第60話 NPC、性格が変わる
声をかけてきたのは子どもの中でも、比較的大きな女の子だ。
きっと彼女が小さな子達を気にかけていたのだろう。
「誘拐っていつから?」
「ここにきたのは二週間ほど前です。私は近くのセカンド町に住んでました」
二週間程度ってことは、勇者達が町にいる時期と同じぐらいだろう。
それにしてもセカンド町とは隣町のことを言うのだろうか。
俺の住んでいる町すら、名前を聞いたことがないため、どこの町なのかも分かりづらい。
――ぐぅー!
そんな中、どこかからお腹の音が鳴っていた。
きっと今まであまり食べさせてもらえなかったのだろう。
身なりもボロボロだし、ところどころ出血している箇所もある。
「ちょっと集まってきて」
俺の言葉に警戒しながらも、子ども達は集まってきた。
回復魔法をかけて傷を治した。
その後、解体師スキルで汚れを落としていく。
綺麗になっていく自分達の姿に、みんな喜んでいる。
「しぃー! 静かにしないとバレるからね」
俺の言葉に子ども達は小さく頷く。
みんな良い子のようだ。
それに種族もバラバラなのに仲が良さそう。
「それじゃあ、お家に帰ろうか」
このままアジトのボスを捕まえるのが一番良いのだろう。ただ、子ども達を危険な目に遭わすほどのことではない。
俺は警察官でもないからな。
モットーは〝いのちだいじに〟だ!
子ども達の命を守るのが、今の俺の役目だ。
ただ、そのままやつらを見逃すのも嫌な俺は、使ったことのない呪術師スキルを使うことにした。
「ひひひ」
「おおお兄さん!?」
突然の変化に子ども達は戸惑っている。
俺は静かにするように伝えると、ボスがいる部屋まで向かった。
「ははは、これだけ金と子どもがいたらこの町には用はないだろう」
「ボス、次はどこの町に行きますか?」
「この際、王都まで行くのはどうでしょう? 奴隷商人にも会わないといけませんし」
王都……?
それは東京都みたいなところだろうか。
同じようなニュアンスを感じる。
「ああ、そうだな」
どうやらあの子ども達は奴隷商人に売られる予定らしい。
この世界には奴隷がいるのだろう。
俺を助けてくれたのがバビットで良かったと改めて思う。
俺はスキルを発動させた。
「なっ……なんだ!?」
突然、男達が震えだした。
このスキルが何かはわからないが、前にジェイドが呪術師のスキルは呪う対象をずっとマーキングすることができると言っていた。
ええ、俺はエリックにマーキングされているらしい。
俺が近づくと裏エリックだった場合、逃げていくのはそういう仕組みのようだ。
よく一緒にいるジェイドだから、その変化に気づいたのだろう。
急に目の前にHUDシステムが現れて、地図と名前が表示された。
きっとあいつらの名前なんだろう。
これで俺の役目も終わりだ。
俺は急いで子ども達の元へ戻る。
――ガチャ!
「お兄さん?」
「ふへへへ」
「ヒイイィィィ!」
どうやら呪術師の感覚が抜けなかったのだろう。
子ども達を驚かせてしまった。
強制的に意識を戻し、問題ないかのように微笑む。
「こっ……怖いよ……」
あれ……?
呪術師の顔はとっくに投げ捨てたはずだが、そんなに俺の顔が怖いのか。
「本当にお兄さんですよね?」
「ああ、俺だぞ?」
どうやら急に人が変わったような感じがして怖かったのだろう。
狂戦士と呪術師は性格や行動が全く別人格のように変わるからな。
戦いの場面を見たら、もっと引かれそうな気がする。
「急いで帰るぞ!」
俺は子ども達を抱きかかえて、悪党のアジトを後にした。
子ども達は全員合わせて五人。
肩車するのに一人。
両脇に抱える二人。
そして、残りの二人は縄で体の前後に結びつけて移動する。
少し走っていると、突然HUDシステムが反応した。
「保育士……?」
どうやら子ども達と遊ぶと一般職である保育士のデイリークエストが出現したようだ。
呪術師同様、師匠に指導されずに出てくるデイリークエストに驚きだが、色々な才能があるのだろう。
まぁ、俺自身子どもは好きな方だったからな。
そんなことを思いながら、俺は隣町に向かった。
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