第128話 NPC、裏の顔になる ※一部運営視点
なぜかヤミィー金庫のやつらに惜しまれながら店に戻ると、三兄弟は不貞腐れたような顔で待っていた。
特にルーが一番露骨に表情に出ている。
「ルーもあそびにいきたかった!」
どうやらルーには遊びに行ったと説明しているようだ。
ギルドマスターも言葉を選んだのだろう。
ただ、それだと仕事中に抜け出したサボリみたいな扱いになっていそうだな。
「それでどうなったんだ?」
「もちろん解決したよ」
俺の言葉にギルドマスターは疑っているような表情をしている。
あれだけ
「本当か?」
「ああ、たしか全ての契約破棄までさせた――」
「お前はなんてやつだ!」
ギルドマスターは肩を掴み揺さぶってくる。
またやらかしたのかと思ったが、ギルドマスター自体もヤミィー金庫の実情は知っていたらしい。
助けたくても動けなかったってことか。
これで集中して訓練に取り組めるってことだな。
「話は聞いたが無理しすぎじゃないか?」
アランは少し申し訳なさそうに聞いてきた。
「そんなことないぞ? 俺はお前達のパワハラ上司だからな」
その言葉にアランも少し笑っていた。
物理的なパワーがある上司はそれだけ魅力的に見えるのだろう。
「それよりも訓練に行くぞ」
「また!?」
「ああ、朝活、昼活、夜活って言うぐらいだからな」
「そんなに一緒にいられるんですね!」
「たくさんあそべるね!」
アラン以外の二人は訓練に対して、やる気がみなぎっているようだ。
実際にこれぐらいやらないと
「ちゃちく! いちょにいきゅ!」
ヴァイルもいつものように肩まで登ってくる。
それを見てベンもルーを肩車していた。
見よう見まねで形から入るのは良いことだって言うからな。
「じゃあ、行ってくる!」
俺達は訓練をするために、冒険者ギルドに向かう。
「アラン、良かったな!」
「はい……。今までご迷惑をおかけしました」
「いや、いいんだ。それよりもあいつをどうにかしてくれよ」
「おーい、置いていくぞ!」
アランはギルドマスターと話しているようだ。
呼ぶと手を振って走ってくる。
「ヴァイト、ありがとう!」
その姿は今まで見た中で一番眩しい笑顔をしていた。
♢
「課長!」
俺を呼ぶ声にきっとまた良からぬことが起きたと感じた。
大体呼ばれる時ってバグが見つかった時かミスをした時ぐらいだ。
むしろあいつの存在がバグのようなものだからな。
勝手にNPCの職業を変えるNPCってなんだよ。
世界観がめちゃくちゃじゃないか。
存在自体を消そうとしたら、俺の存在が消されそうだ。
「もー、なんだ! 俺達のせいで早めに三つ目の基本職を解放した以外にあるのか?」
上級職が解放されたことで、職業を変えたいという人が増えた結果だ。
普通なら高くなった職業レベルを下げるのは嫌だと感じる。
ただ、上級職が発表された時はそこまでレベルが上がっていなかった。
その結果、初めからやり直したいという人が増えた。
リアルなゲームを追求しているのに、ほとんどの人が人生やり直したいって中々だろ?
だから二つしかなかった基本職を一枠増やすことにした。
それによりさらに上級職の幅が広がる。
「いやー、実は遊びで作っていたグリムフィクサーがどこかで解放されたようで……」
「グリムフィクサー?」
聞いたことない言葉に俺は首を傾げる。
上級職は何種類もある。
基本的に剣士+魔法使いで魔法を操りながら戦う魔剣士、反対にすれば魔法で剣を生成して戦う魔装剣士となる。
名前からして全く想像がつかない。
何と何を組み合わせているのだろうか。
「えーっと、斥候+鑑定士+縄師+解体師でできる上級職なんですが……」
「四種類はNPCでも勇者でも無理だよな?」
「はい……」
NPCの中には初めから上級職のやつもいれば、勇者と同様に稀に二種類の職業をもつやつもいる。
だが、今のところ四種類も職業を持つやつはいないはず。
「それって誰だ? まさか――」
「NPCのヴァイトです」
「またあいつかああああああ!」
あいつはどこまで俺達の邪魔をすれば気が済むのだろうか。
それにNPCなのに特殊すぎる。
まるでラスボスがその辺をウロチョロ散歩しながら遊んでいるようなものだ。
「グリムフィクサーってなんだ? グリムってグリム童話とかと同じか?」
「いえ、グリム童話は兄弟の名前から取っているので違いますね」
「それなら……」
「グリムは恐ろしいって意味合いがあり、フィクサーが裏で操る人物とか……」
「おいおい、それってラスボスでもなくて、クリア後の裏ボスみたいじゃないか」
俺の言葉に部下は小さく頷いていた。
自分で言っておいて背筋がゾッとする。
もうここまで来たら何もいう気がおきない。
ラスボスならまだ可愛い。
裏ボスってとんでもなく強いやつだし、フィクサーってひょっとして俺達も裏で操られているんじゃないのか?
全く否定できないのも悔しい。
俺なんてみんなの操り人形みたいなものだからな。
愛しのマミちゃんすら妻に人質にされている。
「また何かあったら教えてくれ」
「わかりました」
部下が席に戻ると、また俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
「なんだ?」
「何度も呼んでいるのに聞こえないんですか? ひょっとして補聴器が必要ですか?」
最近の子はパワハラって言葉を知らないのだろうか。
絶対にこれは逆パワハラだ。
まぁ、俺がこいつの話を聞きたくないだけだけどな。
「長谷川……お前の話は全てヴァイト絡みだからやめてくれ」
どうせまたヴァユマの話だろう。
「話さなくても良いんですか? 実は最近NPCのアランって子とヴァイトの絡みが見たいって意見が多くて、これなら公式で推せるかなーって」
その言葉についつい俺も笑みを浮かべてしまう。
あいつに少しだけでも復讐できる気がした。
だって自分の知らない場所で、男同士のカップリングをさせられてワイワイされるんだぞ?
俺なら耐えられる気がしない。
ただ、公式でカップリングするのも問題な気がする。
だってBLゲームでもないからな。
「あとは任せた。変なことにならないように気をつけろよ。これは全年齢性別関係ないゲームだからな!」
「わっかりましたあー!」
長谷川は嬉しそうに自分のデスクに戻っていく。
少し寒気がするのは風邪でも引いたのだろうか。
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【あとがき】
「ねえねえ、ここでなにするの?」
「ここはみんにゃにあいしゃちゅするの!」
「あいさつ?」
ヴァイルとルーが手を繋いで近づいてきた。
何かあいさつをしにきたようだ。
「おほちちゃまとれびゅーちょーらい!」
どうやら★★★とレビューがほしいようだ。
「それはあいさつなの?」
「うん! ちゃちくがおちえてくれた!」
ルーはニコリと笑うと手を差し出した。
「おほしさまとれびゅーがほしいな。できた?」
「うん!」
ヴァイルとルーはニコニコしながらこっちを見ている。
ぜひ、二人に★★★とレビューであいさつを返してあげませんか?
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