第44話 NPC、親友との別れ
さっきまで一緒にいたのに、俺はそんな話を全く聞いていなかった。
隣町に行く?
俺達は友達じゃなかったのか?
別れの挨拶もしたくないという関係なんだろうか。
「あっ、ヴァイト様だ!」
俺を見つけて声をかける奴らもいるが、俺の耳には聞こえなかった。
とにかくユーマ達を探すのに精一杯だった。だが、いくら探してもユーマはいない。
それどころかいつも一緒にいたアルやラブすら姿を見せないのだ。
もう町の中にはいないのだろうか。しかし、ユリスの話だとナコも一緒に行くと言っていた。
それならこの町にいるのは確かだろう。
俺は一回店に戻りバビットに説明をする。
なぜかニヤニヤと笑っているが、ここまで必死な俺は珍しいのだろう。
夜の営業を休んで、荷物を持って門の近くで待つことにした。
さすがに早すぎるかもしれないと思ったが、何も言わずに別れた方が寂しいからな。ただ、なぜ俺には言ってくれなかったのかと、モヤモヤした気持ちが押し寄せてくる。
こんな気持ちは初めてで、どうしたら良いのかわからない。
斥候スキルの影響もあって、姿を隠しているから人にはバレていないだろう。
あいつらが来た時に絶対捕まえてやるからな。
大きな鐘の音で俺は目を覚ます。
教会が朝を知らせるために鳴らす鐘の音だ。
「ふぁ!? もう朝か!」
今まで鐘の音が鳴るまで寝ていたことがなかった。
門の前で見張っていたため、いつのまにか寝ていたようだ。
「次の町って何があるんだろうね?」
「ここにはない転職もあるらしいよ?」
「はぁん!? 俺この間斥候になったばかりだぞ」
「ちゃんと説明を見てないから、そうなるんだよ?」
「何事にも慎重にならないとダメなゲームだもんね」
冒険者ギルドの方から、勇者のアル、ユーマ、ラブ、ナコが歩いてきた。
本当にあいつらって一緒にいることが多いな。
「よっ、お前達も行くみたいだな」
「隣町なのですぐに――」
「おい、俺には挨拶はなしか?」
俺は斥候スキルを解除してユーマ達に近づく。
「おっ、ヴァイトじゃないか! 見送りに来てくれたんか?」
なぜ、こいつは意気揚々としているのだろうか。
こいつがバカだからか?
もしくは俺には関係ないってことか?
考えるだけでイライラしてくる。
考えすぎて寝不足なのも、関係しているのだろう。
「ヴァイトさん、これには――」
「なこちん、静かに」
少し心配そうに見ているナコに、ラブは邪魔しないようにと笑っていた。
いやいや、お前達も関係あるんだからな?
ナコは昨日声をかけてくれたが、お前達は俺を……。
「おいおい、ヴァイトどうしたんだ?」
「えええ、ヴァイトさんが泣いちゃったよ」
「泣いてない! 目からよだれが出てくるだけだ!」
頑張って堪えようとしても涙が溢れ出てくる。
この感情をどうしたら良いのか、俺にもさっぱりわからないのだ。
「うっ……尊い。もうヴァイトさん推しにはたまらないよ」
「ラブ……」
俺達に気づいたのかどんどんと勇者達が集まってくる。だが、その状況に誰も声をかけようとする者はいない。
「俺はお前達の友達でもなかったんか!」
「へっ!?」
お互いの顔を見合わせるユーマ達。
なんだその反応は。
友達だと思っていたのは俺だけだったのか。
「ははは、ヴァイトは俺達と離れるのが寂しかったのか?」
「なっ!?」
「ぬぅー、ヴァイトさんツンデレ属性持ちなのね」
「ラブ少し落ち着いて! もう、みんなも止めてよ!」
息をハアハアとしているラブを必死にナコは止めているが、俺も怒りでハアハアと息が乱れてくる。
「俺はヴァイトと友達だぞ!」
「なら、別れも言わず行くなんて――」
俺はユーマに掴みかかる。
別れに挨拶ぐらい必要だろう。
俺にはユーマ達が大事な友達だからな。
そんな俺の腕をアルは優しく触れる。
「あのー、隣町って半日ぐらいで行ける距離ですよ?」
「へっ!?」
俺はアルの言葉に頭が真っ白になる。
半日で行ける距離だって……?
今まで森に行った時に町なんてどこにもなかったはずだ。
こいつらは何を言ってるんだ?
「アップデートで追加されたから、前は見えなかったもんね」
「ははは、ヴァイトはそんなに俺と離れるのが嫌だったのか。いやー、嬉しいな」
ニヤニヤと笑うユーマにイライラが収まらない。
そんなに近いとこなら別れもいらない。
半日なら俺の足だと数時間で着くだろう。
無駄に悩んだ俺はバカみたいだ。
そりゃー、わざわざ行くことを言わなくても良いもんな。
「俺は帰るからな」
「おー、またすぐ戻ってくるからよ!」
そう言ってユーマ達はこの町から隣町に向かった。
後日、ある界隈では悶える人が続出したとか、してないとか……。
──────────
【あとがき】
さらっとBL風味はいかがでしょうか笑
切らずに続きを見てねえええええ_(:3 」∠)_
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