第19話 NPC、勇者の影響に驚く

 少女を教会まで案内した後は、生産街に向かった。


 どこも忙しそうに働いている。


「こんにちは!」


 武器工房に行くと、ブギーが忙しなくハンマーを振り下ろしていた。


 その隣にはできたばかりの剣の刃がいくつも置いてあった。


 いつも休憩しながらやっているため、誰かが入ってきても気づいていた。だが、今は気づかないぐらい大変なんだろう。


 今日は諦めて帰ろうとしたら、少し怒ったようなブギーの声が聞こえた。


「今は弟子を募集していない! また後で来てくれ!」


 どうやら俺を勇者だと思ったのだろう。


 勇者でも武器職人になりたい人がいたのかもしれない。


 次に防具職人であるボギーの工房に向かう。


 武器職人のブギー、防具職人のボギー。


 どことなく名前も似ていると思ったら、ブギーとボギーは同じ小人族で親戚らしい。


「こんにちは!」


「今は弟子なぞいらん! 弟子になりたいなら態度を改めて来るんだな!」


 どこかボギーも怒っているようだ。


 彼も作業が忙しいのだろう。だが、武器職人よりは危険な作業がないため、顔だけ振り向くと申し訳なさそうな顔をしていた。


「ヴァイトだったのか。すまないな!」


「いえ、大変そうだったので……」


「ああ、勇者達が横暴で迷惑しているんだよ。少し休憩でもするか」


 そう言ってボギーはコーヒーを淹れて持って来た。


 初めて飲んだ時はあまりの苦さに吐き出したのを覚えている。


 小さなコップに入れて持ってきたから、普通のホットコーヒーではないのだろう。


 これが普通に飲めるようになったら、一人前の大人になれる気がした。


「ははは、ちゃんとヴァイトのやつにはミルクを入れたからな」


「ありがとうございます」


 まだコーヒーが飲めない俺はカフェオレでもなく、ミルクコーヒーを飲んでいる。


 ほぼほぼミルクだから、俺の大人への道はまだ遠いようだ。


 スーツをピシッと着て、コーヒーを飲んでいるサラリーマンにどこか憧れていたからな。


「それで何があったんですか?」


「いや、勇者達が冒険者に登録したら真っ先に工房に来て、強い防具を作ってくれって言うんだ」


「オーダーメイドなら作るのにも時間がかかりますよね?」


「ああ、それなのにあいつらはゲームだからそれぐらいできるって……」


「ゲーム?」


「ワシも何を言っているかわからなくてな。最終的に脅してきたから、やり返してやったわ!」


 大きな声を出して笑っているが、その勇者が言っていた〝ゲーム〟という言葉に違和感を感じた。


 ゲームってあのテレビに繋げてやるゲームのことだろうか。


 あまりやったことがないため、他にゲームという言葉が存在しているのだろうか。


「そういえば、ブギーも怒っていたけど?」


「あー、あいつのところは武器屋だからな。きっと今頃武器も品薄で、直接工房に来たやつがいるのだろう」


 弟子になりたくて来た人もいる中、横暴な勇者達によって勇者そのものの印象を悪くしているようだ。


 俺はデイリークエストのために、少しだけ作業をしてから魔法工匠の工房に向かった。ただ、武器や防具の工房と違い普段通りのようだ。


 勇者達の中で武器、防具、魔法アクセサリーの順番で優先順位があるのだろう。


 帰りに商店街に寄って武器店や防具店を見て来たが、ほとんど既製品は品薄になっていた。


 夜の営業があるため店に戻ると、ジェイドとエリックが店内でまた話をしていた。


 やはりここでも勇者の話で持ちきりだ。


「あいつら結局傷だらけで帰って来たようだな」


「仕方ないよ。魔法も数発しか撃てないのに、外に出たら誰でもわかるだろう」

 

「やられちゃうに決まってるね」


 俺でも角の生えたうさぎに襲われたら、やられるってすぐにわかるぐらいだ。


 勇者達は少し頭が悪いのだろうか。


「おいおい、ヴァイトが言うなよ!」


「そうですよ! Cランクの魔物から逃げ切れただけでも運が良かったんですよ」


 AGIを上げていたおかげで、蛇の魔物にやられず済んだのは事実。


 俺にしたらそこまで危険ではなかったが、それだけで運が良かったと言われるレベルだ。


 本当に小さな魔物でも命に関わるのだろう。


 それを聞けば聞くほど、俺は外に出ずに町の中で安全に生きていた方が良い気がした。


 その後も勇者達の話題が良い悪い両方の意味で、噂を聞くことが増えた。

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