第77話 NPC、精霊をお風呂にいれる

「ワッシは大――」


「大マーモットね! もう聞き飽きたよ」


「ちゃんと聞けー!」


 あれからしゃべる精霊はずっとうるさかった。


 だから、その都度あることをして黙らせている。


「とりあえずいけ!」


「キチクウウゥゥゥ!」


 一度向かってきた魔物に対して投げつけたら、静かになった。


 だが、ここでも鬼畜と言われるようになってしまった。


 ちょうど魔物にぶつけるにはサイズ感も良いし、紐を引っ張れば戻ってくるからな。


 ひょっとしたらこれも訓練になりそうだな。


 今度ユーマで試してみようかな。


 そのままズルズルと精霊を引っ張って帰る頃には満月が沈みかけてきた。


 そのまま朝活をするには、少し早いがちょうど良い時間帯だろう。


「はぁー。おっ、精霊は捕まえられたか?」


 町の入り口に行くと門番に声をかけられた。


 夜勤帯の交代はそろそろだから眠たそうだな。


「ここにいますよ」


「ここ?」


 門番は俺の足元にいる精霊を凝視していた。


「なんかおじさんみたいだな」


「お尻が痒いみたいで――」


 精霊はお尻をポリポリと掻いている。


「ここはお尻じゃなくて背中だ! それにワッシは大――」


「大マーモットらしいです」


「大マーモット? なんだそれ?」


「俺にもよくわからないけど、話す精霊って珍しいからこいつで良いかなって」


 俺は精霊に強さは求めてないからな。


 たまにもふもふできて、ユーマ達に自慢できたら問題ない。


 それに話せたら、俺が寂しい時に話し相手にもなる。


 仲間はずれになると、最近寂しいと実感することが増えた。


 昔みたいに何も感じなければ、孤独は感じにくかった。だが、人と触れ合うほど寂しく感じてしまう。


 これがよかったのかどうかはわからない。


「おい、ワッシを無視するな!」


「何か言ってた?」


「はぁー、なぜワッシはこいつに捕まったんだ」


 そう言って精霊は俺の足をガンガン蹴っていた。


 でも体が小さいから痛くないよな。


 人が寂しさを感じる時にペットを飼うのは、こういう気持ちなんだろうか。


 俺は精霊を抱きしめる。


「クッサ!?」


「なっ……ワッシに何てことをいうんだ! そもそもお前が半年に一回の水浴びを邪魔したのが悪いんだ!」


 ん?


 こいつは半年に一回しか体を洗っていないのか?


 それはそれで問題のような気がしてきた。


 朝活をしようと思ったが、それどころではない。


 俺は急いで家に帰り、精霊を洗うことにした。



 家に帰るとみんなまだ寝ているようだ。


 起こさないように静かに裏庭に移動する。


 小さめの樽に石鹸を入れて、モコモコと泡を作っていく。


「ワッシになにする気だ?」


「何って……汚いやつは飼えないぞ?」


「なっ、ワッシを飼うつもりか!?」


 今頃何を言っているのだろうか。


 精霊を飼うために俺は連れてきたからな。


 それに汚い状態だとバビットに怒られてしまう。


 樽に精霊を入れて、泡を付けながら洗っていく。


「思ったよりも汚いんだな」


 すぐに泡は黒く染まり、毛の中に挟まっていたゴミが浮遊している。


 一度精霊を取り出し、また水を交換しては何度も同じことを繰り返す。


「あああ、そこ気持ちいぞ!」


「ここか?」


「そそそ、ワッシのことをわかっているじゃないか」


 気づいたら言われたところを掻きながら洗っていた。


 ただ、ガシガシしてどこか硬そうに見えた毛ももふもふすると、想像以上に柔らかかった。


 これが高級なもふもふというやつだろう。


「そういえば、精霊は満月の日しか姿を見せないのは何かあるの?」


「ああ、ワッシらは魔力を自分で集められないからな。魔素が濃くなる満月の日にだけ出て来れるんだ」


 魔素は魔力の元と言われている。


 それだけ精霊が魔力の集まった形なんだろう。


 ん?


 満月の日にしか現れないってことは――。


「おいおい、体が透けてきているんじゃないか!」


「ははは、ワッシはそろそろ精霊界に帰る頃だな」


 精霊は精霊界から来てるのか?


 せっかく捕まえたのに帰るってどういうことだ?


「俺の精霊になるんじゃないのか?」


「ずっとワッシの話を無視していたのはお主じゃないか!」


「だって大マーモットって言ってるじゃん!」


「はぁー」


 なぜか精霊にまで呆れた顔でため息を吐かれた。


「まぁ、お主は一人じゃないからな」


 そう言って精霊は俺の頭をポンポンした。


 いや、単に指と指の間に小さな石が挟まって取ろうとしているだけかもしれない。


 それでもどこか冷静になってきた自分がいる。


「俺が逃すと思うか?」


「はぁん?」


 俺は精霊を掴んで魔力を流してみる。


 魔力のコントロールは伊達に毎日やっていないからな。


 それに俺はINTが他の人より高い。


 もうそろそろで四桁・・になりそうだからな。


「おい、ちょっと待って! ワッシは精霊界に――」


「帰さないぞ!」


――ポン!


 大きな音とともに周囲が煙に包まれる。


「おい、ひょっとして……」


 そこには茶色から灰色に色を変えた精霊がいた。


 あれ?


 あいつまた汚れていないか?

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