26話 霊感少女と幽霊観察

6年3組、守屋明里もりやあかり

彼女には生まれつき備わっている、とある性質があった。


「おはよう」


朝。

学校の昇降口の下駄箱で靴をしまおうとしていた明里は、後ろから誰かに挨拶をされた。

明里は振り返り、挨拶をして来た相手を見て自分も挨拶をしようとした。


「おは…」


しかし、明里はおはようと言い切れずに言い淀んでしまった。

今目の前に立っている、ニコニコと笑いながら挨拶をして来た同じくらいの背丈の女の子。

彼女の身体は透き通っていた。

その少女がいる事に気づいていない他の生徒が、どんどん彼女の身体をすり抜けていく。


「………」


守屋明里。彼女はこの世のものではないもの…幽霊を見る事が出来るのだ。


普通ならそんなものを見てしまったら、悲鳴の1つや2つあげるかも知れない。

しかし、幼少期から霊を見続けてきた明里には既に心に強靭な耐性が出来ていた。

透けている人間がいようが、天井から何か得体の知れない黒い影のようなものが垂れ下がっていようが、驚く事はなかった。


6年3組の教室に到着した明里は、自分の席に座ろうとした。その時、とある男子が視界に入った。

同じクラスの男子・原田睦月。

寝坊、遅刻の常習犯。

特に何の変哲もないただのクラスメイトだ。

と思っていたが、彼女は最近とある理由から睦月の事が気になっていた。


最近の睦月は遅刻の回数が格段と減り、今は席に座り難しそうな書籍を読んでいる。

最近の彼は何かが違うと明里は感じていた。

明里は睦月に恐る恐ると挨拶をする。


「は、原田くん…おはよう」


「守屋さん、おはよう」


明里に気づいた睦月は顔を上げ、微笑みながら挨拶を返す。そしてまた本に視線を戻した。

彼の物腰の柔らかい挨拶。そして笑顔を見たら、普通の女子はひとたまりもないかも知れない。


しかしこの少女・明里は違った。

明里が魅入っているのは睦月ではなく、睦月の頭上に浮かんでいる着物を着た女性だ。

明里が睦月の事が気になっている理由は、まさにこの女性の霊だった。


「………」


着物を着た女性はじっ、と明里を見ている。

しっかり目が合ってしまったが、特に危害を加えてきそうにはない。

髪型は…、とても長い綺麗な黒髪を後ろ手に縛っている。

服装…ところどころに金箔らしき刺繍が入っている濃い赤色の着物。

どう考えても現代の人間ではない。


『昔のご先祖様…?守護霊さんなのかな。と言うか、めちゃくちゃ綺麗な人だ…』


思わず見惚れていると、その女性はにっこりと微笑んで来た。

明里はいそいそとその女性の霊にお辞儀をして、自分の席についた。


「………」


その一部始終を、もちろん睦月が気が付かないはずがなかった。

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