第113話 NPC、変人扱いされる ※一部ギルドマスター視点

 魔物から魔石を回収すると、魔物の死体はユーマ達がインベントリに放り投げていく。


 周囲に転がっていた魔物は全て消え去り、血だらけの俺達が残っていた。


「あっ、今綺麗にするからな」


 解体師のスキルを使って、汚くなった体をすぐに綺麗にする。


 瞬間的にお風呂に入った心地で、スッキリとするため解体師として一番重要な魔法だろう。


 そんな姿に町から来た冒険者達は驚いた表情をしていた。


 実際に口を開けて、ポカーンとしている人は少なくない。


「綺麗にしてほしいのかな?」


「いや、さすがに違うと思うぞ」


「なんかユーマには言われたくないな」


「しょーだしょーだ!」


 頭の上にいるヴァイルもそう言っている。


 実際何に驚いているのだろうか。


「ひょっとして……あなた達は勇者様ですか?」


 ああ、勇者の存在に驚いていたのか。


 こんなバカでも勇者だからな。


 今も隣でジーッと俺の顔を見ているが、まだ声には出していないぞ。


「俺は社畜バイトニストだ」


社畜バイトニスト?」


 男は首を傾げていたが、そんなにおかしなことを言っているのだろうか。


 これでバビットやジェイドは納得していたはずだが、知らない人には伝わらないのか。


「ははは、勇者は俺達三人だ。こいつは食事処の従業員って言った方が伝わりやすいか?」


 珍しくユーマがフォローしてくれた。


 どうやって伝えれば良いのか迷っていたのがバレたようだ。


 どこかムカつくが仕方ない。


「食事処の従業……員? それにしては魔石だけを取り出すのが上手な気もするが……」


 解体師として魔石を取り出していたのが、さらに疑問を抱かせてしまったようだ。


「ギルド前にあるお店で働いているので、ぜひ立ち寄ってください。では、失礼します」


「おっ……おう」


 ついでにお店の宣伝もしておけば、今後に繋がりそうだから問題ない。


 社畜バイトニストについて聞かれても、職場体験中の人としか答えられないからな。


 俺達は訓練を終えて町に戻ることにした。


 冒険者達にジロジロと見られたが、こんなにたくさんの人で何をしにきたのだろう。



 町に戻ると門前にも武装した門番達が集まっていた。


 奥には荷物を急いでまとめている町の人達が見える。


「荷物をまとめたやつからこの町を離れろ!」


「急いでここから逃げるんだ!」


 ひょっとしたら避難訓練でもしているのだろうか。


 ちなみにキシャは町から人が向かってきた段階で逃げるように森の中に隠れていた。


 相変わらず俺達以外とは人馴れしていないようだ。


 まぁ、あいつって少しツルツルしてすべすべボディをしているが見た目はムカデだもんな。


「何かあったのか?」


「いやー、俺も知らないぞ。朝は何もなかったよな?」


 アルやラブも頷いているため、朝に何かあったわけではないようだ。


 俺達が外に出てから何かあったのだろうか。


「何かあったんですか?」


「お前達外から来たけど大丈夫だったか? 魔物の大群が近づいているはずだが……」


「魔物の大群? そんなものなかったよな?」


「ああ、訓練もそこまで大群ではなかったしな」


 魔物大群でよく聞くのがスタンピードだ。


 以前も勇者が町に来る前に似たようなことはあった。


 あの時は大蛇が町に来て大変だったが、今は魔物が近づいてくる気配はない。


 あれから相当俺も強くなったが、気配が少ない魔物がこの辺に多いのだろうか。


 そもそも周囲には魔物がいないからな。


「ねぇ、もうそろそろ営業時間じゃない?」


「早く帰らないと怒られそうですね」


「バイト二日目にして遅刻って結構ヤバイもんな」


 ユーマ達もやっと見習い社畜バイトニストとしての自覚が出てきたのか?


 俺達は門で手続きをして急いでお店に帰ることにした。


 この出来事がきっかけで俺達が一部の人達に知られることになるとは思いもしなかった。





「スタンピードを収めたのって絶対あいつらだな」


「ギルドマスターもさっき見てましたよね。あの技って普通の解体師でもあそこまで魔石を綺麗に取り出せないですよね」


 俺も初めて見た時は何が起きているのかと思った。


 この周辺の魔物はBランクが多く、普通の冒険者では手足も出ない。


 そんな魔物がそこら中に転がっていた。


 その数は100を余裕に超えていただろう。


「むしろ勇者の噂は聞いていたが、社畜バイトニストってなんだ? それに食事処の従業員ってどういうことだ?」


 そんなやつを勇者三人と食事処の従業員がどうにかできるとは思わない。


 勇者の噂もこの町まで流れている。


 なんでも傲岸不遜ごうがんふそんで人として終わっていると聞いた。


 確かにあれだけ見たら人として終わっているだろう。


 まるでどっちが魔物かわからないぐらいだからな。


 それにしても社畜バイトニストとはなんだ?


 冒険者ギルドのギルドマスターとして、もう十年以上は働いているが聞いたことがない。


 その前にも各地を冒険者として旅をしていたが、初めて聞いた言葉だった。


「さぁ、お前達帰るぞ!」


「ギルドマスター報酬はないですかー?」


「これじゃあ、ただの無駄足ですよー」


 依頼を受けずに集まってくれた冒険者達から文句が聞こえてくる。


 こいつらは朝から駆けつけてくれたからな。


 ここで俺が何もしなければこいつらはこの町から離れてしまう。


 それこそ町として痛手になるだろう。


 そういえば、あの変わり者はギルド近くの食事処で働いているって言ってたよな。


「よし、昼飯は俺が奢ってやるからそれで勘弁してくれ!」


「お酒もいいですか?」


「ああ、なんでも構わんぞ」


「うおおおおおお!」


 冒険者達は嬉しそうに町に戻っていく。


 人が全く集まらない三兄弟のところで働いているって本当に謎のやつだ。


 社畜バイトニストが何者かを探る必要があるからな。


 俺はギルドマスターとして何か変なことをしないか、あいつをしばらくの間、監視することにした。

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