第41話 NPC、心がポカポカする

「ふぅー!」


 息を大きく吐くと体から自然と力が抜けていく。


 俺の足元には大蛇が横たわっていた。


「おいおい、ヴァイトってめちゃくちゃ強いじゃん!」


「私もつい動画を撮っちゃったよ!」


 ユーマとラブはどこか楽しそうにワイワイしている。ただ、そう思っている勇者は少ないようだ。


「あいつのせいで報酬が少ないじゃないか」


「レイドバトル貢献度1位がNPCってなんだよ」


「ってか命がけってウケるんだけど」


 周囲から聞こえる声に胸の奥が締め付けられる。


 命を無駄にしないように動いていた俺がバカだったのだろうか。


 俺の努力が間違っていたのか……。


――ドン!


 そう思っていると大きな音を立て、地面に大きな穴ができていた。


「おい、ヴァイトに文句があるなら俺が相手になるぞ!」


「おおお、それ良いね。バカでも頭を使えるじゃん! さすがに勇者同士のPKプレイヤーキルなら問題にはならないでしょ?」


「二人ともさすがにやりすぎはだめだよ? せめて爪を一枚ずつ剥がして、指を一本ずつ折らないと痛覚遮断がすぐに発動するよ?」


「……」


 いつのまにか俺の前にユーマ達がいた。


 それにしても優しい顔をして、一番怖いのはアルのようだ。


 見た目によらず怒っているのが伝わってくる。


「もうレイドパーティーは解消されているもんね。私貢献度2位だけど、こんなものが欲しいわけでもないしね」


 アイはネックレスを投げると、火属性魔法で一瞬にして燃やした。


「なら俺もこんなのいらないな」


 ユーマもインベントリから何かを取り出すと手で砕いていた。


「お前達その装備が何かわかっているのか! めちゃくちゃレア装備なんだぞ!」


「レア装備でも僕達より皆さん弱いじゃないですか。そんな人達が持っても、うまく使えるとは到底思わないですが……」


 やっぱりこの中で一番怒らせてはいけないのはアルのようだ。


 二人は元々の性格を知っているのか、特に何も思っていなさそう。


「ヴァイトさん、怪我していないですか?」


 俺を心配してナコも駆けつけて、回復魔法をかけてくれる。


 別に自分で回復もできるが、一段と心の奥底から回復している気がする。


 本当に俺は良い友達と出会えたな。


「まあまあ、勇者達はその辺で落ち着いて! 弟子の失敗は師匠の失敗でもあるからな」


 ジェイドやエリックをはじめ冒険者達が勇者に近寄っていく。


 いつもは酔っ払ってばかりのレックスすら、表情は鬼のようになっていた。


「てめぇらのせいで、せっかくの酒が抜けちまったじゃないか!」


 いや、あれは俺が聖職者スキルでアルコールを解毒したことについて怒っているようだ。


「じゃあ、俺達はちょっと指導した後に帰るから気をつけろよ!」


 そう言って冒険者達は勇者を引きずって森の中に入っていった。


「ヴァイトも怖いけど、師匠達も中々だな」 


「あんたって本当に学ばないね」


「えっ……そんな……いや、ヴァイトは良い奴だぞ! 俺は好きだ!」


「ついでに言うと今も動画に撮っているから、公開告白になるね!」


「てめぇ!」


 ユーマとラブはまだ元気なんだろう。


 森の中で追いかけっこして遊んでいる。


「そろそろ森も深夜になると危なくなるので帰ろうか」


「さすがにこの時間に大蛇の討伐って普通に考えたらおかしいですもんね」


 おかしいと気づいて、なぜ一緒に向かったのだろうか。


 帰ったらこいつらにも説教が待っているからな。


「こいつってインベントリに入る?」 


 俺はアルに尋ねるが、首を横に振っていた。


 どうやら魔物の死体は持ち運びができないらしい。


 俺は剣を持って大蛇を解体していく。


 初めて解体する魔物なのに、解体方法がわかるのは解体師スキルの影響だろう。


 それにしても魔物の死体を運べないって中々勿体無いな。


 自分で解体できない場合、大きな魔物だとほとんどが埋めることになる。


 勇者達に魔物を運ぶカートを作って、渡すのも素材集めには良さそうなアイデアな気がする。


「じゃあ、これらを全部インベントリに入れてもらって……」


 俺は近くで見ていたユーマ達に声をかけると、若干後退していく。


 後ろに何かいるのかと思い見るが、特に何かいたわけではない。


「みんなどうしたんだんだ?」


「ヴァイトがあまりにも躊躇なく解体していくからびっくりして……」


「初めて蛇の解体を見たけど、想像以上の迫力だね」


 解体師の職業を今まで見たことがないのだろう。


 訓練場の隣にあるから、比較的存在感はあったはずだ。


 中にいる男も存在感が強いからな。


「むしろ、私はユーマが躊躇なくって言葉を知っている方がびっくりだよ」


「はぁん!? また追いかけられたいのか?」


 ユーマとラブは相変わらず元気だ。


 それならみんなで走って戻ろうかな。


「じゃあ、インベントリに入れたら鬼ごっこしながら帰ろうか」 


「えっ……」

「はぁん!?」

「鬼ごっこ……?」


 反応は様々だったがみんな鬼ごっこのことは好きなようだ。


 きっとナコにも大蛇より俺の方が怖いって言われるのもそう遠い話ではないのだろう。


「さぁ、みんなで楽しく帰ろう!」


「キチクゥゥゥゥ!」


 しばらく俺はユーマ達に鬼畜と言われ続けることになった。

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