はだし
電車であった怖い話。
連日の疲れもあって、今日はついつい座席で居眠りをしてしまった。
朝から小雨が降っているような寒い冬の日で、満員電車の湿気と暖房の熱は眠気を誘発するには十分すぎる環境だった。
膝に抱えたリュックに顎を乗せるようにして寝入っていた私は、次の停車駅を示すアナウンスに気づき、姿勢はそのままに瞼だけを開けてぼんやりとしていた。
乗っていた電車は急行だったので、目的地まではまだ猶予があった。
徐々に眠りから覚め、視界がはっきりしてきた。
早朝の薄暗い車内の床は、黒いズボンと黒い靴で埋め尽くされている。
今日は朝から雨が降っていて、冷たく湿った空気に触れた指先は今にも凍りそうなほど寒い。
だから外にいる人はみんな分厚いコートと靴にすっぽりおさまているはずなのに、
目の前の床に立っているのは青白い裸足だ。
筋やくるぶしが痛々しく浮き上がるほどにガリガリで、黄ばんだ爪の端が黒ずんでいる。溝に突っ込んだような濁った水が車内の床に染み出している。
それに気づいたのが3分前。もう数秒足らずでこの電車は目的地に到着する。
そうすれば、私は必死に伏せている顔を上げ、この奇妙な裸足の持ち主を拝まなくてはならない。
電車が減速を始める。
間もなく、目的地です。
3...
お出口は、左側です。
2...
お忘れ物なきよう。
1...
手前から順にお降りください……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます