第39話 NPC、足が速すぎる

 勇者達を追いかけて外に出たが、早速問題が起きた。


「皆さん遅くないですか!?」


 俺はいつものように移動しようとしたが、他の冒険者達が追いついて来れないのだ。


 魔法を使うような冒険者達なら理解できる。


 それ以外の冒険者達ですら、遅くてびっくりするぐらいだ。


 感覚的にはAGI40くらいに近い。


 きっと勇者の魔法使いであるラブと同等ぐらいだろう。


「ヴァイトが速すぎるんだぞ!」


「いやいや、絶対レックスさん飲み過ぎですよ!」


 ここに来る前にみんなお酒を飲んでいたから、酔いが回ったのかもしれない。


「とりあえず回復しておきますね」


 俺は聖職者スキルで回復する。


「うぇ!? これを使えば二日酔いに悩まずに――」


「あなたもバカでしたね」


 どうやら回復したら解毒までされたようだ。しかし、バカが解毒されることはなかった。


 それでも酔いが醒めたレックスで5割程度の速さだった。


 みんな訓練が足りないのだろう。


 魔物と戦う時間も必要だが、訓練する時間をこれから与えないといけないようだ。


 師匠も含めた鬼ごっこって楽しそうだな。


「ふふふ」


 つい俺は笑ってしまった。


「ヴァイトが鬼に見えてきた……」


「本当に社畜が鬼畜になったようだな」


 そんな俺を見て冒険者達は何か言っていたようだ。


 このままゆっくり向かっていたら、一向に着かないような気がしてきた。


「んー、大体この先にある森の真ん中から、右に曲がったところに大蛇がいるので、そこに来てくださいね」


 俺は先に一人で向かうことにした。


 きっと大蛇のいるところくらい、感知できると思うが念には念を入れるって言うぐらいだからね。


 足が遅いだけじゃない可能性も捨てきれない。


「お前大蛇の位置すらもわかるのか……って速すぎるわ!」


「おっ、おーい!」


 冒険者達の声はもう俺には届かなかった。



 森の中に入るとすぐにどこかで戦っている音が聞こえてきた。


 きっと勇者達が戦っているのだろう。


 それにしてもそこまで音が聞こえないのは、もうすでに倒しているのだろうか。


 俺は木の上に登りながら、伝って大蛇がいるところに向かい、こっそりと様子を見る。


「ナコ今のうちに回復を!」


「怖いよ……」


「大丈夫! 僕達が守るから!」


 あれ?


 なぜ、あそこにナコがいるんだ?


 たしかユリスの家を出てから、しばらくはどこかにいると言っていたはず。


 いや、あの時ユーマが大丈夫だと言っていたのは一緒にいたからだろう。


「戦える状態じゃないのに連れてきたらダメだろ……」


 だが、そんなナコを守るようにアルは立ち回っていた。


 その点は前回の反省をしているようだ。


 隙間を抜けてユーマが攻撃を仕掛けるが、大蛇の硬い皮膚には拳が通らない。


「そもそも物理じゃダメってことじゃないのか? あの皮膚だと魔法の方が効果ありそうだな」


 きっと物理攻撃より魔法攻撃の方が、体へのダメージは通りそうな気がする。


 それにパッと見た感じだと、他の勇者達は武器を毒液のようなもので溶かされたようだ。


 アルが持っている大きな盾だけが無事なのも、何か理由があるのだろう。


 そんな状況でもユーマ達は必死に戦っていた。


「このままだとヴァイトに怒られるぞ!」


「あの人ゲームオーバーには厳しいからね! 魔法を放つよ!」


 ラブが魔法を放つと大蛇は声をあげていた。


 ユーマの言葉に少しイラッとしたが、俺が何度も命を無駄にするなと言った効果が出ているようだ。


 見た感じユーマとラブは大蛇の攻撃が当たっていないようだしな。


 その一方でアルとナコが、他の勇者の治療に当たっていた。


 そんな勇者達に俺はひっそりと近づく。


「俺らを治してももう戦えない。ゲームオーバーだ」


 おい、ここにも命を軽く見ている奴がいるぞ。


 いや……ここだけじゃない。


 倒れた勇者達全員が〝ゲームオーバーだ〟って言いながら笑っている。


「なんでそんなこと言うんですか。まだ戦えますよ」


 おお、ナコはしっかりしているな。


 ただ、戦う気がない奴を戦場に送り込んだらいけないぞ。


 それこそナコが鬼畜って言われる。


「武器もなければ俺らはただの木偶の坊だ。それにこれ以上の痛み刺激に耐えれるか……」


「痛覚遮断機能があっても、静電気のようなものを感じますからね」


 ほとんど何を言っているのかわからない。


 ただ、回復させようと頑張っているナコに対しても失礼だろう。


「痛っ!?」


 ユーマが大蛇の攻撃に当たってしまったのだろう。


 少しの緩みが攻撃のターゲットを変えてしまう。


「こっちに向かってきます」


 どうやら回復をしているナコの存在に気づいたのだろう。


 ラブが魔法を放っても、そっちに意識が向かない。


「ははは、せっかく回復してもらったから俺が囮になるよ」


 勇者が立ち上がり近づいた。


 大蛇の攻撃をボロボロの状態で止めるのだろうか。


 戦う準備もできていないのに、あの勇者は何を考えているのだろうか。


 アルが抱えて避ければいいのに、何をやっているんだ。


 何のために鬼ごっこをやったか忘れたのか?


 俺の中であの時の感情が湧き出てくる。


 ああ、こいつら本当に命を軽く見ているな。


 気づいた時には俺は弓を構えて、ショートランス型の矢を放っていた。

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