョイントとサスペンションが作れるだろうか。


「チェリーって頭が良いんだな」


「これは私じゃなくてAIシステムでアイデアを検索してもらっているの」


 勇者のHUDシステムには、検索だけではなく作り方も教えてくれる機能があるらしい。


 俺のはステータス値しか見えないからな。


「俺に作れるかな?」


「お兄ちゃんにできないことあるの?」


 それを言われたら兄としてやるしかない。


 俄然やる気が出てきた。


「じゃあ、いない間の店をよろしくね!」


「わかったから行っておいで!」


 俺はチェリーに見送られてすぐに町を後にした。


「はぁー、また緊急クエストか……」


 小さな声でつぶやいていたが俺には聞こえなかった。



 俺は再びヴァイルとともに三兄弟がいる町に戻っていく。


 あそこであればしっかりとした魔物の素材が集まりそうだからな。


 魔物を倒しても勇者がいなければ、材料は持って帰れないため、まずは町で工房を貸してくれそうな人を探そう。


 そこですぐに作ってキシャに装備させれば問題ない。

 

「ちゃちく、あれ!」


 途中でヴァイルはどこかを指さしていた。


「ひょっとして……」


 そこにはこの間見た洞窟があった。


 確かにこの辺だったからな……。


 洞窟にはレイスと呼ばれる幽霊型の魔物が生息しており、俺としては行きたくはない。


 ただ、ヴァイルがキラキラした目で見つめてくる。


「行きたいのか?」


「うん!」


 弟に言われたら仕方ないだろう。


 悪霊退治だと思えば、人助けにもなりそうだからな。


 レイスは聖職者のスキルであれば倒せると聞いている。


 ゆっくりと洞窟に足を踏み入れる。


『初級ダンジョン――』


 やっぱりレイスの声が聞こえてきた。


「「わああああああああ!」」


 洞窟に入った瞬間から聖職者スキルを発動させながら、大きな声を上げる。


 ずっと声を発していたら、自分の声が跳ね返りレイスの声は聞こえなくなる。


『おい、ちゃんと話を――』


「「わああああああああ!」」


 少しは聞こえてくるが、自分達の声でかき消されている気がする。


 これなら幽霊退治も怖くないはずだ。


「「うおおおおおおおおお!」」


 俺は足に力を入れて洞窟の中を走っていく。



 今まで誰にも見つからなかったダンジョンにやっと訪問者が現れた。


 久しぶりの訪問者……いや、100年は誰も来なかったな。


 たくさんの罠に魔物を配置すれば、今度こそダンジョンとして名を上げることができる。


 そう思ったのに、この間はすぐに帰られてしまった。


 訪問者は少し変わったやつな気がしたけど、今度こそうまく行く気しかしない。


「お前達、準備はいいか!」


「「「「ハイ、マスター!」」」」


 目の前には俺が召喚した魔物達が並んでいる。


 ゴブリンやコボルト、スライムにラットンとこれだけ揃えたら問題ない。


「初めての任務楽しみだな」

「オレ様がぎったんぎったんにしてやる!」


 ゴブリンとコボルトはやる気満々のようだ。


 前に召喚した魔物は寿命が尽きて、今のやつらは戦ったことすらないからな。


 外で訓練でもさせようと思ったが、外は危険がいっぱいでやめた。


「絶対やつらを倒して、ダンジョンの栄養にするんだぞ!」


「ハイ、マスター!」


 勢いよく飛び出した魔物の部下達。


 やっと有名なダンジョンになるという夢が叶うのだろう。


 そう思っていたのに……。


 あんなに恐ろしい悲劇が起こるとは、この時は思いもしなかった。


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【あとがき】


「ねえねえ、お兄ちゃんってやっぱりおかしいよね?」

「しょう?」

「なんというか……普通の人じゃないというのか」


 ヴァイルは何かを思いついたのか、箱を持ってきた。


「おほちちゃまとれびゅーがたりにゃいからだよ」


 どうやら★★★とレビューが足りないから、ヴァイトはおかしいようだ。


「それでどうにかなるの?」

「うん! ちゃちくがおちえてくれた!」

「なんかそれも怪しいわね」


 そう言いながら二人で箱を持ってきた。

 ぜひ、★★★とレビューを集めてヴァイトを普通の人間に戻そう。


「俺……幽霊じゃないぞ?」

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