第15話:やって来た瑠奈んちの風呂場。

俺と瑠奈と馬草把うまくさわさんと未瑠奈ちゃんとその他、数名の

死人を乗せた電車はあの世に続く最寄りの駅に到着した。


電車を降りて無人駅を出ると一般の駅と同じようなロータリーがあって

未瑠奈ちゃんの指示通り、駅の左側に路地の一本道を行くとデカい門の前に

たどりついた。


「この門をくぐった先に東屋があってな・・・その先を行くと三途の川の

渡し場に出るんだ・・・その手前に過去につながる扉があるからな」

「扉の番をしてる鬼がいるけど、そいつとは私が話をつけるから扉が

開いたら、叶多と瑠奈ちゃんふたりだけで過去に行け」


「え?・・・扉の中にやみくもに飛びこんだってどこに出るか分かんない

じゃん」


「瑠奈ちゃんが頭の中で自分がこれから風呂に入るシーンを思い出せばいいから」

「そしたら思った場所に自然に出るようになってるんだよ・・・」


「叶多は瑠奈ちゃんと手をつないで行け・・・繋いだ手は絶対離すなよ、

時空を超えてる時に誤ってカオスに落ちたが最後二度と帰って来れなくなるからな」

「あ、それから、この腕時計を渡しておく」


「なにこれ・・・ 」


「それは刻時計ってもの」


「過去へ行きっぱなしじゃダメだろう・・・そんなことになったらタイム

パラドックスが起きるんだよ」


「過去の世界には、もう一人のおまえがいるからね」

同次元に同じ人物が存在したらいずれどちらかが消滅することになるんだ」


「瑠奈ちゃんを生き返らせることに成功しようが失敗しようが必ず帰ってこい」

「いいな・・・」

「この時計のゼロの数字に長針と短針が合わせてからリューズを押せ」

「そしたら帰ってこれるから・・・」


「分かった」


扉の場所まで行くと、そこにデーンとデカい扉だけが立っていた。

まじで、どこでもなんちゃらみたいだった。

たしかに扉の前に人が立っていて、鳶職人みたいにニッカポッカを履いて

工事用のヘルメットを被ったおっちゃんだった。

およそ鬼には見えないけど・・・。


未瑠奈ちゃんはさっそく扉の番をしてる鬼と交渉しはじめた。

最初、鬼はしぶってたみたいだけど、未瑠奈ちゃんの脅迫だか命令だかに、

しょうがなさそうに鬼は過去への扉を開けてくれた。


「叶多、行け・・・気をつけてな」


「うん、じゃ〜行ってくる・・・瑠奈行こう」


なことで俺と瑠奈は未瑠奈ちゃんと鳶職人のおっちゃんに見送られながら

開かれた扉から手をつないで過去に旅立った。


中は真っ暗でをどこをどう進んでるのかさっぱり分かんねえ。


「瑠奈・・・風呂で亡くなった日のことを思い浮かべろ・・・ 」


「分かった」


しばらく暗闇を彷徨ったかと思うと俺と瑠奈はパッと明るい場所に出した。

ふと気づくとどこかの家の居間にいた。


「ここは?」


「わ〜久しぶり〜・・・私の家だ」


「喜んでる場合じゃないぞ、おまえの父ちゃんと母ちゃんに見つからないよう

ことを穏便に済ませないと・・・」

「大丈夫だよ、この日はお父さんもお母さんも親戚にお呼ばれしてて夜遅く

まで帰って来ないから・・・」


俺たちは生前の瑠奈が風呂に入る前に先に風呂場に言って瑠奈が来るのを

待っていた。

なにも知らない瑠奈は、風呂に入ろうと風呂場にやってきた。

服を脱ごうとしてる瑠奈に俺は声をかけた。


「瑠奈、突然ごめん」


幽霊の瑠奈も実体化して俺の横に来た。

生前の瑠奈は、なんだろって俺の顔を見てそれから俺の横にいる自分の

姿を見た。


「え?私?・・・なになに?・・・どうなってるの?」


瑠奈は両手をクチに当てて、目を丸くした。

そしてその場で気を失った。

倒れていく瑠奈を俺は支えた。

この場で倒れて頭でも打たれて死なれたら元も子もないからな。


「このまま亡くなった時の時間さえ過ぎてくれたら・・・」


時間が過ぎるのってなんて長く感じるんだ。


「大丈夫かな、叶多」


「うん・・・時間さえ過ぎてくれたらしばらく様子を見て瑠奈を起こそう」

「幽霊の自分を見て頭がパニクってるだろうからこれまでの経緯をちゃんと

説明してやらないとな」


何事もおきることなくようやく瑠奈が亡くなった時間が過ぎた。


「瑠奈・・瑠奈、起きろ・・・起きろって」

「起きないと顔中舐めるぞ」


「んん〜・・・んん」


「起きろって」


「あ・・・え?、叶多・・・ここでなにしてるの?」


「よかった、ちゃんと生きてる・・・な、瑠奈、おまえ生きてるよ」


「なに言ってるの?」


「生きてるんだよ瑠奈・・・」


そう言って俺は幽霊の方の瑠奈を見た。


「さよなら、叶多」

「生前の私が死ななかったんだから幽霊の私はもう必要ないよね」


「瑠奈・・・消えるのか?」

「みたいだね、でも心配いらないから私が幽霊だった時の記憶は

生きてる私に移しておいたから・・・だから全部覚えてるからね」


「じゃ〜ね、叶多・・・エッチしようね」


そう言うと幽霊だった瑠奈は消えていった。


「ありがとう瑠奈・・・ありがとう・・・なんか複雑な心境」

「さてと・・・こっちの瑠奈を放っておけないよな」


「だいたい分かる・・・今まで起こったこと、分かるよ」

「幽霊だった瑠奈が、自分の記憶をおまえに移したみたいだからな」

「とりあえずあの世に帰ろう」


俺と瑠奈は刻時計を使ってあの世の扉まで無事に帰って来た。


「お、帰ってきたか?」

「叶多・・・この子は?・・・死なずに助けることができたのか?」


心配そうに未瑠奈ちゃんが言った。


「大丈夫・・・大成功、瑠奈は助かったよ未瑠奈ちゃん・・・生き返ったから」


「叶多さん、よかったですね・・・おめでとうございます」


馬草把うまくさわさん、なに泣いてるんですか?」


「はい、他人事とは思えなくて、喜ばしいじゃないですか・・・」


馬草把うまくさわさんはいい人だね」


「あはは、人じゃなくまだ幽霊ですけどね」


「じゃ〜叶多と瑠奈、お前らふたりさっさと現世に帰れ」


「未瑠奈さんは?」


「私は礼奈衣れないを生き返らせてやるって約束したからな」

「あとで叶多のマンションで落ち合おう」


ってことで俺は生きた生の、もう幽霊じゃない瑠奈を連れてまた電車に乗って

現世に帰って来た。

電車を降りた俺たちはそのまま駅舎のベンチに腰掛けた。


「ちょっと疲れた・・・」


「私のためにごめんね」


「なに言ってんだよ・・・俺は一生幽霊の瑠奈と暮らすんだって思ってた」

「でも、奇跡が起きたんだ・・・俺は今、無性に嬉しいよ瑠奈」


正真正銘のあの時、屋上ではじらいながら俺に自分の想いを告ったあの

瑠奈が帰って来た。


「瑠奈、覚えてるか?」


「ぜ〜んぶ覚えてるよ、叶多・・・なにもかもぜんぶ」


「そうか・・・よかった」


だからこれまでのことを瑠奈に説明する必要はなくなった。

俺は嬉しすぎて思わず瑠奈を引き寄せて抱きしめた。


「絶対離さないから・・・二度と瑠奈を死なせない」


「叶多・・・」


とぅ〜び〜こんて乳。





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