第120話 NPC、社畜指導開始する

 自宅に帰っていく三兄弟を建物の上から監視していく。


 やはりアランはヤミィー金庫を警戒をしているのか、周囲を気にしながら帰って行った。


 誰もあいつらを見ているやつはいないため、ヤミィー金庫の部下はいないようだ。


 きっとやつらが動き出すのは、ベンとルーが働いていると知った時だろう。


「あんな家に住んでいるんだな……」


 三兄弟は今にも崩れ落ちそうなボロ小屋に住んでいた。


 まるで廃墟かと間違えそうな見た目に息を呑む。


 屋根の一部が外れているし、壁も欠けている。


 取り壊そうとしたらすぐに破壊できるだろう。


 その辺を考えるとヤミィー金庫もまだまだ甘いな。


「住むところも考えないといけないのか」


 家の場所を知ることができ、俺も急いで帰ることにした。



 翌日、朝のトレーニングも兼ねて三兄弟の家の前に向かう。


「僕だって兄さんの力になりたいよ!」


「だったら家にいてくれ。俺が何とかするから」


「何もできてないから言ってるんだ!」


「いい加減にしてくれ!」


 朝から言い合いをしている声が聞こえてくる。


 俺が妹と喧嘩したのはいつだったかな。


 病気が進行してからは、妹は俺に何か言ってくることはなかった。


 それがどこか寂しかったのを覚えている。


 うまく動けなくても、俺は喧嘩したかったけどな。


「ヴァイトさんがせっかく力になってくれるなら、頼った方が僕達のためにもなるはずだ!」


「それはお前がヴァイトに憧れているからだろ!」


 どこか耳が痒くなるような会話に、つい頬が緩んでしまう。


 やはりベンを社畜バイトニストに育てあげるのが、一番今後のためになる気がする。


 彼なら耐えられそうな気がするしな。


「朝から喧嘩しているのか?」


 このままでは近所迷惑になると思い、二人の間にそっと割り込む。


「「うぉ!?」」


 姿を消してたからびっくりさせてしまったようだ。


 それでもすぐにベンは姿勢を正した。


「ヴァイトさん、本日もよろしくお願いします!」


 やっぱり良い社畜バイトニストになりそうだな。


「ああ。ルーは起きてるのか?」


「今起こしてきますね」


 家の中に入ると、すぐにルーを抱きかかえてきた。


「ちゃちく、おはよ……」


 まだ眠いのか目を擦ってウトウトしている。


 ヴァイルに影響されて〝ちゃちく〟と呼ばれるようになっていた。


「朝から来てもらってすみません。ただ、いつあいつらが来るかわからないところで、兄弟を働かせるわけにはいかないので」


「兄さん、何度言ったら――」


 俺はベンがそれ以上言わないように止めた。


 あまり白熱すると、言わない方が良いことも言いかねない。


 アランの気持ちもわからなくはないからな。


「この辺には怪しいやつはいないぞ」


「それでも兄として――」


 俺は昨日のようにアランの首元を掴み、その場で放り投げた。


 体重を確認してみたが、やっぱり兄も軽いよな。


「そんなに心配するぐらいなら、家族を守れるぐらいお前も強くなれよ。ただのウェイターに飛ばされて冒険者って言えるのか?」


 正確にいえばウェイターというよりは社畜バイトニストだ。


 それに俺も冒険者兼商業ギルドに所属している。


「くっ……」


 手下を追い返せるほどの実力もなく、弟達を守るためには家に閉じ込めるしか方法がなかったのだろう。


 表情からしてアランもそのことはわかっていそうだ。


「よし、今日からお前らには特訓を始めよう!」


「はい!」

「はーい!」


 ベンとルーは手を上げた。


 だが、肝心のアランはその場で座り込んで、俺を見ているだけだ。


 本当に弟達を守る気があるのだろうか。


「おい、もう一度投げられたいのか?」


 急いで立ち上がりベンの横に並ぶ。


 三人揃って良い顔つきだな。


「お前らに特訓をする!」


「「はい!」」

「はーい!」


「お前達、そこはイエッサーだ!」


「イエッサー!」

「さぁー!」


「声が小さああああああい!」


 ブラック企業のパワハラ上司は返事から指導が必要だからな。


 できるまで何度もやり直すって、何かの取材をしていた番組で見たな。


「もう一度言う。お前らに特訓をする!」


「「イエッサアアァァァ!」」

「いぇいさあー!」


 大きな声が周囲に響く。


 まだ朝早いのにうるさい三兄弟だな。


 今日から社畜バイトニストになるべく、教育をしていくつもりだ。


 兄のアランは冒険者としての実力をつけ、ベンは真面目な性格だから頭を使った方が良いだろう。


 ルーはたくさん食べて運動して、すくすくと成長してくれたら問題ない。


 もちろん全員に自衛手段は身につけてもらうし、様々な道を切り開けるようにするのが社畜バイトニストだ。


「じゃあ、早速斥候までの道のりだ! 誰にも見つからず店まで到着しろ!」


 いつもやっているデイリークエストのトレーニングを一緒にやっていく。


 ベンとルーは楽しそうに俺の後ろを追いかけていく。


 どことなく今まで外で遊べなかった反動もあるのだろう。


 どこか温かい目で見てくるアランも、強制的に引っ張って店に向かった。


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【あとがき】


「ねえねえ、ここでなにするの?」

「ここはみんにゃにあいしゃちゅするの!」

「あいさつ?」


 ヴァイルとルーが手を繋いで近づいてきた。

 何かあいさつをしにきたようだ。


「おほちちゃまとれびゅーちょーらい!」


 どうやら★★★とレビューがほしいようだ。


「それはあいさつなの?」

「うん! ちゃちくがおちえてくれた!」


 ルーはニコリと笑うと手を差し出した。


「おほしさまとれびゅーがほしいな。できた?」

「うん!」


 ヴァイルとルーはニコニコしながらこっちを見ている。


 ぜひ、二人に★★★とレビューであいさつを返してあげませんか?

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