第76話 NPC、精霊を捕まえる

「いやーやー、オラもいくー!」


 夜の営業を終えた俺は早速網を持って森に行こうとしたが、ヴァイルがくっついて離れようとしない。


「夜は魔物が多いから――」


「いやーだー! オラもいくもん!」


 ずっとヴァイルが付いていくと言って離れない。


 一人であれば斥候スキルで目立たない。


 ただ、ヴァイルがいると目立ってしまうため、魔物が寄ってくる。


 お昼であれば視界は良いため、特に問題はなかったが、精霊が姿を現すのは満月が出ている時だ。

 

「ほらほら、今日はネーネと寝ればいいのよ」


「ネーネちゅめたいもん!」


 チェリーは冷たいと言われて落ち込んでいた。


 確かにチェリーって死体かと思うほど、寝ている時は冷たいからな。


「なら俺と寝るか?」


「バビーくちゃい!」


「なっ!?」


 必死にバビットは自分のにおいを嗅いでいる。


「まだ加齢臭はしていないですよ?」

「バビットさんは臭くないですよ?」


「だよな? 俺はまだ臭くなってないはずだぞ!」


 バビットもまだって言うことは、近場に加齢臭で気になる人がいるのだろうか。


 ヴァイルは獣人だからにおいには敏感だ。


 撫でようと思って手を伸ばした時に、避けられている人がいたら、きっと加齢臭を放つ人が特定できるはず。


 消臭スプレーを作ったら売れそうだな。


「オラもいくもん……」


 このままだと俺は精霊を捕まえにいけないだろう。


 それに半年に一回しか機会がないからな。


 ぜひ、今日のうちに俺ももふもふが欲しい。


「よし、今日はヴァイルに俺のベッドを守ってもらおう!」


「まもりゅ?」


「ああ、俺のベッドがなくなったら寝れないだろう? だからヴァイルにはそのクエストを与えよう!」


 俺はいつもヴァイルと一緒に寝ている。


 ヴァイルにはデイリークエストの話をしているため、自分だけが社畜じゃないことを気にしていた。


 それならとクエストを与えることにした。


「ヴァイルはベッドを守ってくれるか?」


「ラジャ!」


 ヴァイルは両手をあげて敬礼する。


 うん、そこは片方でいいんだぞーっと思うが可愛いから黙っておこう。


「じゃあ、行ってくるよ!」


「気をつけてね!」

「ああ、いってらっしゃい!」

「きをちゅけてー」


 俺は家族に見送られながら、精霊がいる森に向かった。



 森の中は精霊が出てくるって言われているからか、どこか幻想的に感じた。


 きっと月明かりがそう映っているのだろう。


「それにしても魔物が多いな!」


 夜に出てくる魔物は今までと異なり、凶暴化していることが多い。


 その特徴は瞳が赤く染まっている。


 攻撃性が高く、素早さも高い。


 それに自分が攻撃されているのにも関わらず、気にせず突っ込んでくるのだ。


 どこか俺の狂戦士の状態に似ている。


 そんな魔物達を俺は薙ぎ倒していく。


 もう何匹倒したかわからないほど出てくる。


 本当にこんなところに精霊がいるのだろうか。


 そんなことを思いながら森の奥に進むと、キラキラと輝く池を見つけた。


「こんなところに池ってあったか?」


 今まで森に行くことはあったが、池を見たのは初めてだ。


 そんなに奥まで来たのかと思う反面、ちゃんと帰れるのかと不安に思ってしまう。


 まぁ、最悪木を登って町の位置を確認すればいいからな。


 俺が池に近づくと体を洗っている奴がいた。


 暗くてよく見えないが、シルエットからして精霊で間違えなさそうだ。


 それにしても何か話している。


「ふふふん、久しぶりの水浴びはいいな」


 聞こえてくるのは鼻歌と気持ち良さそうに水浴びをしている声だ。


 それにしても水浴びが久しぶりって、自分で不潔って言っていることになる。


 流石にあんな精霊はいらないな。


「いや、精霊って話すのか?」


 勇者達の精霊で話すやつは見たことがない。


 それならここで捕まえてしまえば、ユーマ達に自慢できるだろう。


 そう思いながら網に持ち替えて、ゆっくりと近づいていく。


「ふふふ、これでワッシもピッカピカアアアアア!」


 ちょうど良いタイミングで網を下ろすと、無事に精霊を確保できたようだ。


 網の中にしっかりと体が収まっている。


 どこかで聞いたことあるキャラクターの鳴き声が聞こえてきた。


 俺もあのゲームをやりたかったな。


「なななな、何をするんだ!?」


「なにって……捕獲?」


「捕獲だと!?」


 今頃捕獲されたとわかったのだろうか。


 俺は逃げないように素早く紐を結んでいく。


「ワッシを誰だと思っているのだ! ワッシは大――」


「ネズミ!」


 見た目は完全にネズミに似ている。


 直接ネズミを見たことがないが、前歯が出ているからな。


「誰がネズミだあああああ! ワッシはマーモットだ!」


「マーモットってなんだ? もうネズミで良いじゃんか」


「そんな下級生物と一緒にするでない! これでも大ああああああ!」


 話す精霊は珍しいと思ったが、うるさいのも考えようだな。


 俺は紐を引っ張って家に帰ることにした。

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