第40話 NPC、暴走する
風を切るようにショートランスは大蛇に向かって放たれる。
『キシャアアアア!』
大蛇の叫び声が森の中に響く。
矢は大蛇の体を突き抜けて地面に刺さった。
「あと数発やっておくか」
矢を五本掴み放つと、大蛇の体に次々と刺さっていく。
その影響か大蛇は動けないようだ。
ここまで固定したら、勇者達も倒しやすいだろう。
それと同時に俺の存在に気づいたやつもいた。
「うぁー、ヴァイトじゃん。俺怒られないよな?」
「今の発言が怒られそうな気もするけどね?」
「ヒイィィ!?」
俺に気づいたのはユーマ達だけだろう。
斥候スキルを使っているからな。
俺はスキルを解除するとナコの元へ向かう。
「なんでナコがいるんだ?」
「あっ……いや、みんなに頼まれて……」
「頼まれたらこんなところに来るのか? 命がけだぞ?」
「ごめんなさい」
あまりにもナコがシュンってしているから、段々と可哀想に見えてきた。
別にいじめたいわけではないからな。
怒られているリスみたいだ。
「おいおい、俺達のレイドバトルになんでNPCが邪魔してくるんだよ!」
突然声をかけられ、振り返るとどこかで見たことのある男がいた。
「あー、たしか地面にキスをしていた勇者だっけ?」
「はぁん!? あっ、お前あの時の馬鹿力男だな!」
そこにいたのは野菜屋の女性を殴ろうとしていた勇者だった。
なぜこんなやつらと一緒にいるのかアルに聞いたら、臨時で集めたレイドパーティーに参加していると言っていた。
そりゃー、コンビネーションも取れずにみんなやられているわけだな。
「おい、お前無視する――」
「死にたいなら放り投げるぞ」
「ヒャイ!?」
少しイラッとしているから、変な奴には絡まれたくない。
大蛇も矢を引き抜いて動けるようになったからな。
「あのー、なぜこんなところにNPCが来てるんですか?」
NPC?
さっきから言っているがなんだそれ?
囮になると言っていた男も、突然わけのわからないことを言ってきた。
「来ているのは俺だけじゃないぞ。勇者があまりにもバカだからって師匠達が全員駆けつけている」
「えっ……」
「それじゃあ、レイドバトルの報酬が取られるじゃないか!」
「じゃあ、お前一人で行ってくるか? ちょうど大蛇がこっちを向いて怒っているからいいかもな」
俺は男の襟元を掴むと大蛇に向かって放り投げた。
「うわああああ! キチクウウウゥゥゥ!」
それと同時に大きく口を開いた大蛇に向けて、矢を数本放つ。
『キシャアアアア!』
どうやら口の中は柔らかいようだ。
「ヴァイトさんの性格がいつもと違いますね」
「それは僕も思いました。鬼ごっこしている時も鬼畜でしたが、もっと優しく穏やかでした」
「鬼ごっこ……?」
ああ、また勝手に体が動いているけど、これは何だろうか。
瞬きをすると、HUDシステムが出現し、あることが書かれていた。
――狂戦士モード
どうやら狂戦士の職業が影響しているようだ。
「お前達、あとで覚えておけよ?」
そう言って俺の体は再び動き出す。
走りながら弓と剣を持ち替えて、大蛇に切りつける。
『キシャアアアア!』
あれ?
皮膚が硬いと思っていたが、意外にも剣の刃は通るようだ。
単に勇者達のSTRが低いのかもしれない。
「この間は散々町を荒らしてくれたよな?」
大蛇は俺と目が合うとどこか怯えているように見えた。
「父さんを傷つけて黙っているわけにはいかないからな」
俺はその後も剣で何度も大蛇を切り裂く。
大蛇の声は冒険者達を引き寄せたのだろう。
「おい、お前ら大丈夫だった――」
遅れて師匠である冒険者達が駆けつけたが、戦場を見て驚いているようだ。
その中にはジェイドやエリックもいた。
まぁ、ほとんど俺が大蛇を狩っているからな。
それにしても、さっきバビットのことを
「おい、ヴァイトやりすぎだ! それじゃあ、防具にもならないぞ!」
「へっ!?」
防具にもならないと言われたら、自然と俺の手は止まっていた。
防具職人として魔物の素材は大事だからな。
いつのまにか狂戦士モードの文字が消えていた。
──────────
【あとがき】
「なぁなぁ、そこの人ちょっと良いか? 最近ヴァイトが働きすぎだから止めてくれないか?」
どうやらNPCのバビットが話しかけてきたようだ。
「あのままだとあいつ死んじまうからさ。★★★とコメントレビューをあげるときっと休むはずなんだ」
ヴァイトを止めるようには★評価とコメントレビューが必要なようだ。
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