第8話 NPC、街の周囲の変化を知る

 昼の営業時間に間に合うように戻ると、なぜか冒険者達がすでに並んでいた。


「時間に遅れましたか?」


「いや、単に腹を空かせた冒険者達が並んでいるだけだ」


 お店の中にはまだ人はおらず、バビットが営業の準備を進めていた。


「中に案内して注文だけ聞いておいた方が良いですよね?」


「ああ、仕込みも終わるからそれだと助かる」


 俺は店の看板を立てかけて、外に並んでいた冒険者を中に入れた。


 その中にはジェイドとエリックもいた。


 二人とも依頼の帰りなんだろう。


「今日も店は忙しそうだね」

「俺達冒険者ばかりが来ているけどな」


 いつもは冒険者達が集まって来店することもないし、まばらでくることが多い。


 みんな同じ時間に帰ってくる理由があるのだろうか。


「注文は何にしますか?」


「あー、俺はいつもの肉盛りにヴァイトが作ったサラダを頼む」


「僕も同じやつでお願いします」


 二人は付け合わせにあったサラダが気に入ったのだろう。


 他にも数人サラダを多めに食べたい人達がいた。


 肉だけでは脂が胃に溜まって飽きてしまう。


 それがさっぱりするサラダによって少し軽減したのだろう。


「バビットさん、また肉盛りとサラダが二人前入りました」


「おう!」


 バビットにメニューを伝えると、すぐにサラダの準備を始める。


 AGIにステータスポイントを振ったおかげで、昨日よりもさらに速く動ける。そのため、準備をしながら店内も回れるようになった。


 我ながらポイントの振り方は間違えていないようだ。


「肉盛りとサラダ持っていきますね」


「おっ……おう!」


 俺が速く動きすぎる影響か、バビットが焦らされている気がする。


「魔物がなぜこんなに増えたんだ?」


 何か魔物について話している声が聞こえてきた。


 少し速度を緩めて、冒険者達の話に耳を傾けた。


「スタンピードではないはずだぞ」


「それなら魔物の数が急に増えたということか」


「俺達もしばらくは魔物討伐を続けないといけないな」


 俺はそんな冒険者達に料理を運んでいく。


 聞こえてくるのはどこの魔物を倒したのか。


 何が出てきたのかという話ばかりだった。


「あっ、ヴァイトちょっと良いか?」


 ジェイドに呼ばれた俺はすぐに向かう。


「追加のご注文ですか?」


「いや、この後の予定だが、しばらくは一人で訓練できるか?」


「今日お昼前に冒険者ギルドに言ったら、職員の方に冒険者がいないと使えないと言われましたよ」


 俺がお昼前に冒険者ギルドに行っていたことを伝えると、二人はびっくりした顔をしていた。


「いやー、ヴァイトがそこまで冒険者になりたいとは思わなかったぞ」


「僕もヴァイトは料理人を目指しているのかと……」


 バビットの仕事を手伝っているから、なおさら料理人になると思っていそうだ。


 俺としてはフリーランスで働いても良さそうな気もするが、そうはいかないのだろうか。


「時間が空いたので、今のうちに職業体験をしておこうと思って……」


「あー、自ら社畜の道に首を突っ込むのか」


「料理人にウェイター……冒険者修行に――」


「今日魔物の解体も見に行きました」


「はぁー」

「はぁー」


 二人のため息が重なった。どこか呆れた顔をしている。


 効率的に職業体験をするために、AGIにたくさんステータスポイントを振っているからな。


「とりあえずヴァイトが来たら、一人でも訓練場を使えるように伝えておくな」


「ありがとうございます!」


 これで時間を有効活用できるだろう。 


 次は生産街で職業体験ができないかと思っている。


 まだ武器や防具を作る生産街は通っただけで、中に入ったことはない。


 一度でも良いからどうやって作っているかの見学だけはしたい。


「僕達はこれを食べたら、また外で依頼があるからね」


 疲れた顔をしている二人にとって、ここでご飯を食べることが、リラックスできる唯一の方法なんだろう。


 だから、冒険者達がいつもより多く並んでいる気がした。


 俺はその後も人一倍速く動いて昼の営業を終えた。



 夜の営業までの時間は急いで冒険者ギルドの訓練場に行って、精神統一をしながら剣の素振りをしてきた。


 ちゃんと職員に伝わっており、名前を名乗ったらすぐに訓練場を使わせてくれた。


 チラッと小屋が見えたが、解体師の男は山のように積まれた魔物を捌いていた。


 やはり魔物が増えたことが影響しているのだろう。


 デイリークエストを終えた俺は生産街に行くことにした。


 昨日のように鉄を叩くような音が外にまで響いていた。


 俺は音を頼りに武器を作っているお店を探すことにした。


 外からでもチラッと中が見えるため、変に怪しまれないだろう。


「あそこにいるのは小人かな?」


 俺とそこまで身長が変わらないおじさんが、家の中で作業をしていた。


 鉄を叩く音が響くのは、おじさんが金床かなとこに何かを置いてハンマーで叩いていたからだ。


 小さい体なのに、その強いチカラはどこから出ているのだろう。


「明日も見にこようかな!」


 俺はそんな様子を眺めていると、夜の営業時間に近くなったため店に戻ることにした。

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