第119話 NPC、悪逆非道になる

 営業を終えた後、三兄弟と店主達を含めて話し合いをすることにした。


 本人達から今の状況と今後どうしていくかを確認する必要がある。


「お疲れ様、初日はどうだった?」


「とても勉強になりました。早く一人前に働けるように頑張りたいです」


 ベンは仕事熱心のようだ。


 皿洗いも速くて丁寧でユーマよりも仕事ができていた。


 途中からユーマの方がベンに洗い残しがあると注意されていたぐらいだ。


 その働きぶりに社畜バイトニストの適性があるような気がした。


「あまり無理を言うなよ。ここの人達にも迷惑がかかるかもしれないんだ」


 そんなベンをアランは宥めていた。


 きっと借金で何かしらの迷惑がこの店に及ぶことを危惧しているのだろう。


「ぼくもはたらきたいな」


「ルーは早いだろ……」


 ひょっとしたらただの心配性の兄なのかもしれない。


 俺には兄がいたわけではないが、こんなに心配されると弟達も大変だろう。


 小さい頃によく怒っていた妹の顔を思い出す。


 ただ、このままだと全ての才能を抑えつけて、やりたいこともできない人生になりそうだ。


 いざ安全が確保できた年齢になった時には、何もできない可能性がある。


 それに冒険者であるアランは死と隣り合わせだ。


 こんな状況で残された弟達が生きていける手段を確保しないと、二人とも犯罪者か餓死することが目に見えていた。


「全ては借金が問題なんだよな?」


「それをどこで……」


「冒険者ギルドのギルドマスターから聞いた」


「そうか」


 アランは静かに視線を下げて、何を言おうか考えているようだ。


 まるで助けてほしいのか、それとも迷惑をかけまいと気を遣っているのか、気持ちが整理できていない気がする。


「お前の両親は一体どこからお金を借りたんだ?」


「ヤミィー金庫です」


 ベンの言葉に店主達は大きくため息を吐いた。


 ヤミィー金庫ってこの辺では有名な金融会社なんだろうか。


「そんなに面倒なところですか?」


「奴らは金を返すまで執念深いやつらだからな」 


 アランとベンは暗い顔で頷いていた。


 今まで大変な思いをしてきたのだろう。


 一方、ルーは話し合いに疲れたのか、ヴァイルの隣で一緒にお絵描きをしている。


「両親が薬を買うために借りたお金はもう返したんです。それでもまだ利子が返しきれていないと……減らない利子に俺達もどうしたらいいのか」


「利子を高くして奴隷堕ちをハイエナのように待つのが、あいつらのやり方だからな」


 思ったよりも大変な奴らに、三兄弟は目をつけられているようだ。


 表情からして希望もなく、今にもどこかに消えていきそうな気がした。


 ただ、そんなやつらでも少し頭が弱いような気がした。


「俺なら部下に追い詰めるようなことはさせないけどな」


「どういうことだ?」


「無理矢理にでもずっと働かせて、金を作らせてから奴隷堕ちさせた方が――」


「おまっ……」


 なぜかみんなして俺の顔を見てきた。


 だって、その方がお金にするには良いと思うけどな。


 思ったことを口にするのもあまり良くないことだと、なんとなく感じた。


 そんなことを考えた影響かHUDシステムが反応した。


【転職クエスト】


 職業 欺瞞師ぎまんし

 10回相手に呪術を使って騙す 0/10

 合成 呪術師+鑑定士 どちらも50レベル必要

 報酬 欺瞞師に転職


 明らかに危なそうな転職クエストは拒否しておいた。


 きっと詐欺師のようなところに呪術が加わったような感じだろう。


「ちゃちくだもんね」


「きちく?」


「ちがうよ? ちゃちく!」


 近くではヴァイルは社畜バイトニスト魂をルーに教えているようだ。


「だからそこまで面倒な人ではないと思うぞ。なんなら俺が潰してこようか?」


 俺はアラン達をみてニコリと笑う。


 なぜかアランはビクッとしていた。


 物理的にヤミィー金庫を潰すこともできるし、そもそも奴隷に無理矢理させようとすること自体が国の法律として問題だろう。


「どうやってやろうか?」


「いや、そこまでは大丈夫だ……」


 どこかアランの歯切れの悪い返事に仕方なくヤミィー金庫には手を出さないことにした。


 ただ、夜中にヤミィー金庫の前で笛を吹いても問題はないよな。


 鳥が鳴いているのと変わらない。


「おい、ヴァイトのやつ大丈夫か?」


「さっきから変な笑いをしているぞ」


「やっぱり店を任せたのは間違いじゃないか」


 店主達が何かを言っているが、俺はニコリと笑っておく。


 しばらくはヤミィー金庫の動きとどんな奴らかは調べておく必要がある。


 これからどんどん忙しくなって楽しい日が続きそうだな。


「あいつ笑ってるな……」


「やっぱりヴァイトさんはかっこいいな」


「えっ……」


 ベンからはキラキラとした視線が送られていた。


 だって俺はブラック企業のパワハラ上司だからな。


「ちゃちく、るーがおねんねした」


 まだ話し合っている途中だが、ルーがヴァイルに寄り添って寝ていた。


 たくさん動いて疲れたのだろう。


 時間も遅くなったため、今後どうするかは再び話し合うことにした。

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