第130話 NPC、実家に帰ってきた

 幽霊に出会うと優雅な旅も恐怖へと変わる。


 何かに怯えて焦っている俺を見て、キシャも何事かと思いすぐに走り出した。


 魔物や勇者もいた気がするがお構いなく走り続けた。


 ああ、キシャの上に乗らずに俺の足で走ったが、自分で走った方が速いのかもしれない。


 気づいたら3時間ぐらいで帰ってくることができた。


 もう少し時間がかかると思ったが意外にも近いようだ。


「おっ、ヴァイト久しぶりだな! そんなに急いでどうしたんだ?」


「幽霊が出たんです!」


「幽霊? レイスのことか?」


「レイス……?」


 門番の話では死体の精神が魔物になった幽霊がレイスと呼ばれるらしい。


 本当に幽霊が存在していたことに驚きが隠せない。


 いくら魔物でも勝てる気がしないからな。


「それよりもレイスより怖いやつが家で待っているぞ」


 やっぱりバビットが怒っているのだろう。


 怒られる覚悟で俺達は家に向かう。


 ヴァイルに関しては、俺が付き合わせているから守ってあげないとな。


 店の前に着くと営業前だからか、チェリーとバビットが準備をしていた。


 コソッと店の中を覗き込み、どのタイミングで店内に入るか悩んでいると、突然肩に衝撃が走る。


「ヒイイィィィ!?」


 きっと幽霊に会った時より驚いた声がしただろう。


「ヴァイトさんお久しぶりですね」


 俺の肩を突いたのはナコだった。


 幽霊にビビっていたのもあり過度に驚いてしまった。


 声に気づいたのかチェリーとバビットも気づいたのだろう。


 すぐに斥候のスキルを発動させて、その場から逃げようとするが体が動かない。


 俺は幽霊に取り憑かれたのだろうか。


「お兄ちゃん……」


 いや、身動きが取れなかったのは体に縄が食い込んでいたからだ。


「お店を忘れていつまで遊びに行ってたのかな?」


「いや……」


 ああ、なせがチェリーに鬼のツノが生えているように見える。


 バビットが怒っているかと思ったが、チェリーの後ろでくすくすと笑っている。


 あいつ嘘をついているじゃないか。


 バビットじゃなくてチェリーが怒って……いや、勘違いしていたのは俺の方か。


「私がどれだけ大変だったか知ってるの!」


「いや……チェリーならできると……」


「何か連絡があってもいいでしょ! 何日寝ずにプレイしたと思っているのよ!」


「ひょっとして寝てないのか?」


 たしかに目の下にクマができている。


 社畜バイトニスト魂を受け継いでいるチェリーであれば問題ないと思っていたが、そうでもなかったらしい。


「ナコが来るまで大変だったわよ!」


 チェリーだけでは人が足りないため、ナコが手伝ってくれたのだろう。


 だからナコが珍しく一人で店に来ていたのか。


「何が社畜バイトニストよ! これじゃあ、リアル社畜じゃないの!」


「ああ、ごめん」


 俺はその後もチェリーが落ち着くまで謝り続けた。


 ああ、生まれ変わってもリアルにジャンピング土下座をするとは思わなかったな。


 謝るにも健康な体が大事なのを思い出した。



「それで何があってこんなに遅れたの?」


「実は色々なことに巻き込まれていまして……」


「自分から首を突っ込んだんじゃなくて?」


「うっ……」


 チェリーの視線に俺は目を逸らす。


 ヴァイルを見るが、あいつはナコと楽しそうに遊んでいる。


 守ってあげないといけないと思ったのに、ヴァイルは俺よりも上手く生きる手段を知っているようだ。


「お兄ちゃん? 私はそっちにいないわよ?」


「はあああああい!」


 急いで視線をチェリーの元へ戻す。


 もう妹には逆らえ……逆らいません。


 あんなに怖いとは思いもしなかった。


 前世の妹も怖かったが、今世の妹も最恐だ。


 世の中の妹が怖いことを、全世界共通で教えといてもらいたいほどだ。


 社畜バイトニスト魂の中に、妹には逆らいませんを追加で加えておこう。


「まぁ、今回はこれぐらいにしておくけど、何に首を突っ込んだの?」


 俺は新しい町であった出来事を話すことにした。


 ほとんどがアラン達のことだが、お店の話をしているとバビットが何かを考えているようだ。


「その店主達ってグスタフ、ハン、サトウじゃないか?」


「バビットさん知ってるんですか?」


「知ってるも何も俺が若い頃に教えていたやつらだぞ」


 どうやらバビットが駆け出しの三人を教えて、卒業のタイミングで各々別の道で修行しに行っていたらしい。


 それでまた集まったのに、経営がうまくいかなかったとはね……。


 まさかここで繋がるとは思いもしなかったな。


「それでその人達は大丈夫なの?」


「とりあえずは大丈夫だと思うけど、またすぐに行けるからさ」


「すぐって言っても数日はかかるだろ?」


「いや……? 途中から走っても数時間で着いたよ? キシャに乗るより速かった」


 俺の言葉にチェリーとバビットはため息を吐いていた。


 別にやらかしているつもりはまだないんだが……。


「もう社畜どころか人間をやめているね」


「こいつが人間じゃないのは前からだろ」


 それって俺が幽霊か何かってことか?


 すぐに移動できた理由もそういう風に思っているなら、そこは修正しないといけない。


「俺は幽霊とかじゃないからな! ほら、足だって生えているぞ!」


 俺は立ち上がってその場で光速・・で足踏みをする。


「ははは、ちゃちくしゅごい!」


 ヴァイルも俺を見て、楽しそうに手を叩いている。


「はぁー、やっぱり人間辞めてるね」

「あいつはこういうやつだ」


 これで納得したのかな?


 とりあえず幽霊ではなく、元気に生きていることをアピールしておいた。


 やっぱりちゃんと帰らないといけないな。


 しばらく二人からは、呆れた目で見られる日々が続くとは思わなかった。


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【あとがき】


「ねえねえ、お兄ちゃんってやっぱりおかしいよね?」

「しょう?」

「なんというか……普通の人じゃないというのか」


 ヴァイルは何かを思いついたのか、箱を持ってきた。


「おほちちゃまとれびゅーがたりにゃいからだよ」


 どうやら★★★とレビューが足りないから、ヴァイトはおかしいようだ。


「それでどうにかなるの?」

「うん! ちゃちくがおちえてくれた!」

「なんかそれも怪しいわね」


 そう言いながら二人で箱を持ってきた。

 ぜひ、★★★とレビューを集めてヴァイトを普通の人間に戻そう。


「俺……幽霊じゃないぞ?」

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