第47話 NPC、出会う

「本当にやることがなくなってきたな……」


「今日は鬼ごっこしなくて良いのか?」


「もうやって来たよ?」


「ああ、そうか……」


 師匠達の鬼ごっこはあれからも続いている。


 最近は走る時間も変えて、効率よく鬼ごっこをするようになった。


 効率よく鬼ごっこをするのもどうかと思うが、遊びに見えて遊びじゃないからな。


「おい、ヴァイト! 今日も夕方に鬼ごっこ――」


「しません!」


「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ」


「死にません!」


「掃除と飯は?」


「それはやります!」


「なら今日も頼む」


 いつものように師匠達は店に来ていた。


 鬼ごっこの影響で様々な変化が出てきた。


 まず、ジェイドだが今まで問題だったスピードや持久力が改善された。


 昔よりも動きやすくなった影響か、最近は朝と夕に鬼ごっこを求めてくる。


 更なる高みを目指したいらしい。


 次に変化が起きたのはエリックだ。


 いつのまにか、性格も少し変わってしまった……。


 最近は呪術というものに目覚めて、魔法使い以外に呪術師という才能が芽生えたらしい。


 常に変わった呪文を唱えている。


 そのうち俺も教えてもらうつもりだ。


 そして、最後はレックスだ。


 レックスは規則正しい生活をするようになった。


 以前の堕落した生活とはおさらばしたが、未だに掃除と食事の手助けをしてくれと言ってくる。


 拳闘士はユーマのように脳筋が多い。


 そんなレックスの変化は、町でも大騒ぎで夫を変えて欲しいと言ってくる女性が増えている。


 今では家事を覚えようとしているからな。


 これだけ師匠達が変わったのに、俺だけ生活に変化がないのだ。


 冒険者ギルドからは弟子をつけたらと言われるが、今は弟子になりたい人や勇者すらいない。


 そもそも俺に弟子って何を教えれば良いんだ。


「ちょっと散歩してくるよ」


 新しい発見のために俺は散歩に行くことにした。


 せっかく冒険者になったのに、あまり町の外に出る機会がなかったからな。


 装備品を整えて、いざ門から出て外を歩く。


 今までは隣町の間にある森にしか行ったことがなかった。


 せっかくだから近くにあると聞いた祠に行くことにした。


 勇者達はみんなその祠から召喚されていると聞いた。


 謎の祠に少し興味が湧いたのだ。


 しばらく歩くと、木製の屋根が見えてきた。


 祠っていうと祭壇があって、華々しいイメージを想像していた。


「これが祠で合っているのか?」


 ただ、目の前にあるのは地面にくるっと円の形に沿って文字が書かれているだけだった。


 祠から勇者が出てきたって、聞いただけではそこまで気にはならないだろう。


 だが、目の当たりにすると、どうやって人間が出てくるのか疑問に思うほど不思議なところだ。


 それに文字を読んでみるが、何が書いてあるのかもわからない。


 日本語でもないし、この国の言語でもない。


「まぁ、勇者は謎の人物だってことだな」


 特に祠には何もなく、町に帰ろうとしたら突然祠が光り出した。


 あまりの眩しさに目を閉じると、何か音が聞こえてくる。


「わぁー、本当に別の世界だー」


 突然声が聞こえてきた。


 さっきまで誰もいなかったはず。


 俺は大きく一歩下がり、警戒を強める。


「誰だ!」


「あのー、はじまりの町はどっちに行ったらありますか?」


 その声を聞いて、俺の中で何かがざわめき出す。


 まさかこんなところにいるはずがない。


 ただ、声はあいつに似ている。


「さ……くら……?」


 俺はゆっくりと目を開ける。


「えっ……名前はチェリー・フローラですけど?」


「ああ、すまない」


 きっと目の前にいる人物は勇者だろう。


 妹がこんなところに来るはずがない。


 それに雰囲気は妹に似ているが、胸も大きく身長が高い。


 俺の妹はもっとチンチクリンだったからな。


「えーっと……チェリーだったかな?」


「はい!」


 明るい返事にちょっと戸惑ってしまう。


「町に行きたかったんだよね?」


「連れて行ってくれるんですか?」 


「どっちにしろ町に帰るからね」


 俺はそのまま町に向かって歩き出した。


 見た目と中身にどこかギャップを感じる勇者。


 大人な見た目なのに、声と話し方が合っていないような気がした。


 やはり勇者はどこか変わっているのだろう。


 これが初めてチェリーに会った時の印象だった。

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