第131話 NPC、奥さん候補が多い
「おっ、ヴァイト久しぶりだな!」
「いない間に奥さん候補がたくさん来てたぞ!」
「師匠の俺達には奥さんがいないのにな……」
「「「はぁー」」」
久しぶりに店の営業をしていると、相変わらず冒険者達は店を集まりの場に使っているようだ。
変わりなく元気そうだが、俺の奥さん候補とはなんだろうか……。
「奥さん候補ってなんですか?」
「ああ、この間から外に女性達が集まっていたんだ」
「正確に言えばヴァユマ目当てで、ここで働きたいって集まってきた勇者達ですね」
調理場に戻った俺はバビットに確認した。
俺がいない間に勇者達がバビットの弟子入りがしたいと集まってきたらしい。
勇者は二つの才能があり職業に就くことができたが、神のお告げで実は三つ目の才能が開花したらしい。
俺は
器用貧乏ってやつだからな。
「そのせいで私も忙しかったんだからね!」
「ごめん」
そんな俺をチェリーはジーッと見つめ……いや、あれは睨んでいるな。
普段の営業と勇者達の対応に追われたことで、チェリーは疲れ切っていた。
「私はその時に誘われたので、料理するのも好きだからバビットさんの弟子入りをしました」
人数的に雇う余裕もなく、目的も曖昧だから断ったらしい。
そこでタイミングよくチェリーがナコと出会って頼み込んだらしい。
「オジサンは手伝ってくれなかったのか?」
「飲食店に動物って衛生的にダメでしょ。毛が入る可能性もあるし」
「それにあいつはおじさんだからな」
「アニマルカフェとして魅力が欠けますからね」
「アァー! ワッシの悪口かああああ!」
お尻を掻きながらオジサンがこっちを見ていた。
たしかに体を掻いた手で手伝われても困るのは店側だ。
ちなみにオジサンの縄はチェリーが結び直してくれたらしい。
今も勝手なことをしないように店の柱に縛られている。
そういえば、縛って欲しいと女性の声が最近聞こえていたが、あれも幽霊の仕業だったのか。
こっちに来てから全く声が聞こえないな。
「本当にすまなかったな。代わりに美味しいものを食べさせてあげるからさ」
「美味しいもの?」
「良いレシピをもらったからな」
美味しいものを食べたら、嫌なことも忘れるだろう。
それでもダメなら首の後ろをトンッと叩けば一安心。
ユーマもすぐに忘れて一撃で済んだからな。
「注文いいかー!」
「はーい!」
「じゃあ、あと少し頑張るぞ!」
俺は張り切って仕事に戻っていく。
お客さんが帰ると、すぐに準備中の看板を出して昼休憩に入る。
「それで美味しいものってなんだ?」
あれ?
チェリーとナコの機嫌を取ろうとしたのに、バビットが興味深そうに聞いてきた。
そこはさすが料理人ってところだな。
一方、二人は疲れているのか机に顔を伏せていた。
「次のイベントのあれってどういうことだと思う?」
「NPCにプレゼントって、ここのお店忙しくなりそうだね」
二人は俺をジーッと見たと思ったら、大きくため息を吐いていた。
よほど疲れが溜まっているのだろう。
久しぶりにウェイターと料理人を同時に行ったが、思ったよりも大変だった。
最近までは頭を動かすことに特化していた。
それを同時に処理しながら、体を動かすって難しいからな。
人に教えてばかりで怠けていた証拠だ。
「バビットさんの弟子達から、レシピを授かりました」
俺は三冊のレシピ本を出す。
「うぉー、これでレパートリーが増えるな」
チラッと二人を見るが、コソコソと話してやはり食いつかないようだ。
あれが女子会ってやつだろうか。
バビットだけ目の前で瞳を輝かせているからな。
「おい、これ簡単には作れないぞ?」
「えっ?」
一度中身を見たバビットはレシピ本を渡してきた。
手渡されたのは、和食を作っていた薬膳料理人のサトウのレシピだ。
【薬膳茶碗蒸し】
材料 (二人前)
卵 2個
だし 300ml(昆布がおすすめ)
ナツメ 2個
クコの実 大さじ1
鶏ささみ 50g
しいたけ 1枚
ほうれん草 少量
中には聞いたこともない材料が書かれていた。
「グスタフとハンもこの辺では珍しい調味料とか材料があるぞ?」
レシピに近い材料は揃えることができそうだが、薬膳茶碗蒸しではなく普通の茶碗蒸しになりそうだ。
それにしてもクコの実も何かわからないし、ナツメって……人間か?
小学生の時にそんな名前の女の子がクラスにいた気がする。
「まずは材料を集めるところからですね……」
「そう、落ち込むなよ。俺の手料理も食べたいだろ?」
バビットの手料理を食べるのも久しぶりだな。
しばらくは材料を集めながら、店のレパートリーを増やすことにしよう。
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