第111話 NPC、訓練が必要
「今日はいい天気だな!」
「ああ」
「朝から元気ないぞー?」
「お前のテンションが高いんだよ!」
俺はユーマの尻を軽く蹴る。
「うっ……」
本当に軽く蹴っただけだ。
昨日カンチョーしたら相当痛がっていたからな。
「今日はよろしくお願いします」
「ふふふ、朝から良い絵が撮れた」
遅れてアルとラブもやってきた。
翌日、俺達は朝早くから町の入り口に集まっていた。
昨日話し合っていたユーマ達の戦闘経験訓練及び魔石の回収を行うためだ。
買い出しは店主達がするため、営業開始とともに帰ってこれば問題ないらしい。
「時間的には5時間近くはあるか」
「ひょっとして5時間もやるのか?」
どこか三人とも顔が引き攣っていた。
さっきまでのテンションの高さはどこに消えたのだろうか。
「嫌ならやめるぞ?」
「いや、やらせてもらいます! なぁ?」
「うっ……うん」
「そうね……」
アルとラブに関してはどこか雲行きが怪しい。
このままだと訓練にはならなさそうだけど、危ないと思ったら俺が倒せば問題ない。
門番に挨拶を済ませ、外に出て少し歩くとユーマ達は武器を構えた。
「よし、行くぞー!」
――ピヨーン! ピヨピヨ!
鳥のような鳴き声が周囲に響く。
「相変わらず力が抜ける笛の音だよな」
「なんでこれで魔物が集まってくるんだろうね」
「獲物だって勘違いしているんじゃないか?」
早速言ったそばから魔物が集まってきた。
『キキキ……キシャアアアアアアア!』
「ちゃちく、きちゃがきたよ?」
「あっ、忘れてたな」
先頭にはキシャが走っており、その後ろに魔物の大群が押し寄せてきた。
いつもは嬉しそうに笑っているキシャだが、泣き叫んでいる。
「たのちちょうだね」
「鬼ごっこしてるみたいだもんな。参加する?」
「んー、どうちようね?」
「いやいや、そこは止めろよ!」
ヴァイルと鬼ごっこをしようとしたら、ユーマに止められた。
バカなユーマに止められて、少し複雑な気持ちになるが一発叩いておけば良いだろう。
それともチョップにするか迷うところだな。
「痛っ!? 急に何するんだよ!」
「気合いを入れろよ」
「おっ、おう! バフもサンキュー」
さすがに訓練前に意識を刈り取ったら意味ないから、軽く張り手をしておいた。
ついでに聖職者の力で痛みを和らげたが、ステータスに補正がついたようだ。
「じゃあ、頑張れよ」
俺は近づいてくるキシャに飛び乗ろうと足に力を入れる。
「ちょっと待った!」
「ちょっと待って!」
だが、アルとラブに止められてしまった。
「どうしたんだ?」
「私達じゃ一匹も倒せないからね?」
「そのためにヴァイトに頼んだよ」
「あっ……そうなのか?」
何も気づいてないユーマに二人はため息を吐いていた。
「バカから何も聞いてないのね」
今日のことについて話し合う時には、二人は宿屋を探すためにその場にいなかった。
二人はユーマがちゃんと俺に話したと思ったのだろう。
完全に役割ミスをしたな。
「私達のレベルじゃ訓練にもならないのよ。即死よ! 即死!」
「いくらヴァイトが準備してくれた装備でも元が弱いからね」
ユーマ達は俺が実験で作った武器や防具を纏っている。
それでも勝てないなら相当訓練が必要なんだろう。
『キシヤアアアアァァァァー!』
気づいた時にはキシャが泣きながら擦り寄ってきた。
近寄りすぎて押しつぶされそうだ。
「ちょっと、近い近い! これじゃあ、戦えないだろ!」
『キシャ……キシャアアアアアアア!』
まるで大型犬のように擦り寄ってくる。
大型ムカデでも、この周囲の魔物は怖かったのだろう。
町に入るときも体を擬態させていたしな。
俺はそのままキシャの頭によじ登り弓を構える。
「手足を吹っ飛ばすぐらいでいいか?」
ユーマ達は頷いていた。
正直どこまで弱らせたら、訓練になるのかはわからない。
とりあえず魔物の足に向かって矢を放つ。
――シュ!
ちなみに今回はちゃんと普通の矢を使っている。
あまりに強く放つと吹き飛びかねないし、槍の形をした矢はどうしても周囲をめちゃくちゃにする。
――ドガーン!
矢は魔物に触れるとそのまま破裂した。
俺達は唖然としてしまった。
何が起こったのか俺もわからない。
普段ならあれぐらいの力であれば、手足が吹っ飛ぶぐらいだ。
それにこの辺の魔物は強いとさっき聞いたから大丈夫だと思った。
だが、全くそうではなかったようだ。
「もう一回やってみるな」
――シュ!
もう一度魔物に向かって矢を放つ。
勢いよく矢は魔物に向かっていく。
ただ、よく見ると普段よりも矢のスピードが速くなっている気がする。
――ドガーン!
どうやら俺が矢を放つと魔物を殺してしまうらしい。
原因を探るために、HUDシステムを開きステータスを確認する。
「あー、AGIが影響しているのか……」
普段よりも弓を射るのが速いと思ったら、AGIを上げたことでコントロールできず、速さが矢に載っていたのだろう。
ユーマだけじゃなくて俺も訓練が必要だな。
少しのステータスの変化が戦闘ではかなり変わることを再び認識させられた。
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