第61話 NPC、兄妹喧嘩をする
「うひいいいいい!」
「しゅごーい!」
「怖い怖い怖いー!」
俺が走っている時の子ども達の反応は様々だった。
スピードを楽しんでいる子もいれば、怯えている子もいる。
一番年上だった子なんて、俺に抱えられながらそのまま気絶している。
車とかに乗ったことがない人なら、びっくりする速さだろう。
まぁ、半日で着く隣町まで一時間もかからずに着いちゃうからな。
馬車よりも速いのだろう。
我ながら速く走れるようになったと思う。
俺が再び町に着くと、門番が声をかけてきた。
「この町は……ってお前か!」
「無事にアジトまで行ったので、子ども達を助けてきました」
「子ども達を助けたって!?」
子ども達の顔を見て門番も驚いている。
「すぐに知らせてくる。お前達は中に入れ」
そう言って俺らは町の中に入った。
そういえば、チェリーはどこにいるのだろうか。
周囲を見渡しても見当たらないし、デイリークエストでもしているのだろうか。
「そういえば、妹はどこにいますか?」
「あれ? お前の後を追いかけて行ったはずだぞ?」
その言葉に俺はどこか背中がゾワゾワとした。
嫌な予感がする。
後を追っていたらここに戻ってくる時点で、会っているはずだ。
それなのにチェリーには会っていない。
「ごめん、妹を探してくる!」
俺はそう伝えて再び森に戻った。
すぐにHUDシステムを開き、マーキングしたやつらの動きを確認する。しかし、悪党達は移動していないようだ。
そのまま洞窟の中にいるってことは、子ども達がいなくなったことがバレてはいない。
それにチェリーが見つかっていたら、きっとマーキングしているやつらが動くはずだ。
俺は森の中に行くと、木にぶら下がっているハッヤイーナを見つける。
そういえば、こいつの存在を忘れていた。
必死に飛びかかってくる無数のホーンラビットの攻撃を避けていた。
角の生えたうさぎ達って、数が増えると中々厄介だからな。
俺はそんなことを思いながら、お手製のショートランス型の矢を放つ。
一瞬にして、風を切り裂きながら矢はホーンラビットに突き刺さっていく。
「助か……死ぬうううううう!」
ハッヤイーナはホーンラビット達が死んで助かったと思ったのだろう。しかし、俺の顔を見た瞬間、その場で気絶してしまった。
本当にMNDが低すぎじゃないか?
このままだとこの人は生きていけるのか心配になってしまう。
ひょっとしたらMNDが低すぎて結果、悪党になったのだろうか。
それならINTも関係していそうだ。
俺はそのままハッヤイーナを放置して、悪党のアジトに再び潜入する。
同じように入り口を見張っていたやつも、ホーンラビットに狙われていたが、放置しておいた。
気絶でもされたら町に連れて帰る時に面倒だからな。
走らないやつは引きずっていくことになる。
それを本人達が望んでいれば良いが、気絶している人に回復魔法が効くかもわからない。
いや、試しに実験するのも良いかもしれない。
そんなことを思っていると、コソコソとしているチェリーを発見した。
「こんなところで何やってるんだ?」
俺はゆっくりと近づき声をかける。
「ひゃあい!?」
斥候スキルを解除して声をかけたはずが、チェリーは驚いて大きな声を上げた。
その場で腰を抜かして、立てなさそうな状態だ。
「おい、外から声がしたぞ!」
「あっ……」
チェリーが覗いていたのは、ボスがいる部屋の前だった。
「おいおい、チェリーが大きな声を出すから見つかっただろ」
そんなところで大きな声を出せば、自然と見つかってしまう。
俺達は扉を開けた悪党達に見つかってしまった。
「お兄ちゃんがびっくりさせるからでしょ!」
「いやいや、俺はスキルを切っていたぞ?」
「切ってても急に声をかけたらだめだよ!」
「ならどうやって声をかければ――」
「てめぇら、俺を無視するんじゃ……」
「うるさい!」
「静かにしてて!」
俺とチェリーは声をかけてきた男を殴る。
ハエのようにブンブンと声を出されたらたまったもんじゃない。
「そもそも町にいたらよかったじゃないか!」
「それなら先に言ってよ! 何も言わずに走って行ったのはお兄ちゃんでしょ!」
「おい……ボス大丈夫か!? ボス起きろ!」
手下達が一生懸命ボスを起こそうとしているが、全く起きないようだ。
俺達の初めての兄妹喧嘩はしばらく続いていた。
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