第121話 NPC、社畜の第一歩を指導する
一度店に戻ることにしたが、問題は山積みだった。
「アラン、今日も余り物の野菜を取りに来てちょうだい」
「お肉も格安で売ってあげるから寄りなさないよ」
「ありがとうござっ……うっ!?」
「お前は何度見つかれば気が済むんだ」
奥の方に家があるため、商店街を通っていく必要がある。
ベンやルーは比較的隠れて移動できているが、アランがすぐに見つかってしまう。
いや、正確に言えば……。
「アラン、ちゃんと頼りなさいね」
「何かあったら声をかけなさいよ」
女性達をたぶらかしているようだ。
「お前、モテモテだな」
「みんなが優しいだけだよ」
それも無自覚でやっているらしい。
人生には三度のモテ期が来ると聞いているが、こういう人はずっとモテ期なんだろう。
それにあの人達の俺を見る目が、人間を捕食しようとしている魔物のようだ。
まるでアランの隣にはお前がいるべきではないという視線だな。
「あとでたっぷりお仕置きだからな」
「えっ……」
俺はアランから離れるように逃げていく。
今までこれだけの人達がアラン達を気にかけてくれていた。
協力してもらったり、甘えたりしなかったのだろう。
弟思いなのは良いが、兄だからしっかりしないといけないとでも思ったのだろうか。
「自分勝手な兄だな……」
同じ兄として気持ちはわからないわけではない。
「今度は走るんですか?」
ベンやルーが走って駆け寄ってくる。
俺もこの子達の未来を少しでも明るいものにはしたい。
ただ、今はどうにか生きて弟達の未来を守っていくのが先だ。
「ああ、かけっこだな」
「やったー!」
ルーは嬉しそうに前を走り出した。
やっぱり元気な姿を見ているのが一番良いな。
別に俺はモテなくて悲しんでいるわけじゃないからな。
そんな理由では走らない。
ああ、あんなに女性に声をかけてもらえていいな……。
「何あの子……あんな良い男いたかしら?」
「アランと並ぶと眼福ね」
「これが噂で流行っているボーイズラブってやつかしら」
「たしか勇者達が持ち込んできた文化らしいわね」
「貴族しか買えない本を簡単に作る勇者がいるから広まったのよね」
「「「ここでも流行らないかしらー」」」
女性達は走っていく俺達の後ろ姿をニヤニヤしながら見ていたようだ。
店に到着するとすでにヴァイルは起きて準備をしていた。
「ちゃちく、おはよ!」
「準備はできたか?」
「うん!」
今日もヴァイルは元気そうだな。
「かけっこたのしかったよ!」
「ちゃちく、はやいもんね」
そんなヴァイルにルーは話しかけている。
あれだけ走っても疲れていないのか、元気いっぱいのようだ。
今まで外に出る機会が少なかったから、ただ走るだけでも楽しいのだろう。
「そんなに息を荒くしてどうしたんだ?」
「あー、気持ち悪い」
「さすがヴァイトさんですね」
一方、アランとベンはすでにグッタリとしていた。
「ベンが疲れるのはわかるが、アランはよく生きてこれたな」
この周囲はユーマ達でも強いと言うほど、ランクが高い魔物が集まっている。
数キロメートルしか走っていない状況で息切れをしていたら、今まで魔物とどうやって戦っていたのだろうか。
しばらくは走り込みが続きそうだな。
「よし、次は冒険者ギルドにいくぞ」
「えっ!?」
アランは店に来るまでのトレーニングだと思っていたのだろうか。
ヴァイルを肩車すると、ルーはアランをチラチラと見ていた。
「にいちゃん、ルーもあれやりたい」
「いや、まだ息が落ち着いてから……」
アランはまだ息を整えているようだ。
だが、時間は無限にあるわけでもないし、店の営業時間が待ってくれるわけでもない。
俺はルーを持ち上げて、アランの肩の上に乗せる。
「なっ!?」
「弟を楽しませるのも兄の役目だぞ」
「さすがヴァイトさん! 次は何をするんですか?」
「今から冒険者ギルドに行ってトレーニングだ。また走っていくからな」
「イエッサアアァァァ!」
今度は冒険者ギルドに向かって走っていく。
AGIが低ければ何もできない。
効率重視で動けてから、
「にいちゃん、はやくー!」
振り返るとアランは立ち止まっていた。
ルーにバタバタと蹴られて、アランも戸惑っているようだ。
ここはブラック企業のパワハラ上司としての役目を果たさないといけないだろう。
「アラン、遅いと朝食抜きだぞ」
「イエッサアアァァァ!」
俺達は冒険者ギルドに向かって再び走り出した。
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