13話 さようなら昼休み

千春と睦月が前にしているのは、学年でも悪名が高い6年1組の男子たちである。

その1組の1人である本田直人は、素行の悪さが理由で学校中から最強最悪との生徒として知られている。

背も2人より高いし、ガタイもいい。

けど、千春は今は逃げようとは思っていなかった。


直人の物言いに対して千春は怒り心頭な訳だが、それ以上に睦月が怒りを隠せないでいる。

その結果睦月が直人に言った言葉がこれである。


「優衣に相応しいって何だ?相応しい訳ないだろ。馬鹿かお前は」


この言葉は1組の男子たちの怒りの着火剤として実に優秀な働きをしたらしい。

男子の1人が睦月に駆け寄り、胸ぐらを掴んだ。


「原田…てめえ調子に乗るなよ」


「…本当の話だろ」


2人は睨み合った後、相手の男子が舌打ちをして胸ぐらを掴んでいない左手を振りかぶった。


「ムッティ!!!」


睦月が殴られると思った千春は止めに入ろうとした。

しかし、睦月が殴られる事はなかった。


「止めろ!」


睦月を殴ろうとしていた男子の手はこの声で止まった。

この声の主は、まさかの直人であった。


「直人…何で止めんだよ!!」


「原田を離せ。こいつに話がある」


不服そうな声を上げた男子は、舌打ちをしながら睦月を離した。

直人が何をするつもりなのか。

全く分からないまま千春は直人の動向を見ていた。

直人はそのまま黙って睦月に向き合った後、静かに話を始めた。


「…俺はここしばらく、水野とお前たちをずっと見て来た」


「え?」


千春はまさかの直人の発言に驚いた。

自分も含めて直人に見られていたと言う事か?

驚いた様子の千春を見た直人は話を続ける。


「川崎は気が付いていなかったみたいだけどな。…だから本当は何となく察してはいたんだ。川崎は水野とは付き合ってないし、恋愛感情も抱いてないだろうってな。で、さっきの川崎の言葉でそれを確信したって訳」


『優衣ちゃんは俺たちにとって大事な幼なじみだ!お前らみたいな奴らになんか優衣ちゃんを渡すわけないだろ!!』


千春はつい先程直人や男子たちに向けてそう怒鳴り散らした。

この発言で直人は千春と優衣の関係を確信したらしい。


「まあ…川崎はいいんだよ。分かったから。けどな、こいつは違う」


そう言った直人は再び睦月に顔を向けた。


「初めてだよ、この俺にあんなに敵意むき出しで睨みをきかせてきた奴は」


直人と睦月はお互いを静かに見ている。

と言うか、睨み合っている。


「喧嘩する前に、お前とは一度ちゃんと話したかったんだ原田。水野の事で」


「…奇遇だな。俺もだよ、本田」


そう言った2人からは禍々しい雰囲気が漂っている。

他の男子たちは静かに2人の様子を見守っている。

千春はと言うと、1人で狼狽えていた。


「ムッ、ムッティ…!?」


優衣の事で怒り心頭なのは千春も同じだから分かってはいたが。これでは睦月が優衣の事が好きみたいではないか?


『ムッティは千姫の事が好きなんじゃ…!?大体本田に睨みきかせてたって何だよ!!』


などと言う事をこの場で言える訳もなく、千春はそのまま推し黙ってしまった。


「お前らが2人とも水野と付き合ってないのは分かった。けど、お前の気持ちを聞かせろよ原田」


再び腕を組んだ直人は睦月に問いかけた。

睦月は変わらず黙ったまま直人を見続けている。


「もう一度言う。俺は水野の事が好きだ。…お前はどうなんだ?」

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