第59話 NPC、アジトに侵入する

「もう無理だああああ! このままじゃ死んじまう……」


「まだ生きてますよ?」


「殺してくれえええええ!」


 さっきから死にたいのか生きたいのか全くわからない。


 ちゃんと男を脅しながら鬼ごっこをしていたら、無事にアジトまで場所を教えてくれた。


 別に回復魔法をかけながら、死ぬギリギリで走らせているのに、そこまで気にする問題なんだろうか。


 それにしてもまたここに来るのかと思ってしまうほど、俺はこの場所に縁があるようだ。


「また森の中か……」


 アジトがあると言われたのは、大蛇を討伐した森の中だった。


 結局町の半分まで戻ってきてしまった。


 場所としては師匠達が勇者達を指導すると、奥に連れていったところに洞窟の入り口のようなものを見つけた。


 その先に隠れているようだ。


「じゃあ、お前はここで待ってろよ」


「えっ……」


 さすがにそのまま放置するわけにもいかないため、男を木に結びつけてぶら下げておく。


「ここにはゴブリンかホーンラビットしかいないから大丈夫だ」


 大蛇のような強い魔物がいないため、きっと問題はないだろう。


 アジトもすぐに制圧できそうだしな。


「おーい! 下ろしてくれよおー! 鬼畜ー!」


 何か叫んでいたが、俺は無視することにした。



 俺は斥候スキルを使ってアジトに近づく。


「最近勇者ってやつが町にいたが、あいつらいまだに俺達の存在に気づいてないぞ?」


「ハッヤイーナの情報がバレたが、あいつは切り捨てればいいからな」


「ははは、それが確実だな。ボスもそろそろ次の町に行くって言っていたからな」


 どうやらハッヤイーナは、この組織の中でいらないと判断されたらしい。


 それはそれであいつに同情してしまう。


 それにしても次の町って、ひょっとしたら俺らの町のことを言っているのだろうか。


 こいつらよりも、確実に今のジェイドやエリックの方が強いから問題ない。


 ジェイド達を特訓しておいて良かったと思うほどだ。


 初めてあった時よりも強くなったからな。


 ただ、問題は早期解決しておいて損はない。


「とりあえず、どこの町を襲うつもりですか?」


「そりゃー、ここからすぐの――」


「はい、アウトー!」


 答えを聞く前に俺は二人の意識を刈り取る。


 ここからすぐだと、確実に俺らの町しかない。


 俺はその後縄で縛りつけて、入り口付近の木にぶら下げておいた。


 しっかりと魔物に襲われないように対策は忘れていないからな。


 中に入っていくと、洞窟の中は何かで掘ったような形跡があった。


 ひょっとしたら炭鉱とかに使われていたのだろうか。


 まぁ、実際に炭鉱がどういうのか、見たことがないからわからない。


 そのまま奥の方へ歩いていく。


「場所によって部屋が分かれているのか?」


 一番奥の部屋と途中にある部屋に人の気配を感じる。


 他は特に人がいないようだ。


 俺はひとまず途中にある部屋に向かった。


「なあ、こいつらって奴隷として売ったらいくらになるんだ?」


「子どもは結構価値が高いからなー」


「まさか奴隷として売るのか?」


「ああ、こいつらはそのために……お前は誰だ!?」


 やはり隠れていても、声をかけたら俺の存在はバレてしまうようだ。


 さすがに聞いたことがない声が聞こえたら警戒するよな。


 俺はその場ですぐに意識を刈り取って気絶させる。


 本当にこいつらは悪党なのかと思うほど弱い。


 俺がバシッと手で叩くだけで、体がグニャと曲がってしまう。


 たまに可哀想だと思い、回復魔法で治療はしてあげるが、そんなに俺のステータスは高いのだろうか。


 逃げないように縄で縛ると部屋の中に入る。


 そこには数人の子ども達が固まって座っていた。


 扉が開いたことで警戒を強めた。


「お兄さんは怪しいものじゃないよ?」


 優しく声をかける。


 子どもを怯えさせてはいけないからな。


「ヒイイィィィ!?」


 あれ?


 こういう時って怪しい人じゃないと、伝えれば良かったんじゃなかったのか?


 なぜか子ども達が怯えている。


「ああ、手に縄をもっていたからか」


 ひょっとしたら捕まって、何かされると思ったのだろう。


 俺の後ろには縄で縛られている男達がいるからな。


 少し体がグニャってなっているが、治療はしてあるから問題はないはずだ。


「どうして君たちはここにいるんだ?」


 子ども達はお互いに顔を見合わせて口を開いた。


「私たち誘拐されたの……」


 どうやらこの組織はものを盗むだけではなく、子ども達も誘拐していたようだ。

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