第112話 NPC、新しい金稼ぎを知る

「おー、やっとコントロールができるようになったぞ」


「おっ……おう」


 周囲には爆ぜた魔物達で溢れていた。


 あまりにも魔物の体が弱く、魔石も一緒にどこかへ行ってしまったからな。


 動けなくなった魔物にユーマ達は攻撃を仕掛ける。


 魔物達も必死に抵抗をするが、さすがに手足がなくなった状態では身動きするだけでも精一杯のようだ。


「よし、ここからが本番だな。いくぞー!」


 俺は笛を咥え、たくさん吸った息を流し入れる。


――ピヨーン! ピヨピヨ!


 相変わらず気が抜ける音が周囲に響く。


 これで三回だが魔物は音に反応して相変わらずゾロゾロと出てきた。


 一回の笛の音で魔物は15匹程度寄ってくる。


 ああ、すでに30匹は力のコントロールで無駄にしているからな。


 今頃になって気づいたが、別に矢じゃなくても剣で動きを封じた方が早かった。


 俺の訓練にもなったから、時間の無駄にはならなかったのが幸いだ。


「おい、お前らどんどん行くぞ」


「ちょっ……まだ倒し切れて――」


――ピヨーン! ピヨピヨ!


 俺の仕事は笛を吹いて魔物を呼び弱らせるだけ。


 倒し切れずに魔物が増えていくのは関係ない。


 それに怪我をした魔物相手を倒せないとは、勇者と言えるのだろうか。


 ちゃんと様子を見てユーマ達には回復魔法を飛ばしているから問題ないはずだ。


「ちゃちく!」


「どうした?」


「あしょんできていい?」


 俺が頷くとヴァイルは頭からゆっくり下りて、キシャの背中を滑り台のように滑っていく。


 キシャも体をクネクネさせて緩急をつけているため、まるで大きな滑り台に見える。


 大型のムカデとこんな遊びができるとは思いもしなかった。


「俺もやってみてもいいか?」


『キシャ!』


 ヴァイルを見習って、俺も胸の前で手を組んで滑っていく。


 途中落ちそうになりながらもキシャが器用に体を動かすため、体が完全に飛び出て落ちることはなかった。


「結構面白いな」


「これでかしぇげりゅね!」


 さすが俺の弟だ。


 移動手段以外にも使い道を教えてくれた。


 小さなことでも金稼ぎに変えてしまう才能が垣間見えた。


 将来は有名な社長になりそうだな。

 

『キシャ?』


「ああ、もう一回頼むよ」


 キシャが頭を下げ、もう一度乗ると再び上から滑っていく。


「ははは、楽しいな!」

「たのちいね!」


 近くではユーマ達が戦っているがお構いなし。


 俺とヴァイルはユーマ達が魔物を倒し終わるまで、滑り台で楽しい時間を過ごした。


 何回か繰り返していると、ユーマ達も魔物を倒したのか戻ってきた。


 まだ一回しか訓練をしていないのに、どこか顔が疲れている。


「レベルアップしたけど、さすがに高レベルとの連戦はきついね」


「休憩できるように頼まないといけないわね」


「なら俺が……おい、俺も混ぜてくれ!」


「「そっち!?」」


 アルとラブは驚いていたが、ユーマは少年のような笑顔でキシャに登ってきた。


 さっきまでの疲れた顔は演技なんだろう。


「子どもの頃に戻ったみたいだな」


「まだ子どもだろ」


 ユーマは楽しそうにキシャから滑り落ちていく。


 ああ、滑っていくわけではなく、滑り落ちるようにキシャに頼んでおいた。


――ピヨーン! ピヨピヨ!


「元気が有り余っているようだからもう一回行ってこい」


「なぁ!? 全部倒してきたら遊んでもいいか?」


 どれだけ滑り台が好きなんだ。


 ユーマは気合いを入れて魔物の方に向かっていく。


 その姿に若干呆れていたが、すぐに走って戻ってきた。


「うおおおおい、あいつらめちゃくちゃ強いじゃないか!」


「あっ、手助けしてなかったわ……」


 遅れて気づいた俺はすぐに弓矢を放ち、魔物を弱らせていく。


 せっかくならさっきよりも傷を浅めにした方が訓練になるだろう。


「ねぇ、なんでいつもこうなるのかしら?」


「ユーマがバカだからじゃない? あとはヴァイトが――」


 何かアルとラブは話していたが、あいつらは行かないのだろうか。


 せっかくの訓練時間がもったいない。


「お前らも今すぐに――」


「「鬼畜!」」


 俺を鬼畜だと勘違いしたまま、ユーマの元へ向かっていく。


 鬼畜ではなく社畜なんだけどな……。


 その後もユーマは魔物を倒しては、滑り台で休憩して繰り返すと、町の方から突然大きな音が鳴り響いた。


 空にはいくつかの煙や発光弾が打ち上げられている。


 町の方で何か問題があったのだろうか。


「おい、そいつらを倒したら一回戻るぞ」


 ユーマ達も約10回程度は訓練できたから、ちょうどキリが良さそうだ。


 それにそろそろお昼の営業にも間に合うように帰らないといけないからな。


 俺はユーマ達が倒した魔物から魔石を取り出そうとしたら、町からたくさんの人が近づいてくるのが見えた。


 誰もが武装しており、まるで冒険者のような見た目をしている。


「お前達大丈夫か!?」


 急いで駆けつけた男達に声をかけられた。


 大丈夫かと言われたら、大丈夫じゃないとここにはいないだろう。


 それに魔物を集めたのは俺だからな。


 頷くと話しかけた男は大きくため息を吐いていた。


「一人で無茶をするな。何かあったら俺達を頼れよ」


「頼る?」


「同じ冒険者なんだろ? それに奥にいる人達も……」


「あー、俺の友達だな」


 さすがに親友とは言いづらいが、友達ぐらいの付き合いはあるよな?


 あれだけ一緒にいて顔見知りってこともないだろうし……。


「そうか。優秀な奴らが集まっているんだな」


 優秀かと言われたらどうなんだろう。


 勇者だけど俺よりは弱いからな。


 男は嬉しそうに微笑んでいた。


「とりあえず魔物はこれだけか?」


「はい。そろそろ帰ろうと思ったので、魔石だけ取り出すので待っててください」


 俺は素早く魔物から魔石を取り出していく。


 魔物の死体は後で解体すれば良いだろう。


「こんな短期間にスタンピードを四人で終息させるとは只者ではないな……」


 何か話し声が聞こえてくるが、俺は気にせず魔石を取り続けた。

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