第4話 NPC、町を案内してもらう

 昼の営業を終えると、バビットとともに買い物に行くことになった。


 俺の生活用品を整えるためだ。


 着ている服も過去に誰かが着たもので、服が一枚しかない。


 それに町の中を案内してくれることになった。


「まずは入り口があそこだな」


 一番初めに向かったのは町の入り口だ。


 入り口には木で作られた門があり、その隣には槍を持った男が立っていた。


「おう、バビット外に行くのか?」


「いや、今日はこいつに町の中を案内しているんだ」


「おお、そうか。少年、外に出たかったら冒険者ギルドで登録してからだな」


 そう言って男は冒険者ギルドを指さしていた。


 入り口から一直線に進めば冒険者ギルドが位置する。


 外の世界が気になった俺は少し外を覗こうとしたら、男に止められた。


「冒険者ギルドに登録してからまた来ると良い!」


 どうやら本当に冒険者ギルドに登録しないと外には出られないようだ。


 何度もチラチラと外を見るが、同じように冒険者ギルドに登録しろと言われてしまった。


 バビットのように冒険者登録していない人達は外に出ないのだろうか。


 そのまま門から右側に進むと、商店街のような街並みが見えてきた。


「ここでは生活に必要なものが売っている」


 服やカバンなどの生活用品や、食材などが門の入り口に売られていた。


 賑やかな雰囲気が懐かしく感じる。


 俺の中で賑やかなのは、ナースステーションで看護師達が楽しそうに話しているところぐらいしか見ていなかったからな。


 たまにピリつく時もあったが、そういう日はお局さんという人がいる時らしい。


「バビット、その子はどうしたんだ?」


「ああ、俺の弟子にしようと思ってな!」


「ははは、それはよかったな」


 バビットは常連だからか、色んな人に声をかけられていた。


 みんなに好かれている人なんだろう。


「ここで肉や野菜が売っているのには理由があるんですか?」


「魔物が進行してきたら、ここで足止めができるからな」


 稀にお腹を空かせた魔物という生物が町まで入ってしまうことがあるらしい。


 その時にここで食い止めるために、入り口に食材関係のお店があるようだ。


 町の作りからも冒険者ギルドから門までが一直線なのもそういう理由になっているのだろう。


「ここから冒険者ギルドに近くなってくると、武器や防具とかが売られている」


 俺は外から展示してある武器を見て、目を輝かせていた。


 剣も短剣から長剣まで様々あり、棒に鎖と球体が付いた変わった武器も置いてある。


「武器や防具は、基本的に冒険者ギルドカードがないと買えないからな」


「冒険者ギルドカード?」


「ああ、俺達は基本的にこういうギルド所属カードを持ってるんだ」


 バビットは俺に何かカードを渡してきた。


 そこには商業ギルドカードと書かれていた。


 冒険者ギルドとは、別のギルドも存在しているらしい。


「俺達みたいな飲食店や宿屋の店をやっている人達は商業ギルドに所属している。簡単に言えば身分証明書だな」


 子どもの時は身分証明書を持っていないのが当たり前だ。


 そこから何か仕事に就く時に、ギルドに所属して身分証明書を作ることになっている。


「ひょっとして、このギルドと才能とか弟子が関係していたりするの?」


「ヴァイトは鋭いな。ギルドに紹介して登録させると、色々特典がある。ちなみに商業ギルドは、税収が一部免除される特典だ」


「それは結構大きいね」


 商業ギルド側も登録者が増えて、働き手が増えるから税収を一部免除しても問題ないようだ。


「一番特典が少ないのは冒険者ギルドだから、登録だけはやめておいたほうが良いぞ」


 念入りに冒険者にならないように、注意されてしまった。


 ちなみに町の外に出るのは、冒険者を護衛に連れて馬車に乗れば特に問題はないらしい。


 要は外に魔物がいるから、戦う手段がないやつは外に出るなという意味なんだろう。


「それでここが商業ギルドだな」


「えーっと……登録はまだしませんよ?」


「チッ!」


 どうやらバビットは俺を商業ギルドに連れてくるために町の中を案内していたようだ。


 別にどこに登録しても問題はないらしいからな。


 それにこの数日で俺が多才な可能性も出てきた。


 人生の幅を広げるなら、せっかく健康な体を手に入れたから色々しても良いだろう。


「せっかくだからあっちも紹介してやる」


 そう言って商店街の反対側を紹介してくれることになった。


 どこかで鉄を叩く音や慌ただしい声が外にまで聞こえていた。


 商店街では人の騒がしい声が多かったのに、ここでは工事現場のような音が聞こえてくる。


「こっちは生産者ギルドの管轄のところになる」


 聞こえないと思ったのか、耳の近くで話しかけてくるため、色々な音で耳がキーンとする。


「ここは武器とか作るところですか?」


「ああ! うるさいからすぐに移動するぞ!」


 あまりの騒がしさに、俺達は早足で門に戻ることにした。


 これで町の紹介は概ね終わりだろう。


 門から右に商店街、左に生産街、中央に商業街。


 その先には各ギルドが中央に建っており、その奥が住宅街になっている。


 宅配サービスを始めない限りは、特に住宅街に行くこともなさそうだ。


「おう、少年おかえり!」


 門に戻ると門番が声をかけてきた。


「それでどこのギルドに所属するかは決まったか?」


「んー、今のところ職業体験してやりたいこと探そうと思います」


「ああ、それが良いかもな! ちなみに門番は冒険者ギルドでランクをあげるか、王都にある教育機関を卒業するとなることができるぞ」


「おいおい、お前まで俺の弟子に門番を薦めるのか!」


「ははは、少年には素晴らしい人生を過ごしてもらいたいからな!」


 本当にこの町の人達は優しい人で溢れかえっていた。


 それにしても門番の才能もあるのか……?

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