第133話 NPC、キシャに色を教える
旅行のために俺はすぐにキシャの装備を整えることにした。
まずは鎧のサイズを合わせるところから始めないといけないな。
「キシャー!」
『キシャ?』
外に出て呼ぶとキシャは呑気に門番と遊んでいた。
町の人も少しずつなれて来たのか、キシャを見ても何も思っていないようだ。
チラッと俺をみると勢いよく走ってくる。
「何をしていたんだ?」
「どこに隠れているのかを当ててました」
キシャは近くの森に行くと、体の色を変えて擬態する。
木や葉、土にまで色を変えるためどこにいるのか分かりづらくなる。
しばらく放置していた間に生きる手段として身につけたのだろう。
今はそれを使って門番と隠れん坊みたいな遊びをしていたようだ。
「キシャに装備を着けたいんだが、どういうのが良さそうかな?」
『キシャー?』
ツルツルのボディに何かを取り付けるのは難しいため、リュックサックのように手足に固定させる形にはなるだろう。
そうすると自然と甲羅みたいな形になりそうだな。
キシャも考えているようだが、中々案が出てこないらしい。
体全体を傾げていた。
「体の色を擬態できるなら別に大丈夫じゃないか?」
言われてみれば擬態できるなら、カッコ良くはなりそうだ。
「今は何色になれるんだ?」
『キシャ!』
キシャは大きく返事をすると色が徐々に変化していく。
「おー、迷彩柄にもなるんだな」
『キシャ! キシャ!』
褒めて欲しいのか相変わらず頭で頭突きをしてくる。
ただ、迷彩柄で走っていると事故になりそうだな。
魔物にぶつかる分には問題ないが、馬車にぶつかったら相手に迷惑をかけてしまう。
いくつか擬態してもらったが、どれも自然に特化した色味でしかなかった。
もっと派手な色があれば見分けがつきそうだが……。
そもそもキシャは何を判断材料にして、擬態をしているのだろうか。
「色がわかれば擬態できるのか?」
『キッ……キシャ?』
本人もわかっていないのだろう。
いつのまにかできていたことなら、何か理由があるはずだ。
俺はとりあえず短剣で指を切ってみた。
わからないならやってみればいいからな。
『キシャアアアアアアアア!』
だが、キシャは俺の指を見て動揺していた。
オジサンよりも叫んであたふたとしている。
「まだ足りないのか?」
全然体が赤くならないため、さらに深く手全体を切ってみる。
正直めちゃくちゃ痛いが、擬態に必要なら仕方ない。
『キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
あまりの大きな声に俺は騒然としてしまった。
俺の周りをクルクルと回るキシャ。
何度も何度も俺に頭突きをしてくる。
「おい、どうしたんだ?」
「大丈夫か?」
何事かと思ったのか町からもたくさん人が集まってきた。
「お前ご主人様に何やったんだ!」
ムカデに囲まれた血だらけの俺。
町の人達は何を勘違いしたのか、すぐに戦えるように構える。
本当に優しい人達ばかりだ。
ただ、手にフライパンやお玉じゃいくらなんでもキシャには勝てないだろう。
それに門番が一部始終を見ているため、すぐに町の人を止めていた。
「お兄ちゃん何やっているのよ!」
「大ケガしているじゃないですか!」
出かけていたのかタイミングよく、チェリーとナコが人混みの中から顔を出してきた。
すぐにナコが駆け寄ると回復スキルを発動させる。
しっかり訓練をしているのか、傷は綺麗に塞がっていく。
『キッ……シャアー』
キシャも落ち着いたのか、その場でへたり込んで俺の体に巻き付いている。
まるで俺を離さないと言わんばかりの行動だ。
まだ俺は天国に行くはずがない。
そもそもこの世界に生まれ変わったばかりだからな。
優しく頭を撫でると嬉しそうに頭突きしてきた。
相変わらず石頭なのか痛いな。
「お兄ちゃん何してたの?」
「ああ、キシャが擬態できるっていうから試していたんだけど色が地味だったからさ」
キシャは二人に見せようと体の色を変化させていく。
次々と色を変えていくキシャに二人は拍手をしていた。
あれ?
ひょっとして色に対しての問題はないのだろうか。
見た目が気持ち悪いからどうにかしようと思ったが、思ったよりも二人は馴染んでいる。
「ヴァイルさんは赤色になって欲しかったんですか?」
「やっぱり赤いとかっこいいし目立つだろ?」
俺の言葉にキシャも含めて誰も反応がない。
赤色って結構良いと思ったけどな。
「あれって異常運転? 赤色を見せるために手を切ったんだよな?」
「もはや異常を超えて狂気だよね……」
また二人でコソコソと話している。
また何か間違えてしまったのだろうか。
「赤色なら色々あると思いますが、これとかどうですか?」
ナコはHUDシステムから何かを取り出した。
【鑑定結果】
アイテム名:
効果:鎮痛や血行促進、炎症抑制の効果がある漢方。
見た目が落ち着いたベージュに赤が混じった色の漢方のようだ。
「真っ赤ではないですが、少し近い色なのかと思いますが」
「これはどうだ?」
俺はキシャに見せるとじっくり凝視している。
次第に体の色が変化し、気づいた時にはピンク色に染まっていた。
どこからピンク色が出て来たのだろうか。
「すごい派手な色味をしていますね」
「ははは、ギャルになったね!」
『キシャ……』
見たこともない色にキシャも戸惑っているようだ。
濃いピンク色って中々この世界で見ない色だもんな。
こんな姿で外にいたら、魔物に倒してくださいと言わんばかりの姿だろう。
「そのまま色を変えてみたらどうだ?」
門番に言われた通りにキシャは色を変えていく。
ただ、考えていたのはさっき見せた血のような赤色だったのだろう。
「なんか殺人列車みたいになったな」
「さすがにこれはあぶないですね」
元の黒い体に体の一部分だけ赤く染まり、血飛沫が飛んだような色味になっていた。
『キシャ! キシャ!』
ただ、本人は俺が求めた色になったことを喜んでいるのだろう。
――ドスッ!
さっきから撫でろと頭突きをしてくる。
ずっと鈍い音が響いているからな。
「お兄ちゃん……生きてる……?」
「まるで殺害現場ですね……」
その光景がさらに殺人列車に見えるのだろう。
しばらくはキシャにピンク色のギャル仕様で、この世界の交通機関として働いてもらうことにした。
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