第46話 師匠、誰か止めてくれええええ! ※冒険者視点
俺は門の近くまで一気に走った。
ヴァイトと鬼ごっことか意味がわからない。
あいつの鬼ごっこは延々に追いかけられて、終わりのない地獄だ。
いつも勇者達とやっているのを見ていたが、まだ魔物達に囲まれている方が生きた心地がしていた。
「ジェイド、そんなに急いで――」
「シィー!」
門番が声をかけてくるため、静かにするようにジェスチャーをした。
あいつはこの町の中で一番足が速いからな。
いつもパッと出て……。
「みいーつけた」
どこからかヴァイトの声が聞こえて来た。
斥候スキルも持っているため、あいつの存在は認識しづらい。
周囲を見渡すとニヤリと笑うヴァイトが目の前に立っていた。
「うわあああああああ!?」
俺はヴァイトに捕まって――。
いなかった。
「はい、じゃあ他の人を探しますよお」
「えっ?」
ヴァイトは俺の体に紐を巻きつけた。
あいつはなにをするつもりだ?
足に力を入れて急に走り出すヴァイト。
紐に繋がれた俺がどうなるかはすぐにわかるだろう。
「うおおおおおおお!」
そのままズルズルと引っ張られる。
これは強制的に走らないといけないってことだろう。
町に出たら武器や拳を振り回せないからな。
人の目を気にせず、俺はただひたすらに走った。
♢
僕はバビットの店に逃げ込んだ。
「少し匿ってください!」
「ん? エリックどうしたんだ?」
「ヴァイトに追われているんです!」
ヴァイトもまさか自分の家にいるとは思わないだろう。
他のやつらは僕と違って、ただ逃げることしか考えていない。
体力がない僕はひっそりと隠れて、見つからないように潜むつもりだ。
バビットも不思議そうな顔で僕をみていた。
さすがに誰も考えつかない案に、僕は笑いが止まらない。
あっ、笑っていたら見つかってしまう。
「それなら意味ないぞ?」
意味がないとはどういうことだ?
「笑っているところ悪いが……」
「ずっと前から目の前にいましたよ?」
「へっ!?」
気づいた時には目の前にヴァイトがいた。
「うわああああああ!?」
あまりの驚きにその場で叫んでしまう。
こいつは姿が見えない魔物のレイスなのかと思うぐらい、急に現れたのだ。
斥候の才能があるからって、ここまでの実力があるとは思わなかった。
「エリックさんの魔力はわかりやすいので、すぐに見つけられますよ?」
「それってどういうことだ?」
魔力で人を判断する。
そんなことができる人物って王宮魔導士団ぐらいだ。
ヴァイトにそこまで実力があるのだろうか。
「んー、なんとなくよくいる人の魔力や雰囲気って感じ取れるんですよね」
どうやら魔法使いとしての実力ではないようだ。ただ、他の才能でカバーするのもヴァイトの実力だろう。
「くくっ、さすが僕の弟子だよ」
「ありがとうございます」
そう言ってヴァイトは僕に紐を巻きつけてきた。
これは何をやっているのだろうか?
「じゃあ、行きますね?」
「えっ?」
まだ立ち上がってもない僕を引きずっていくヴァイト。
店の外に出ると、他の冒険者達も捕まっていた。
「ジェイド……もう捕まっていたんだな?」
「ああ、俺は一番だったからな。こいつの訓練は地獄を超えていた……」
ジェイドの顔はどこかやつれていた。
いや、ジェイドだけではないのだろう。
ヴァイトは一人ずつ疲労感を管理して、回復魔法をかけているようだ。
そんなことされたら永久に走れる人間になってしまう。
ああ、こりゃー地獄だな。
♢
「鬼ごっこなんてやってられるか!」
すぐに家に帰って来た俺は早速酒を飲もうと準備をする。だが、いつも置いてある酒が見つからない。
「ヴァイト隠しやがったな!」
「ちゃんと働かないレックスさんが悪いんですよ?」
「いやいや、そんなこと言っても俺の楽しみぐわぁ!?」
「はい、捕まえました」
いつのまにか体に巻きつかれた紐。
拳闘士として速さと俊敏さが自慢だったが、俺はもう酔っているのだろうか。
いや、俺はまだ酒を一滴も飲んでない。
「これ以上酒を飲むなら、掃除に来ないですよ?」
ニッコリと微笑むヴァイトに俺はすぐに頭を下げる。
「掃除だけはお願いします!」
こいつがいなければ俺の家はゴミ屋敷になるからな。
ついでに美味しいご飯もいくつか用意してくれる。
こんな嫁がいたら、堕落していた俺でも幸せになると思ってしまう。
まぁ、男には一切興味がないからな。
いや、ヴァイトみたいな女が嫁だったら、一生酒が飲めなくなるか。
「さっきから何か悩んでますが行きますよ!」
俺は考えている間も引きずられていく。
外にはぐったりとして動かなくなった仲間達。
いつも仲良くしているジェイドやエリックはすでに捕まっていたようだ。
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ」
エリックなんて生きているのかわからないほど、感情が抜け落ちていた。
何かずっと呪術師のようなことを言っている。
どうやら俺達は、最高の弟子ではなく、最強の化け物を作ったかもしれないな。
そう思っている間もなく俺達はその後も走らされることになった。
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