第126話 NPC、銀行で勉強する

 建物に隠れながら男達を追いかけていく。


 突然、商店街の奥にある建物の前で立ち止まった。


「カミィー銀行?」


 建物の看板にはそう書かれていた。


 男達は周囲を必要以上に警戒すると、中に入っていく。


 あそこがあいつらのアジトなんだろう。


 ただ、アジトにしては普通の銀行にしか見えない。


 表の看板も銀行って書いてあるからな。


 とりあえず中に入ってみることにした。


「いらっしゃいませ!」


 店内は本当にただの銀行だった。


 いや、そもそも銀行に来たことがないため、銀行がわからない。


 冒険者ギルドや商業ギルドとそこまで変わらない。


 これが悪徳な金貸しってやつだろうか。

 

「お金のご相談ですか?」


「ここってどういうことをするところですか?」


 女性は俺のことを足元から視線を上げてジーッと見つめてくる。


「ここはお金の貸し借りをするところになります。どうしてもお金が必要な時はその場で貸したり、大金の場合は少しずつ返済するローンを組めたりします」


 あまり銀行のことを知らなかったが、お金の貸し借りの仕方にも種類があるのだろう。


 お店を始めたりなど、大金が必要になる時に利用することが多いらしい。


「よかったら借りていきますか? この辺ではあまり銀行って見当たらないですからね」


 たしかに俺の住んでいる町では銀行を見たことがない。


 ヤミィー金庫ではないため、勉強のために銀行でお金を借りるのも手なんだろう。


 椅子に座らされると、すぐに女は紙とペンを持ってきた。


「ここにサインをしてもらえれば、すぐに貸し出すことは可能ですよ」


 ただ、視界の縁に映っている転職クエストが気になる。


【転職クエスト】


 職業 闇貸師やみかしし

 10回相手を騙して金を貸す 0/10

 合成 鑑定士+斥候 どちらも50レベル必要

 報酬 闇貸師に転職


 銀行なら銀行員という職業のクエストが出てくると思ったが、全く銀行員ぽくない。


「あのー、利子とかってどれくらいですか?」


「ほらほら、サインをすればお金を――」


「利子は?」


「チッ! ガキが利子の心配してんじゃねーよ!」


 女は力強く俺の手を握り、紙にサインをさせようとする。


 だが、俺も負けずに抵抗する。


 正確に言えば抵抗しようとしなくても、力を少し入れるだけで全く動かない。


「早くサインくらい書きなさいよ!」


「それで利子はどれくらいですか?」


「利子なんて安いわよ。週利10%程度よ! すぐに返せば問題ないわよ」


 安くて問題ないなら、なぜ俺の手を無理やり持ってサインをさせようとしているのかわからない。


「週利10%なら月になると40%ですか?」


「何言ってるのよ! 利息は複利だから月利は約46.41%で年利は14104%になるわよ!」


 とてつもなく高い利息にびっくりした。


 闇金が雪だるま式で増えて、返しても額が減らないのはこういう仕組みなのか。


「ってかなんで私がこんなことを説明しているのよ!」


「ああ、それは俺が呪術師のスキルで呪っているからな」


 隙をついて呪術師のスキルを発動させていた。


 様々な呪いがある中で、意思とは違うことを話させるスキルがある。


 今はそれを発動させていた。


「闇貸師より非道だわ!」


「非道はどっちだ。それでどうやったら借金をなくせるんだ?」


「誰のことを聞きたいのか知らないけど、そんなの無理に決まってるわ」


 話し合いで解決するのは難しいようだ。


 それなら物理的な手段に移るしかないのだろう。


 俺がスキルを解くと、女はすぐに叫び出した。


「この人痴漢よ!」


 ん?


 痴漢?


 これがいわゆる冤罪というやつだろうか。


 女はニヤリと笑っているが、自分が今まで何をされていたのかわかっているのだろうか。


 奥からはゾロゾロと男達が現れた。


 その中にはさっき俺に投げ飛ばされていた男がいた。


「大丈夫か!」


「ああ、俺は大丈夫だけどこの人頭おかしいのか?」


「なっ……なぜお前がここにいる!?」


「そりゃー、お前達の後を追いかけてきたからな」


 追いかけられていたことも知らないとは実力も足りないな。


 俺は再びスキルを発動させて、女の口を借りる。


「だって私……痴漢がしたかったんだもん。へっ……!?」


「はぁん? 痴漢されたんじゃないのか?」


「ぎゃぶ!? ううん。痴漢をしたのよ!」


 女はその場で震えていた。


 途中スキルに抵抗されたが問題ないだろう。


 男達も女の話を信じていた。


 きっと痴漢をされたと言って、俺を捕まえる予定だったのだろう。


 だが、力としては俺の方が強いからな。


「俺、痴漢されたんだよな……。社長を呼んでくれないかな?」


 若干無理やりな感じもするが、痴漢されたのは俺だからな。


 実際は痴漢もされてないし、どちらかと言えば冤罪だ。


「そんなことで社長を呼べるわけ――」


 俺はその場で床に拳を叩きつける。


 大きな音とともに床に穴が空いた。


 やっぱりここは力で解決した方が良さそうだ。


 初めからこの手段の方が楽だったしな。


「じゃあ、社長のところに連れてってくれるまで店かお前らを殴ればいいかな?」


 そういえば、さっき複利について教えてもらったからな。


 ちゃんと復讐……復習もしないといけない。


「一発のパンチにつき五発が一秒ごとにつくから……いや、計算が難しいから呼ぶまで殴り続けるわ」


 俺は次々と男達を殴っていく。


 ちなみに女は逃げないように紐で結んでおいた。


 ただ、どこかうっとりとした表情で俺を見ていた。


 ひょっとしたらそういう趣味があるのだろうか。


 俺の精霊であるオジサンと趣味が合いそうだな。


「理不尽!」


「なら呼んでこようか?」


「わかった! 今すぐに行く!」


 半数程度気絶させたら、どうにか呼んできてもらえることになった。


 さぁ、これからが交渉の時間だな。


 俺は握り拳を作り社長が来るのを待っていた。

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