第9話 NPC、小人が気になります

 デイリークエストで解体師が増えたことにより一日に得られるステータスポイントが15になった。


 俺はいつものようにステータスのポイントを振っていると、隣のページが存在していることに気づいた。


【職業】


 ♦︎一般職

 ウェイター3


 ♦︎戦闘職

 剣士3

 魔法使い2


 ♦︎生産職

 料理人3

 解体師1


 職業という欄と各職業の隣に数字が書かれていた。


 デイリークエストのクリアした数なのか、それとも別に意味があるのだろうか。


 バビット達にはデイリークエストのようなものは存在しないし、この謎のシステムは俺だけなのか聞けないでいた。 


 ちなみにステータスはこんな感じだ。


【ステータス】


 名前 ヴァイト

 STR 16 +5

 DEX 15 +5

 VIT 10

 AGI 35 +5

 INT 10

 MND 10


 解体師には思ったよりも力と器用さが必要だと思い、STRとDEXに5ずつ振っていくことにした。


 器用さは問題ないと思うが、力が急に強くなると制御できなくなると物を壊しそうな気がする。


 そのため、昼の仕込みも気をつけながらやる羽目になった。


 急いで掃除しようとしたら、ほうきがミシミシ鳴っていたからな。


 訓練場も無事に一人で使えることになったため、空いている時間に冒険者ギルドに向かった。


「おはようございます」


 今日は昨日よりも作業効率が速くなったため、冒険者ギルドに早く来れた。


 そのせいか冒険者ギルド内は、バタバタとしている。


 朝から依頼を受けて活動するのもあるが、魔物の活動が活発になっているのも影響しているのだろう。


 俺はそんな職員達に挨拶を済ませると、すぐに訓練場でデイリークエストをクリアして小屋に向かう。


 これからこれが俺のルーティンになりそうだ。


「今日も来たのか!」


「昨日よりは角が取れると思いますよ」


「おお、それは楽しみだな」


 そう言いながらうさぎに生えている角を取る作業をするが、やはりまだ一人では取ることができなかった。


 解体師の男は落ち込まなくても良いと言っていたが、これが解体師と見習いの差なんだろう。


 それに明らかに体格が違うからな。


 見た目とは明らかに異なる優しさに驚いてしまう。


 ステータスだけではなく、筋トレもするべきだろうか。


 無事にデイリークエストを終わらせた俺は急いで店に戻った。


 バビットはまだ仕込みが終わってないのか、営業の準備をしていた。


 その間に俺は新メニューを考える。


「持ち運びできる料理ってありますか?」


「そんなのはここにないぞ」


 やはりこのお店にはテイクアウトは存在していなかった。


 冒険者達が一気にお昼になったら、帰ってくるのが気になっていた。


 冒険者の数が急に増えることもないため、一日中依頼に出ないといけなくなる。


 昼に帰ってきてから、また外に出たら時間の効率が悪いだろう。


 そこで思いついたのがお弁当だ。


 簡単に食べられるものがあれば、バビットも少しは楽になるし冒険者達も早く帰って来れる。


 それだけで有意義な時間が過ごせるようになるのだ。


 確かパンは商店街で売っていた。


 俺は新メニューの開発のためにバビットから少しだけお金を受け取りパンを買いに行くことにした。ただ、いざ買いに来たのは良いが、問題が起きた。


「2つで50ゼニーだ」


 50ゼニーと言われたが、お金の単位と硬貨がいくらなのかわからなかった。


 日本円みたいに数字が書いてあるわけでもない。


 小さな袋に入れてもらったお金を取り出すが、どれを出して良いのかもわかっていない。


「ひょっとして一人で買い物に来たことがないのかね?」


 声をかけてくれたのは優しそうなお婆さんだった。


 俺が戸惑っていたのが、目に入ったのだろう。


 袋に入っていたお金を見せると、代わりにお婆さんが出してくれた。


「50ゼニーちょうど受け取ったぜ」


 どうやら銅貨が10ゼニーになるようだ。


「よかったらお礼に荷物を運びましょうか?」


「それは助かるわね」


 商店街の買い物の後なのか、お婆さんはたくさんの荷物を持っていた。


 助けてもらったお礼に家まで荷物を代わりに運ぶことにした。


 その時にお金について説明してくれた。


 銅貨が10ゼニー、銀貨が100ゼニー、金貨が1000ゼニーとなっている。


 それ以上は一般的に持ち歩くことはなく、パンをもし一つだけ買うと25ゼニーだが30ゼニー分の銅貨3枚を支払わないといけないらしい。


 5ゼニー分はチップのような扱いになってしまうため、気をつけた方が良いと教えてくれた。


「ここが住宅街なのか……」


「なんだ、来たことないのかね?」


「家が商業街にあるので……」


「あー、それなら知らないわね」


 初めて住宅街に来たが、ちょっとした集合住宅街のようになっていた。


 そんな中、お婆さんは珍しく一軒家に住んでいた。


 たくさんの植物が植えてあり、植物園のように感じた。


 荷物を玄関に置き、俺は急いで店に戻ることにした。


「ちょっとお茶でも――」


 お婆さんが声をかけた時には、俺はすでにいなかった。



 店に着くと冒険者達が長蛇の列になって並んでいた。


 いつのまにか昼の営業時間になっていたようだ。


 それにみんな急いで食べて、再び依頼を受けに行っているようだ。


 聞いた話では、普段の2~3倍の依頼量をこなしているらしい。


 どうやら簡単に持ち運びできるお弁当が本当に必要そうだ。


 昼の休憩になったタイミングで俺は新メニューをバビットに提案した。


 名付けて〝肉パン〟だ。


 反応としてはまた料理人らしくないものを考えたなと顔が物語っていた。ただ、サラダの件もあり一度作ってみるとバビットからは好評だった。


 作り方はサラダに使う野菜と肉盛りの肉をパンに挟んで、少し甘辛いタレをかければ完成だ。


 味としては問題なく、持ち運びは簡単そうだった。しかし、一番の問題はどうやって持ち運ぶかだ。


 冒険者は比較的動いていることが多い。そんな人達はタレのかかったパンを常に持ち運ぶことができない気がした。


 アイデアとしてはよかったが、今後の改善ポイントになるだろう。



 昼の営業を終えると、俺は再び生産街に顔を出すことにした。


 昨日は気づかなかったが、生産街に鍋などの日用品を作る工房やアクセサリーを作っているところもあった。


 それでも気になったのが、武器を作っている工房だ。


 武器を作る工程も気になっているが、それと同時に小人が気になっていた。


 この武器と防具職人にしか小人を見たことがない。


 背丈は俺とあまり変わらないのに、なぜあれだけの力があるのか不思議に思っていた。


 俺は窓から顔を出して、中を覗くが今日に限って小人はいないようだ。


「おい、昨日からワシの工房を覗いているのはお前か!」


 声がする方に目を向けると、ハンマーを持った小人が立っていた。


 ひょっとして泥棒と間違われたのだろうか。


 この世界に来て二度目のピンチが、こんなにすぐに来るとは思いもしなかった。

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