第16話 破壊のための兵器
最初、ミリーたちには何が起こったか分からなかったであろう。
鼓膜が破れるほどの爆発音が鳴ったと思ったら、衝撃波が走り。
広範領域が土煙にまみれ、爆風に包まれた岩人たちが石片へと姿を変えていく。
ドガァン!!!
なおも発射音が止まることはなく、幾度となく火砲の音が鳴り続く。
ドガァン!!!
ドガァン!!!
たとえ高位の魔法を扱える者とて、これほどの爆破を発生させるには相当の熟練が必要であろう。
それをこうも連射してくるともなれば、それはもはやこの世のものとは思えない光景で。
幾度も幾度も響き渡るその破壊は、これまでの余裕を描いていた岩人たちの顔に、焦りと、混乱と、そして恐怖を与えるのだった。
「石製の城壁は歴史上数多く存在してきた。万里の長城をはじめ、コンスタンティノープルもノイシュバンシュタイン城も大阪城も全部石によって外敵から身を守ってきた。その一方で、それを破砕する兵器だって数多くつくられてきている。中でも強力なのは――」
ドガァン!!!
「砲の技術。初期の大砲は基本的に炸裂性を持たなかったことから、専(もっぱ)ら攻城兵器としてしか役に立たなかった。けど、製錬技術が発達した第一次世界大戦のころからは歩兵を――人を殺す武器として有効に運用されるようになった。かつては黒船が炸裂弾を使用して江戸の民を驚かし、ゆくゆくは電気通信の発達で効力射を行えるようになって、時限信管により曳火(えいか)射撃が可能となった。砲は今や戦争に不可欠な兵器となっている」
ドガァン!!!
悠々と歩いていたはずの岩人たちはいつの間にか逃げ惑う獣のように姿を変え、どちらへ逃げるべきかと右往左往している。
「次の瞬間にどこで爆破が起こるのかがわからない。わからないがゆえに、どちらへ行けばよいのか惑う」
ドガァン!!!
「一度これを経験したら、もう前には進めない」
ドガァン!!!
「進んだ先で自分の体が吹き飛んでるかもしれないからね」
なおも砲弾はそこかしこに降り注ぎ、その度に衝撃波が走り抜け、城壁に積もった砂を振り落していった。
「サイパン島の戦いにおいて、米軍は十数万発もの艦砲射撃を加えて、日本の防衛陣地を破壊することに成功した。遠距離から一方的に目標を攻撃できるってのは脅威なはずなんだよ。この砲撃により日本軍は全滅したと思われていたんだ。……なのに」
逃げる岩人へと照準を定める。
「上陸してきた米国軍が目の当りにしたのは、猛反撃を繰り出してくる日本軍だったんだ。あれだけの砲撃を受けていたはずなのに」
岩人に砲弾が直撃し、四肢が飛び散る。
「無限と思えるほどの砲を受けて、なおも戦える旧帝国軍ってのは、本当に強い軍隊だったんだよ。対して――」
目の前で逃げ惑う岩人の姿へと目をやる。
「――岩なんかが、人類の相手になるわけないじゃん。お前たちじゃ、人類の足元にも及ばないよ」
すべてが終わったときには、メサルスの城壁前に大量の粉々に砕け散った岩の破片転がっているのだった。
生き残っている者は一人としていない。
ましてや、この砲撃に反撃を加えてこようというものなど。
「たお……したの……あれだけの、岩人を……っ!」
「うん。全部死んだよ」
青ざめるミリーに対し、エリナはこの光景をどこか、胸を熱くしながら眺めているように見えた。
だから少しだけ俺は――、
危ういな
と思ってしまうのだった。
「さっ! 終わった終わった。ピカールのところに戻るぞ。あいつにはやってもらいたいことが山ほどあるんだ」
息を呑む彼女らをそのままに、再び鍛冶場へ赴くと、彼らは俺らのことをエールと共に出迎えてくれる。
「村を救った救世主!」
「ありがとよ!」
「助かったぜ!」
「いやぁ、良かった良かった、岩人を倒すことができて本当によかったよ。死者は一人も出てないし」
「ね、ねぇ、あんたってもしかしなくとも、岩人が攻めてくること知ってたんじゃないの?」
ミリーが誰にも聞こえないように小声でそんなことを聞いてくる。
「え? うん、そうだけど?」
「……。そういうのマッチポンプっていうのよ?」
「バレなきゃいんだよ! バレなきゃ! はっはっはっはっ!」
ジト目を送って来るミリーを横目にピカールの元へと行く。
「いやぁ、アサヒと言ったか? 今回は助かったよ。娘を助けてもらった上にメサルスの街まで救ってもらって。俺にできることがあるなら、なんでも言ってくれ!」
よしっ!
クエのクリア後のセリフだ!
「お! 今なんでもって言ったな! おし! そしたらここにいる鍛冶師みんなロド村に移住して鍛冶仕事をやってくれ! 炉は俺の方で用意するからさ!」
「え゛!? い、移住?! そ、それはちょっと予想外だな……。お、俺らもこの街にはいろいろと未練があるし。ま、街を離れるってのはそんな簡単な話じゃねぇかもな……」
あら? ここら辺はどうなってんだろ。
ゲームだとあとは管理地にセットするだけだったから特に会話とかなかったんだよな。
どうやってやりゃ管理地に招けるんだ……?
なんて思っていたら、再びピカールが口を開く。
「その……、行ってやれなくもねぇんだが、ただではいけねぇ! そういうわけで――」
カシュアを俺の前へと引っ張り出す。
「娘を嫁にもらってくれ! 嫁に行った娘のところに行くっつんならロド村にでもどこにでも行ってやる!」
「「はぁぁぁぁぁぁ!!?」」
俺の代わりにミリーとエリナが仰天の声をあげてくれる。
一体どういう思考になればそう言う話になるのか。
なのに、カシュアときたら満更でもない顔をしていやがった。
「いや、なんでそんな話になんの!?」
「カシュアももう年頃の娘だ。だが、鍛冶師の娘ってのはなかなか貰い手がいねぇんだよ。とくにこいつは鍛冶仕事の練習ばかりで花嫁修業を全然してねぇんだ。だが、器量はいいし優しいいい子なんだ! だからどうかもらってくれ!!」
なんか、論理がすり替わっている気がするんだが……。
「……本人はいいのかよ?」
「わ、私は、その、興味がないわけでもないっていうか、で、できることなら結婚はしたいなって思ってたっていうか、子どもは六人くらい欲しいっていうか……」
えぇぇぇ……。
「ちょ、ちょっとあんた! 勝手に結婚する前提みたいに話進めないでよ!」
「そ、そうです! アサヒ様は現在わたしと結婚しているんですっ!」
「いや、エリナとは建前上そうなっているだけで、夫婦の誓いを立てた覚えはないんだが……」
ボソッとそんなことを呟いてみる。
「た、建前上そうなっているということは、もう誰も入り込める余地がないということですね!」
「ちょっと待ってよエリナ! 何勝手にアサヒを独占しようとしてるのよ! まだあんたのもんって決まったわけじゃないのよ!」
「ミ、ミリーさんこそ、普段からアサヒ様のことをベタベタとストーキングするのはやめて下さい! 法的には私の旦那ということになっているんです!」
うーん……。
なんだかめんどくさくなってきたな。
もう諦めて帰ろっかな……。
「あっ!!!」
俺がとあることに気付いて大声を出したことで二人が言い合いをやめる。
「ちょっと待って、ピカールを管理地にセットするってそういう意味だったのか。娘を娶ることでお義父さんとして招いてたってことか。ってことはつまり――」
ピカールは二番目の街と行こともあって数多くのプレイヤーが専門職枠として一度は用いたことがあるはず。
ゆえに、
「お前! ビッチカシュアだったのかっ!!!!」
「「「「んなっ!!」」」」
その後、俺はミリーとエリナとカシュアとおまけにピカールからも殴られた。
この世界、蛮族多すぎだろ。
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