第45話 NPC、師匠を巻き添えにする

「あー、やることないな」


 ユーマ達が隣町に行ってから、特に新しいデイリークエストも増えたわけでもなく、ボーッとする日が増えた。


 魔物の活動もあれから落ち着いているため、討伐に行かなくても良い。


 むしろ、冒険者として生計を立てている人の邪魔になってしまう。


「久しぶりに休んでるな」


「暇なのも大変ですね」


「うーん、それは大変なのか大変じゃないのかわからないな」


 昔は仕込みも30分かかっていたのに、今じゃ5分もあればできてしまう。


 朝活としてデイリークエストを半分以上終わらせて、営業前に残りを終えたら昼過ぎはやることがない。


「それなら散歩でもして来たらどうだ?」


「そんなことしたら大変なことに……ならないな!」


 ユーマ達と別れてから、俺も気になったため隣町の近くまで行ってみた。


 決して心配で後を追いかけたわけではないからな?


 その影響かわからないが、俺を追いかけ回していた勇者達も隣町に向かっていった。


 町には勇者はほぼおらず、いるのはまだ弟子入りしている生産ギルド所属の勇者達ぐらいだ。


 遠く離れた王都や小人族が住む国の方が、生産職にとっては勉強になるため、一人前になったら移動していくらしい。


「新しい職業体験ができないか探してくるよ」


 俺は新たな職業体験を求めて散歩することにした。


「ん? それは散歩と言わ……はぁー、あいつはいつになったら休むんだ」


 バビットが何かを言っていたが、俺の耳には聞こえていなかった。



 まずは冒険者ギルドに行くことにした。


「こんにちは!」


「ヴァイトくん、また戻ってきたの?」


 朝一に冒険者ギルドに行った時に、すでに事務仕事を手伝っていた。その後、戦闘職のデイリークエストを行っているため、ギルドに来るのは二回目だ。


「やることがなくて暇なんですよね」


「私達も暇よ?」


 冒険者ギルドも勇者達が隣町に移動したことで、以前の静けさを取り戻していた。


 それだけ勇者達がいたことで生活がガラリと変わったのだ。


「たまには俺と模擬戦でもするか?」


 声をかけて来たのはジェイドだ。


 今日は魔物の討伐に行っておらず、冒険者ギルドで他の冒険者と情報共有をしていた。


「模擬戦ですか? それなら鬼ごっこのほうが――」


「いやいや、俺が悪かった。あれは俺達でも無理だ」


「ん? 無理じゃないですよ? 走るだけですし、せっかくなんでみんなで走りましょうよ!」


「へっ!?」


 冒険者達の声が重なる。


 エリックを中心に冒険者達がジェイドを睨んでいた。


 みんなそんなに走るのが苦手なんだろうか。


「ねっ! 皆さんと鬼ごっこしたかったんですよねー!」


 師匠達に微笑むと、みんなため息を吐いていた。


 俺に誘われた師匠達は、渋々と訓練場に向かっていく。


「俺達今日で死ぬのか?」


「さすがに死ぬ手前でやめてくれるよね?」


「でもあの勇者達を見ていたらね……」


「はぁー」


 教え子だから、逃げるのも悪いと思ったのだろう。


 本当に師匠達にも恵まれている。


「レックスさんも行きますよ」


「いや、俺は家の掃除が……」


「それなら今日の朝やっておきましたよ?」


「ああ、いつも助かるな。っておいおい離してくれー!」


 一人だけ逃げようとしていた、レックスを捕まえて、引きずりながら俺も訓練場に向かった。


 早速ルールの確認だ。


「俺が鬼で皆さんが逃げる方で良いですか?」


「あー、この際反撃するのもありにしたらどうだ?」


「僕もあまり走れないので、そっちの方が助かります」


「そもそも鬼ってなんだ?」


 確かにこの世界に鬼は存在しない。いや、地球にも鬼はいない。


「えーっと、オーガみたいなやつですかね?」


「なら尚更反撃しないとダメじゃないか!」


 冒険者達が反撃したら、それはもう鬼ごっこではなくなってしまう。


「これでヴァイトが流されたらいいな」


「でも、あいつ地味に頭が良いぞ?」


 俺は何か他に伝わる言い方がないか考えていると、そもそも鬼ごっこのルールではなくなることに気づいた。


「それだと模擬戦になりますよね?」


「チッ! 気づいたか!」


「模擬戦で良いですけど、武器を家に取りに帰らないといけないので……」


「いやいや、あのショートランス型の矢が当たったら俺ら死ぬよ?」


 あんな矢ではさすがに死にはしないだろう。


 多少足が貫通して骨が見えるぐらいだ。


 試したことはないが、希望があるなら問題はない。


 俺の力でいくらでも回復できるからな。


「聖職者スキルで傷は治せるけど、それでも良いなら――」


「ぜひ、鬼ごっこでお願いします!」


 どうやら傷ついた体を何度も回復魔法で治して、模擬戦をする姿を想像したのだろう。


「じゃあ、逃げてくださいね」


 俺は目をつぶって30秒数える。


 師匠達とやる鬼ごっこに、俺はウキウキとした気分だ。


 こうやって元気に大人と遊ぶことって、あまりなかったからな。


 電動車椅子に乗って、追いかけ回した記憶しかない。


 数え終わりゆっくりと目を開ける。


「よし、いきま……あれ?」


 気づいた時には誰一人も訓練場からいなくなっていた。


「あいつらなら町に逃げて行ったぞ?」


 小屋で様子を見ていた解体師が、冒険者達の居場所を教えてくれた。


 どうやら町の中を使って鬼ごっこをするようだ。

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