第5話 NPC、職業体験は効率重視 ※一部妹視点

 夜の営業までやることがなかった俺は、とりあえず冒険者ギルドに行くことにした。まだ、戦闘職のデイリークエストが終わっていなかったのだ。


 それに新しく出た魔法使いの精神統一が何かもわかっていなかった。


「おう、坊主やっときたか!」

「やっと来てくれたね!」


 冒険者ギルドに入ると、お店に来ていた冒険者二人が詰め寄ってきた。


「おい、こいつは剣士にするんだ!」

「いや、この才能は魔法使いにしないと勿体無い!」


 二人は何かいがみあっているようだ。ただ、一緒にいるくらいだから、仲は悪くないのだろう。


 むしろ俺のせいで仲が悪くなるのは勘弁してほしい。


「それで今日はどっちの練習をするんだ?」


「もちろん昨日は剣を振ったから、今日は魔法――」


「いや、両方やろうかと思いました!」


 どっちにしても両方のデイリークエストを終えないといけないし、木剣を持っていないから仕事後にできるわけでもない。


 俺の言葉に二人はニヤリと笑っていた。


 何か間違ったことを言っていたのだろうか。


「ほうほう、それなら問題ないからな。俺達の弟子ってことになるからな」

「ああ、弟子は被ったらいけないこともないからね」


 二人は俺が冒険者ギルドに登録すると思っているのだろうか。


 ちなみに冒険者ギルドに所属すると、師匠は冒険者ギルドの依頼料の増加と魔物の買取金額が増えるらしい。


 パーティーの中に弟子を入れて、育てるのが当たり前だと言っていた。


 それを聞いたら、金目的で誘ってるように聞こえてくるが、それも仕方ないのだろう。


 俺は訓練場に向かうと早速、精神統一について聞くことにした。


 ちなみに名前を聞いたら、剣士のジェイド、魔法使いのエリックと言っていた。


 今まで弟子にすることに意識が向いて、名前なんて気にしていなかったらしい。


「精神統一って何をすれば良いですか?」


「あー、それは今日手を握った時に感じた感覚を思い出せば良いんだ」


 手を握った時に感じたのは、ポカポカとしてくる感覚だけだった。


「それが魔法の発動に必要な魔力って言うやつだ。それを集めたり、全身に回したりするのが精神統一だな」


 俺は言われた通りにさっきのポカポカしたものを意識すると、なんとなく鳩尾付近が暖かいような気がした。


 これを集めて凝縮したり、広げたりするのが魔力の扱い方なんだろう。ただ、ボーッとしながらやるのも時間がもったいない気がしてきた。


「おい、どこに行くんだ?」


「いや、木剣を振りながらでもできそうな気がして」


「へっ!?」


 俺はそのまま木剣を握って素振りをする。


 もちろんちゃんと魔力を意識するのは忘れない。


 元気な体を手に入れたんだから、頭と体を同時に動かさないともったいない。


 別に一緒にやって悪いことはないからな。


【デイリークエストをクリアしました】


 しばらくすると、脳内に再びデイリークエストをクリアしたという声が聞こえてきた。


 むしろこの声は誰なんだろうかと不思議に思ってしまう。ただ、これで今日の日課は終わりだろう。


「じゃあ、今日これだけにしておきますね!」


「えっ……」

「おい、ちょっと!」


 俺は二人にそう告げて訓練場を後にした。


 なぜか二人は唖然としていた。



 ♢



――コンコン!


咲良さくら、ご飯をここに置いておくね」


 私は返事をする気力も残っていなかった。


 それでもお腹が空いているから、お腹が鳴ってしまう。


 兄はずっとご飯が食べられなかったのに、私だけ食べても良いのだろうか。


 扉を開けて外に置いてあるオムライスを部屋の中に入れる。


 私とお兄ちゃんが好きだったオムライス。


 いつもケチャップで絵を描いていた。


 先週やっと火葬が終わり、普段と同じ日常が始まった。


 それでも私達家族は、まだ兄の死を受け止められないでいた。


 自然と兄の好物が出てくることが多くなった。


『こんな世界初めて! 君も一緒に冒険しよう!』


 テレビから静かに聞こえる宣伝広告にイライラしてしまう。


「こんなおもちゃあっても意味なかったのよ!」


 私は近くに置いてあったVR機器を投げ捨てた。


 兄と一緒に遊ぶために、頑張ってお金を貯めて買ったものだ。


 新しく発売されたヘッドギア型のVR機器をつけることで、動けない体でも走った感覚や食事を味わうことができる。


 だからゲームの世界で兄と一緒に遊ぼうと思っていた。


 私が大きくなった時には、すでにお兄ちゃんは寝たきりになっていた。


 いつも羨ましそうに私を見る顔やご飯を食べている時に見つめてくる瞳が印象的だった。


 当の本人はそんなつもりはないのだろう。でも、そんな兄の夢を叶えたかったのに、ゲームがリリースする前に兄は亡くなってしまった。


 プランナーに相談をして、一緒にゲーム機を火葬してもらえたのは幸いだった。


「お兄ちゃんは天国で元気に遊べているのかな……」


 窓の外から見える空を見て、私は天国にいる兄が元気に過ごせているように祈った。

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