第114話 NPC、相談される

 俺達は急いでお店に戻ると、店主達は何か荷物をまとめていた。


「どうされたんですか?」


「いや、さっき警鐘がなっていたが気づかなかったのか?」


 警鐘って町に何かあった時に伝える鐘のことだよな……?


 発光弾や煙が見えたのも関係しているのだろうか。


「町に魔物が近づいてきているって言っていたから、お前達も逃げる準備をした方がいいぞ」


 さっきも門番は同じことを言っていたが、魔物がこっちに向かっている気配はなかった。


 それよりもせっかく軌道に乗った店を放置しても大丈夫なんだろうか。


「店はどうするんですか?」


「そんなもん命の方が大事だ!」


「ここは諦めるしかない」


 命が大事なのは俺もわかっている。


 病気になって毎日弱る俺の姿を見ていた家族の顔が忘れられないからな。


 それでも毎日頭を抱えて悩んだ店をそんな簡単に手放しても良いのだろうか。


「皆さんが逃げるなら、俺がこの店を守りますよ」


 俺ならこの周辺の魔物を倒せる。


 それにユーマ達の訓練にもなるから問題ない。


 そういえば、ユーマ達はさっきの訓練で5レベルは上がったらしい。


 また機会があればやりたいと言っていた。


 なんやかんやでこいつらにも社畜バイトニスト魂があるのだろう。


 時間を短縮してたくさんの経験をする。


 それが社畜バイトニスト魂だからな。


「ヴァイト……」


 なぜか店主達は俺を見つめて拳を強く握った。


「よし、俺もここに残るぞ」


「ヴァイトがそんなに店を大事にしているとは思わなかった」


「店主として勇気をもらった」


 どうやら店主達も残るようだ。


 本当に魔物が来たら戦えない人は逃げることを優先した方が良い気もするが、選択するのは本人達だ。


 俺は何も言うことはない。


 ただ、この人達は冷静さを失っているのかもしれない。


 やっぱり一番大事なのは命だからな。


「ははは、もう逃げる心配はないから大丈夫だ」


 店の扉が開くと同時に声が聞こえてきた。


 振り返るとそこにはさっき町の外で会った男達がいた。


 ゾロゾロと店内に入ってきては椅子に座る。


「ここの店で働いているって聞いたからきたぞ」


 どうやらさっきの宣伝効果が効いたらしい。


 それに昨日のこともあり、口コミで広がったのだろうか。


「さぁ、皆さんすぐに準備しますよ」


 逃げる心配がなければ、すぐに店の開店準備をしないといけない。


 もうすでにお客さんが店内にいるからな。


 店主達は各自のキッチンに戻っていく。


 俺は近くのテーブルを使って、新しく魔石を使ったオーダー方法を試すことにした。



「注文はここですれば良いのか?」


「はい! 私が注文を受け付けますね」


 アルとラブは接客と会計担当。


「俺は何をすればいい?」


 ユーマの言葉にアルとラブは指をさしていた。


 彼は相変わらず片付け担当だ。


 まぁ、頭が少し弱いから仕方ない。

 

「支払いは全て俺がするから、またあとで教えてくれ!」


 どうやら先頭にいた男の奢りなんだろう。


 後ろにいる冒険者達は喜んでいた。


 頼られている上司なんだろう。


「これを渡せばいいのか?」


「ありがとうございます」


 紙に書いたものを俺は受け取ると、魔石と交換して渡す。


「魔石が半分になってる!?」


「ええ、簡単に割れますよ」


 俺はさっき取ったばかりの魔石を手で割って見せる。


「ほらこんな感じに簡単に――」


「おまっ……素手で魔石を割るのか!?」


 その場の時間が止まったかのように、男達は立ち止まっていた。


 そんなに珍しいことなんだろうか。


「今までの魔石よりは純度が高いのか、少し割りづらいですけどね」


「あっ……ああ」


「できたら魔石から呼ぶので取りに来てくださいね」


「魔石から呼ぶ?」


 首を傾げながら半分の魔石を持って、男はテーブルに戻った。


 どこか深刻そうな顔で一点を見つめているが、何か悩みごとでもあるのだろう。


 時折、こっちをチラチラと見ているが俺に相談したいのか?


 今まで相談ごとに乗ることもなかったから、俺でもできるのか心配だ。


 次々と魔石を割っては渡していくと、全ての人が注文を終えた。


「麻婆豆腐セットできたぞ」

「ああ、こっちも肉じゃが定食完成だ」


 できた商品を紙の上に置き、魔石に触れると驚いた声が聞こえてきた。


「うわぁ!?」


 持っていた魔石が急に光ったことに驚いたのだろう。


 オドオドしながら魔石を持って男は近づいてきた。


「これはどうなってるんだ?」


「半分に割った魔石は片方に魔力を通すと、反応する仕組みになっている」


 もう一度魔力を通すと男の手元にある魔石は光った。


 逆に男が魔力を流すと俺の魔石が光る。


「そんなことがあるのか……。今までの常識はなんだったんだ……」


「また何か気になるのことがあれば聞いてください」


「いいのか!?」


 男は少し前のめりで聞いてきた。


 どうやら本当に相談がしたいようだ。


 少し歳が離れているが、初めての経験で俺も嬉しくなる。


 俺は初めて相談される相手を見つけた。

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