第36話 砦攻略戦

 ペルート国はいくつもの都市を抱える比較的大きめの国だ。

 その一方で、エミリュラの都市は一つのみで国土面積は比べるまでもなく、総人口でも劣っている。

 普通に考えればこの二つの国がぶつかればどちらが勝利するかは考えるまでもないのだが、俺はそんなことに気にすることもなく、最近ペルート国側で建設された対エミリュラ用の砦へと赴くのだった。


「ざっと見積もって一万人ってところか」

「なんで砦の中にいるのに人数がわかるのよ?」


 来るなと言っているのに無理矢理同行してきたミリーが問いかけてくる。

 このほかにエリナとサラもついてきている。

 リューナとライカも来たいと言ってきたのだが、万が一エミリュラが攻撃されたときの防衛戦力として彼女たちには残ってもらった。


 まあ、エミリュラには特製の哨戒線が引いてあるので、俺に気付かれることなく攻められるのは本当に万が一くらいの確率ではあるが。


「あの規模の砦に駐屯できる人間の最大数だよ。敵さんはこちらが属国と認めた国に宣戦してるんだ。当然宗主国のエミリュラから攻撃があると想定してるだろうよ。そのエミリュラに一番近い砦に最大数の兵を駐屯していないとは思えない」

「むぅ……たしかに。けど、彼らはなんで勝てると思ってるのかしらね。アサヒの武器を見たら普通膝を折ると思うけど」

「俺が防衛しかしてないからさ」


 そう言うと、ミリーはキョトンとした顔を返してくる。


「……どういうこと?」

「明確な軍事力の差があるのに、わざわざ経済戦争を仕掛けてくる俺らをペルート国はどんな風に捉えると思う?」

「うーん……兵器に何らかの制約がある、とか? あっ、そっか! 動かせないってことか」

「そう。相手さんは俺らの野戦砲やら機関銃がエミリュラの都市から動かせない兵器だと思ってるんだよ。だからメイロン国に攻撃しても大丈夫だって思ったんだ。んで、これらの兵器が動かせるものだとわかったら、相手指揮官はどんな手立てを打って来ると思う?」

「んー、なんとかして倒す、とか?」

「それじゃあ運任せもいいところだろ」

「そうねぇ。そしたら撤退じゃない」

「だな。正常な判断力を持つ指揮官ならその段階で撤退を選択する。ただし、あるケースにおいてはミリーが最初に言った回答が正解になる」


 あるケースって? と問いかける彼女の言葉を聞きながら、創造魔法で長距離砲を創り出していく。


「相手指揮官がクなんとかのように、是が非でもこの戦争に勝たなければならないと思ってる輩さ。そいつらは戦争への敗退がそのままやつらの生活の終わりに直結する。だから万が一に賭けてこちらの攻略にくるだろうな」

「ホントに万が一じゃない」

「そうだね。この砦の指揮官はどっちかな……」


 全員に耳を塞ぐよう指示し、長距離砲を発射する。

 砲弾は砦の一部に命中し、外壁が崩れ落ちていった。


 距離はあるが、こちらはわざわざ姿を視認できる位置にまで出てきたのだ。

 誰が攻撃しているのかくらいは相手も認識できていることであろう。


 続けて砲撃。

 石壁が吹き飛び、中身を露出させていく。

 しばらくそれを続けていると、砦から白旗を掲げた者が一名やってくるのだった。

 両手をあげて敵意がないことを示してくるが、ライフルを掲げて照準を定めておく。


「そこで止まれ、それ以上近づいたら命を奪う」

「こ、攻撃をしないでくれっ! 俺はマイル・センダールトン。生まれはアルストンで、育ちはクレイグラスだ。俺たちは降伏する。このまま戦っても勝てないのは見えている。先のロド村での戦いに俺は参加していた。お前達のその攻撃を何度も目にしてるんだ。それが恐ろしく脅威だってことはわかっている。だからどうか攻撃しないでくれ」

「だったら今すぐ砦に帰って撤退しな。追撃はしないよ。降伏は認めない」

「た、頼む。降伏させてくれっ。俺らの中には病気の奴や負傷している奴もいるんだっ。撤退になったらそいつらまで置いていくことになる」

「もう一度言う。降伏は認めない。撤退なら勝手にしろ」

「……っ! ま、待ってくれ、撤退と言っても、そんなすぐにはできないんだ。雪の中を着の身着のままで行ったら死んでしまう。せめて攻撃を――」


 ダァン!!


「近づくなって言ったでしょ」


 マイルとか名乗っていた男の頬を銃弾が掠める。


「五分あげる。その間に撤退してね」

「そ、そんな時間では――」


 長距離砲を構わず発射してみせる。


「俺ら、戦争してんだよ? 別に五分を待つのも馬鹿馬鹿しいけど、五分くらいなら待ってあげる。早く行かないと、五分後にはあんたも撃ち抜くから」

「ひ、ひぃえぇぇ!」


 マイルが走り去っていくのを見届けて、創造魔法で別の兵装を創り出す。


「こちらは何を創られているのですか?」

「あいつらを殲滅させるための兵器だよ」

「えっ……? 逃がしてあげるのではないのですか?」

「逃げるんなら使わずに終わる。逃げない場合のためのものかな」


 サラも自身の身長より大きなハンマーを取り出し、戦闘態勢を整えている。

 切れ者の彼女からすればもはや黒なのであろう。


「さ、さすがに逃げるんじゃないの?」

「さっきのやつはたぶん時間稼ぎだろうなぁ」

「時間稼ぎ?」

「無用なことを喋りすぎ。それに病気とか負傷とか。他人の命に頓着している。自分の命の危機を認識しているやつの行動じゃないよ。たぶんやつらは攻撃態勢を整えるために少しでも時間を稼ぎたかったんだよ。エリナ、風魔法で砦に向かって風を放っていてくれる? そよ風でいいから」

「そよ風、でよいのですか?」


 頷く俺に首を傾げながらも、エリナはそれを言われたら通りに実行していってくれる。

 そもそもの風向きは砦方向だが、念のためだ。


「ほら、喋ってる間に来たみたいよ」


 砦からは兵士たちができる限り散開しながらこちらへと走り込んできていた。


「密集突撃をしちゃいけないってことは学んだみたいだね。野戦砲の連射性能が低いこともわかってる。やっぱり人間はすごいよ。死からいくらでも学んで成長していく。あいつらには絶対にこの技術を渡してはならない」

「ど、どうすんのよ? まだ距離はあるけど、こう広がられると厄介なんじゃないの」

「そうだね」

「アサヒ様のクラスター爆弾? というやつで攻撃するのですか?」


 二人が創り出した身長二つ分はある筒を見上げながら言ってくる。


「いや、今回のは――」


 躊躇いながらもその手を握る。


「――クラスター爆弾が可愛く思えるくらいのだよ。彼らにはちゃんと俺のことを理解してもらわなきゃ困る。今後があるなんて思われたら困るんだ。だから、死にながら生きてもらう」

「死にながら、生きて……?」


 創り出したソレを風魔法で浮かして、ゆっくりと奴らの方へと放っていく。

 基本属性の風魔法が使えれば、射出機すら必要ない。


「これは生物の死を知り尽くした人類だけか作り出せるものだよ。彼らはこの世界を地獄にも天国にも変えられる。天国をつくるために、地獄をこの世に体現していく。それが技術の正体さ……」


 そのまま、放ったそれが、彼らの頭上で破裂するのだった。

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