第18話 聖女、転職クエストに悩む ※ナコ視点

 20分程度お祈りをしていると転職クエストが表示されていた。


【転職クエスト】


 職業 聖職者(戦闘職)

 内容 一日一回連続五日間祈りを捧げる 1/5

 報酬 聖職者に転職する


 さっき転職クエストの内容と説明が急に出てきて、びっくりしたけど受けることにした。


「もう一人の方は忙しそうですね」


「えっ……」


 隣を見ると彼はいなくなっていた。


 頭上に名前が表示されなかったため、きっとNPCで間違いではないのだろう。


 普段の私と変わらない中学生のような見た目をしていた。


 どこか知性的な顔立ちで、体つきもしっかりしており、急に抱きかかえられた時はドキッとした。


 その後は全力で走って驚いたけどね。


 急にジェットコースターに乗った感覚を味わったら、びっくりしないはずがない。


 たまにゲームで突然移動する場面を見たが、みんなあんな状態なんだろうか。


「神に祈りを捧げられたかな?」


「はい! 友達が元気になるようにお祈りしました」


 私は友達の咲良が元気になるように祈りを捧げた。


 近くに神社があるわけでもなく、リアルな世界なら教会か神社があると思ったのだ。


 私一人ではこのゲームを楽しめないような気がしたからね。


 それにしても毎日祈りを捧げないと聖職者になれないのは、中々冒険が進まなさそうだ。


 すでに剣を買って町の外に出る人達もいたが、ゆっくりゲームをするのも良いだろう。


「教会はそんなに珍しいかな?」


 椅子に腰掛けて教会の中を見ていると、お婆さんが声をかけてきた。


「あっ、はい!」


 静かな教会に私の声が響いていく。


「ははは、元気なのが一番だね」


 そう言われるとどこか恥ずかしくなる。


 お婆さんは買い物の帰りだろうか。


 ヨタヨタしながら歩いていた。


 袋にはたくさんの葉っぱや野菜が入っているようだ。


「あのー、自宅まで運びましょうか?」


「すぐそこだから大丈夫じゃよ」


「私もそっちに行くので、一緒に行きましょう」


 少し強引だが、お婆さんの荷物を持って一緒に帰ることにした。


「最近の子は優しい子が多いのう」


「いえいえ、私も祖父母と住んでいるのでいつもの日課です」


「そうかそうか」


 祖父母と住む私にとったら、いつもと変わらない。


 それにこの世界の人は優しいのか、町の人に質問したら色々と教えてくれる。


 お婆さんの家は近くと言っていたが、町の中では外れの方にあった。


 そもそも教会が離れたところにあったから、しっかりと区分が離れているのだろう。


 家まで荷物を運ぶと家の中は草木の匂いがしていて、体がリフレッシュする。


 実際にたくさんの植物を庭で栽培していた。


 どこか植物園にきたような感覚だ。


「私は薬師をしていてね。お嬢さんは興味があるかい?」


 薬師って薬剤師みたいな職種なんだろう。ただ、この答えに返事をするのかも迷ってしまった。


 このゲームでは選べる職業が二種類と決まっている。


 今転職クエストで聖職者を受けているが、返事次第では薬師の転職クエストも出現するだろう。


 少しでも冒険するには攻撃する手段も欲しかったが、このままだと完全にスローライフすることになる。


「あー、気を使わせて――」


 少し寂しそうな顔をしており、祖父母と住んでいる私の胸が締め付けられた。


 ゲームぐらいゆっくりしても良いだろう。


 今頃冒険しても初めの段階で、私は遅れているからね。


「興味があります!」


 その一言でお婆さんは目を輝かせていた。


 ゲームとしての選択肢は間違っているかもしれない。ただ、私の中での選択肢はこれで正解だろう。


 再び脳内に聞こえる声と目の前に現れる説明。


 私は転職クエストを受けることにした。


【転職クエスト】


 職業 薬師(生産職)

 内容 薬品の調合を10回行う 0/10

 報酬 薬師に転職する


 さっきの聖職者とは異なり、調合の回数で転職できるらしい。


「時間があるなら薬師の仕事を手伝ってみるか?」


 まだまだ時間もあった私は薬師の仕事を見学することにした。


「そういえば、名前はなんと呼べばいいのかしら?」


「私はナコです」


「ナコね。私はユリスって呼ばれているわ」


 お婆さんの名前はユグレンティアと言っていた。


 名前が長いため、周りからはユリスと呼ばれているらしい。


「ユリスさんですね。よろしくお願いします」


「ははは、礼儀正しいのう」


 自己紹介を終えた私達は庭に向かった。


 どうやら庭に生えている草が薬草らしい。


「薬草は根本の部分を残して、切るとすぐに生えてくるから覚えておくといい」


 言われた通りに葉っぱだけいつくか切り取り、家の中に持っていく。


 基本的にはその薬草と魔力水を使うと、回復ポーションができる。ただ、その作り方が複雑なため薬師になれる人が少ないと言っていた。


 薬草の種類で採取の仕方も変わるぐらいだ。


 調合回数の10回も最低限覚えられるのに、必要な回数なのかもしれない。


 私のゲームはしばらく教会で祈ってから、回復ポーションを作る毎日になるような気がした。

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