第10話 NPC、ドキドキの才能
この間も思ったが、自分が悪いと思ったらすぐに謝った方が良い。
母親が幼い時に良く言っていた理由が、やっとわかったような気がした。
病気になってから家族としか過ごしていなかったから、そんなことに気付ける環境でもなかったからな。
「すみません。小人さんが気になって覗いていました」
「ワワワワッ、ワッシのことが気になっていたとはどういうことだ!?」
なぜか小人はあたふたとしていた。
どこか嬉しそうだが、何かぶつくさと言って、頭を抱えながら考えごとをしていた。
「さすがに未成年だしな……いや、むしろ男なのもな……。いや、男だからダメって決めつけるのもダメだ。エルフにもそういうやつがいるからな」
何か閃いては考えたりと、とにかく表情豊かで面白い人なんだろう。
「よかったら中を見せてもらってもよろしいですか?」
「んっ? 工房の中か?」
俺が頷くと小人は特に気にせず、中を見る許可をもらった。
まさか見せてもらえると思わず、嬉しくて手を握るとなぜかビクッとしていた。
STRを上げた影響で握手のコントロールもできなかったのだろうか。
中は想像した通りの鍛冶場だ。
溶解炉と金床の近くには型取り具や道具達が並べられていた。
冷却装置の隣には作ったばかりの武器が並べられている。
その様子を見て俺は興奮が収まらなかった。
「あのー、別に付き合ってやらんわけでもないが、さすがに――」
「えっ、武器の作り方を教えてくれるんですか?」
「えっ!?」
「ん?」
なぜかお互いに謎の空気感が流れていた。
【デイリークエスト】
職業 武器職人
武器を1回作る 0/1
報酬 ステータスポイント3
デイリークエストが表示されているということは、職業体験が可能ってことだろう。
謎の半透明の板をすぐに消したが、小人は何度も瞼をパチパチと瞬きをしていた。
ひょっとしたら小人に見えているのかもしれない。
そう思ってもう一度半透明の板を出すが、ただ瞬きが多いだけだった。
「あのー……」
「はぁー、なんだワシの勘違いだったか。安心したわ!」
「勘違いって……やっぱり教えてもらえないんですか?」
「ああ、武器の作り方だよな? それぐらい見学しても良いぞ」
俺は何か別の勘違いをさせてしまったのだろうか。
小人は椅子に座ると鉄をハンマーで叩いていた。
それを俺は離れたところから見る。
「いやいや、あれは勘違いだぞ。可愛い顔しているからって一度もモテたことないワシが調子に乗ったらダメだ。そもそも男に好かれても嬉しくないからな。嬉しくないが、ワシだって人生一回は告白されてみたいだろ。そもそもこの国にドワーフがいないのが問題だ。生産者ギルドに依頼されて来たけど、未だに後継者が現れ……」
何かずっと小さな声で独り言を話す変わり者の小人のようだ。
武器にする前に一度鉄を叩いて、ふにゃふにゃにするのだろうか。
「あのー、鉄が変な風に曲がってますが……」
声をかけてみると、小人と目が合った。
やっぱり作業中に声をかけたのがまずかったのだろうか。
「後継者がここにいた!」
「すみません!」
俺はすぐに謝った。
武器職人はとにかく集中力がいる仕事の感じがするからな。ただ、何か言っていた気がしたが、重なって何も聞こえなかった。
「武器工房に来たのに後継者になりたくないとはどういうことだ。ひょっとしたらワシが使ったこの工房が嫌ってことか? それならワシはどうすれば良いんだ。誰か他の後継者を探せば良いってことか?」
どこか落ち込んでいる小人は再びハンマーで鉄を叩きながら独り言を言っていた。
「あのー、よかったら鉄を叩いても良いですか?」
「ほら、やってみろ!」
どこかぶっきらぼうにハンマーを渡された。
そんなに話しかけたのが、まずかったのだろうか。
俺は小人からハンマーを受け取るとやはり重かった。
出刃包丁の時も思ったが、この世界の道具って結構重たい。
剣士の職業体験をしているが、ひょっとしたら真剣も持てないかもしれない。
「あのー、後ろから支えてもらっても良いですか?」
「うぇ!?」
小人は驚いてその場で腰が砕けていた。
そこまで驚かすことは言っていないはず。
「ダメでしたか?」
「いや、体が小さいから仕方ないな」
俺は同じぐらいの年代と比べて体が小さい方だと聞いている。ただ、俺にも年齢がわからないからな。
なぜか俺のことを他の人達の方が知っていることが多い。
俺が椅子に座ると、背中と椅子の間に小人が座った。
お互いに体が小さいため、大きな椅子に余裕で座れた。
「こいつは男だ……。女じゃない。良い匂いをしているが男だ。ああ、こんなやつに惑わされるな。頑張れ童貞ドワーフ」
何かおまじないのようなことを呟いていた。
きっとうまく叩くコツなんだろう。
俺もそれを見習うことにした。
「どうか良い武器になりますように。強い武器になってたくさんの人を守れますように」
「くはっ!? なんて純粋なんだ」
俺の背中にはなぜか悶えている小人がいた。
本当に小人って変わり者なんだろう。
俺は小人にハンマーを支えてもらいながら、数回鉄を叩いた。
武器としては形にはなっていないが、頭の中ではデイリークエストのクリアの声が流れた。ただ、普段よりも細かい伴奏が背中から聞こえていた。
「ああ、動悸がやばい。これは初恋か? ワシはどうしたら良いんだ……」
デイリークエストを終えた俺は小人に挨拶を済ませると、店に帰ることにした。
きっと童貞ドワーフがしばらくの間、ヴァイトに悩まされていたのを知るのは、将来妻となるドワーフだけだろう。
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