第17話 NPC、悪口にショックを受ける

「すみません、もうちょっと安くなりませんか?」


「さすがにそれは難しいですね。簡単にお持ち帰りできるものか、商店街を利用する方が良いと思います」


 さっきから冒険者達が店に入っては、料理が高いとクレームをつけてくる。


 そんなにお金がないならと、商店街を利用することを勧める。


 どうやら冒険者ギルドに所属希望の人が多く、なるべく良い武器を手に入れたいからと食事を節約しているらしい。


 そんな中、ジェイドとエリックもやってきた。


「はぁー、疲れた」


「ヴァイトは可愛いよな……」


 店に入ってくるなり、俺の頭を撫でてくる男達。


 正直言うといつもの様子と違って気持ち悪い。


「注文はいつもと同じでいいか?」


「あー、俺はサラダだけでいいわ」


「僕もさすがに肉を食べる余裕はないですね」


 遠くから見た様子でも、二人とも本当に疲れているようだ。


 勇者達の対応を終えると調理場に行く。


「あの二人にサラダを頼む」


「わかりました!」


 サラダを作って、二人に持って行く。


「あいつらを弟子にするぐらいなら、ヴァイトの方が絶対良いよな」


「それは僕も同じ意見だね。ヴァイトの方が才能あるし、ちゃんと人の意見を聞いてくれるからね」


「そんなに疲れてどうしたんですか?」


 サラダを置いて、俺は二人の話を聞くことにした。


「いやー、聞いてくれよ。あいつら冒険者ギルドに登録したらすぐに外に行こうとするんだぜ?」


「それを止めたらなぜか僕たちが怒られてさ」


 二人の話では、まず冒険者ギルドは才能の確認のために訓練場で適性職を見るところから始まる。


 俺も初めは訓練場で素振りから始めたからな。


 それなのに勇者は適性職もわからないまま、冒険者ギルドで依頼を受けて外に出て行くのが大半らしい。


 命を無駄遣いするなと言っても、俺達は特別だからと言って聞かない。


 挙げ句の果てに〝チュートリアルぐらい適当で良い〟って言って去っていった。


 チュートリアルが何かはわからないが、勇者達の共通言語なんだろうか。


「さっきから俺達も料理を安くしろって無理難題を言ってきたぞ?」


「この状態だと武器屋も大変だろうな」


 冒険者は確実に武器が必要となる。


 さっきも武器を買うお金のために、料理を値切ってきたぐらいだ。


 武器を安くしろって言ってそうだ。


「普通は誰かの弟子になって、一人前だと認められたら師匠から武器をプレゼントされるのが一般的になのにな」


 俺が知らないだけで、師弟関係にもちゃんとしたルールがありそうだ。


 まぁ、俺の場合は自分で武器を作れば良いから問題ない。


 次は剣ではなく弓関係が良いな。


 そんな他愛もない話をしながら、昼の営業を終えると再び職業体験のために住宅街に向かった。



「んー、ここはどこだろう……」


 教会に向かっている最中、住宅街で迷っている少女がいた。


 年齢的には今の俺とそこまで変わらないだろう。


 町の人なら迷うことはないが、迷っているっていうことは勇者のような気がする。


 声をかけるか迷ったが、俺に声をかけてくれたバビット達のことを考えると無視するわけにはいかない。


「どうしましたか?」


 俺は彼女に声をかけることにした。


「ひゃい!?」


 急に話しかけられたからびっくりしたようだ。


 薄いピンク色の髪を三つ編みにして、どこか儚い印象を受けた。


 瞳も薄い黄緑色で、まるでお花のような少女だ。


「驚かせてすみません」


「あっ、いえ! 教会の場所を聞いたんですが、迷子になってしまって……」


 どうやら俺と目的地は一緒のようだ。


 教会って結構住宅街の奥の方にあるから、中々探せないのだろう。


 ちょうど俺も教会でお祈りをするつもりでいた。


「一緒に行きますか?」


「良いですか!?」


 本当に困っていたのだろう。


 町の中にいた勇者もだいぶ人数が減ったため、彼女は出遅れているようだ。


 ここは彼女のためにも、時間を効率的に使った方が良いだろう。


「少し急ぎますが良いですか?」


「大丈……えっ!?」


 俺は彼女を抱きかかえて、お姫様抱っこの状態で教会に向かった。


 その方が二人で歩くよりも、時間の効率が良いからな。


 彼女は思ったよりも軽く、ちゃんとご飯を食べているのか心配になった。



 教会に着くと彼女を下ろす。


 どこか顔が真っ青になっているような気がする。


「あのー、大丈夫ですか?」


「気持ち悪い……」


「へっ!?」


 まさか俺の顔が気持ち悪いのだろうか。


 顔をしっかり見たのはこの体に入った時だが、俺の中ではごく普通の顔だと思っている。


「そんなところで倒れてどうしたんですか?」


 今までそんなことを言われたことない俺は、雷を受けたような衝撃だった。


 そりゃー、学校に通っていたら気持ち悪いって言われることぐらいあるからな。


 二人して項垂れていると、白と青の服を着た神父が声をかけてくれた。


「あまりにも速すぎて酔いました」


「えっ……」


 どうやら俺の顔が気持ち悪いわけではないらしい。


 それを聞いて少し安心した。


 俺は何もなかったかのように立ち上がった。


「君達は教会に用があって来たんですか?」


「ここで働かせてください! でよかったのかな?」


 勇者の彼女は教会で働きたくて、ここの場所を探していたようだ。


 それにしても何かを読んでいるのか、神父と視線が合っていなかった。


「君はどうしますか?」


「あー、俺はお祈りができたら良いです」


 本格的に教会で働いたら、他の職業体験ができなくなる。


 今日は簡単なお祈り方法だけ聞いて、俺は帰ることにした。


「では、こちらに付いて来てください」


 怪我人がいなければ教会は静かな場所だった。


 風の音や鳥の鳴き声が聞こえるぐらいだ。


 俺達は昨日祈った石像の前に片膝立ちになると、神父の言葉に続いて祈りを捧げた。


「慈愛に満ちた神よ、疲れ果てた者たちに癒しの手を差し伸べ、穏やかな眠りと安らぎを与えてください」


 初めて聞いた長い言葉をすぐには覚えきれない。


 さすがに彼女も言えないと思ったのだろう。


 俺達は手を合わせて神様に祈りを捧げた。


【デイリークエストをクリアしました!】


 いつものように頭の中に直接声が聞こえてきた。


「えっ? さっきのはなに?」


「どうかしましたか?」


「あっ、いえ。すみません」


 その場ですぐに謝り、彼女は再び祈り出した。


 さっきの視線といい、今の反応は俺だけにしかわからないあれ・・に気づいているような気がした。


 あとで聞いてみるのも良い気がする。ただ、それから時間が経過しても祈りの時間は終わらない。


 このままだと夜の営業まで祈っているような気がした。


「ありがとうございます」


 俺は小さく呟いて教会を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る