第127話 NPC、ボスになる
「ワシを呼び出した馬鹿者は――」
しばらく待っているといかにも煌びやかな服でアクセサリーに包まれた男がやってきた。
「重くないのか?」
「お前、俺の体を見て馬鹿にしているのか」
いや、確かに体も大きくて動きにくそうだが、それよりも見たことない格好について話しているつもりだ。
全部の指にはゴールドの指輪、手首や首元にはジャラジャラとたくさんついており、いかにも成金社長と思える風貌をしている。
「お前らいつまで寝ているんだ!」
社長の声に誰も反応するやつはいなかった。
待っている時に少し手慣らしして、気絶させている。
今は呼びに行ったやつと社長しか起きていない。
ああ、ちなみに女も邪魔にならないように柱に縛りつけたら、嬉しそうに気絶していた。
「あいつハッヤイーナさんのことも知っていました」
「弟を知っているって? てめぇは何様だ!」
「ブラック企業のパワハラ上司だ」
「ブラック企業のパワハラ上司様か! 名前が長いな……」
何か勘違いしていそうだが、名前を明かすつもりもない。
俺は三兄弟の借金について話しに来たからな。
「それで用件だが三兄弟の借金についてだが――」
「ははは、あのバカなやつらか。あいつら家族にはたくさん稼いでもらったからな」
どうやら社長の中にも記憶にあるようだ。
それだけ印象深いってことか?
「子どもの薬を買うために大金を借りて、自分達で奴隷の道進むとはな」
「どういうことだ?」
「ははは、そのままの意味だ。俺達が売ってるちょっとばかしたかーい薬を買うにはお金が必要だった。だからちょっと金貸しを勧めただけだ」
薬を買うために両親はお金を借りたが、その薬自体もこいつらと関わりがある奴らなんだろう。
必要な物を高額で売りつけて借金をさせる。
そもそもお金を準備できる財力がない人は、その前に餌食になっているってことか。
「あいつらは死んだと思っているが、勝手に奴隷になったのは両親の選択だからな」
アランの話では両親はすでに亡くなっていると聞いていた。
だが、実際のところは支払いができずに子どもを守るために奴隷になっていたら話が違う。
こいつらが両親が死んだといえば、追い込まれている三兄弟なら信じそうだしな。
ひょっとしたらハッヤイーナが関わっていた奴隷も誘拐だけではないのかもしれない。
追い込んで奴隷になるしか選択肢がなかった人達もいたのか。
そう考えると次はアランだったのかもな……。
「そういえば、弟からの連絡がないがお前達は知り合いなのか?」
知り合いと言われたら知り合いになるだろう。
「捕まえたのは俺だからな」
「貴様、弟になんてことを――」
「お前の方が非道だろ」
俺はすぐに社長に詰め寄る。
「グハッ……俺にそんなことをしても無駄だ。あいつらの借金はどうすることもできない」
勢いよく腹にぶつかってしまったが俺のせいではない。
こいつの腹が出ているのが悪いからな。
「どういうことだ?」
「ワシが言うとでも思ったのか?」
俺はすぐに呪術師のスキルを発動させる。
「やつらは闇貸師のスキルによって契約されている。それを破棄したら呪い死ぬことになっているからな」
闇貸師ってそこで気持ち良さそうな顔をして縛られている女のことだよな。
無理やりサインさせようとしたあれにスキルの効力があるのかもしれない。
俺はすぐに女を起こして話させる。
「ああん、もっと強く縛っ――」
こいつにもスキルを発動させるのを忘れていた。
「闇貸師の契約を破棄させるにはどうすればいいんだ?」
「私が契約を破棄させれば全てなかったことになります」
「おい、何をそんなペラペラと――」
「お前は少し黙っておけ!」
周囲の雑音がうるさく社長の指を軽くへし折っておいた。
後で治療すれば問題ないからな。
「じゃあ、今すぐその契約を破棄させろ」
「嫌だわ!」
俺は紐をさらに強く縛る。
結局は痛みつけないとわからないのだろう。
「ああん!」
だが、女の反応はどこか異なっていた。
やはり非道なことをするやつは、おかしなやつらばかりなんだろう。
「おら、早くしろ!」
「うふん!」
呪術師のスキルを使っても契約破棄する様子もない。
「もっとやられたいのか!」
「もっとよ!」
強く縛れば縛るほど逆効果な気がしてきた。
俺が紐を解くと女はその場で呆然として、突然泣き出した。
「契約破棄するからもっといじめてよおおおおおお」
闇貸師ってこんなにおかしなやつらばかりなのか?
転職クエストを受けなくて良かったと実感してきた。
すぐに女は紙を持ってくると、その場で破り捨てた。
紙は宙に舞いながら、輝いて消えていく。
「さぁ、もう一回……」
うるさい女はその場でもう一度気絶させておこう。
これで三兄弟が縛られることはないだろう。
あとはこの男達が付きまとわないか心配だ。
また同じような被害に遭うやつがいるかもしれないからな。
俺は社長に近づき、聖職者のスキルで回復させる。
すぐに痛みがなくなったことに、驚きの表情を隠せていないようだ。
「もうこんなことはしないよな?」
「何言ってんだ? ワシはこの仕事で成り上がった」
呪術師のスキルが発動しているから、これがやつの本音なんだろう。
今度は一本ではなく、数本指をへし折る。
あまりの痛みに社長の叫び声が店内に響く。
だが、すぐに回復させれば問題ない。
「もうこんなことしないよな?」
「ワシにはこれしか」
まだ本音しか話せないことに気づいていないのだろうか。
その後も痛みを強くしたり、折る箇所を増やしたりと何度も繰り返した。
「もう……しません……」
「ああ、呪術師のスキルで悪いことをしたら、すぐにわかるようにしておくからな」
呪術師にはそんなスキルはない。
できても呪いを使ってどこにいるのかマーキングができる程度だ。
だが、ニコリと笑えば社長は信じたのだろう。
怯えたような顔をしていた。
気絶していた部下達も社長の声で、その光景をずっと見ていたからな。
変なことをすれば俺に何かさせると思ったのだろう。
「じゃあ、次何かやったらタダじゃおかないからな」
「イエス! ボス!」
社長も含めて男達は立ち上がると胸に拳を当てていた。
それにしてもさっきからHUDシステムが邪魔だな。
【転職クエスト】
職業 グリムフィクサー
裏社会の部下をつくる 30/30
合成 斥候+鑑定士+縄師+解体師 どれも50レベル必要
報酬 グリムフィクサーに転職
どうやら俺はグリムフィクサーに転職したようだ。
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【あとがき】
「ねえねえ、ここでなにするの?」
「ここはみんにゃにあいしゃちゅするの!」
「あいさつ?」
ヴァイルとルーが手を繋いで近づいてきた。
何かあいさつをしにきたようだ。
「おほちちゃまとれびゅーちょーらい!」
どうやら★★★とレビューがほしいようだ。
「それはあいさつなの?」
「うん! ちゃちくがおちえてくれた!」
ルーはニコリと笑うと手を差し出した。
「おほしさまとれびゅーがほしいな。できた?」
「うん!」
ヴァイルとルーはニコニコしながらこっちを見ている。
ぜひ、二人に★★★とレビューであいさつを返してあげませんか?
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