第14話 ピカクエ
「うーむ……いい加減鍛冶師が欲しいな。それも大量に」
今後の方針に思考をやっているとミリーがこちらを覗き込んでくる。
「武器でも製造するの?」
「いやいや、違うって。今後は金属材料をたくさん扱うことになるから、それを扱える人が必要だ。本当ならガラス細工師も欲しいけど、この世界はそもそもガラスがほとんど普及してないからなぁ……」
ガラス細工を一から教えるのは骨が折れそうだ……。
「というわけで、俺はちょっくらメサルスまで行ってこようと思う」
「メサルス? そんなとこまで何しに行くのよ?」
「俺の見立てだと、メサルスのピカクエをクリアすれば鍛冶師をゲットできる可能性が高い。そういうわけで俺は行って来る!」
「え!? ……あ、あたしも行くわ!!」
ピカクエってなんだとか、鍛冶師がなぜゲットできるとかのツッコみをすっ飛ばして、ミリーが申し出てくる。
「え? いや来なくていいよ。俺一人で行くから」
「あ、あんたは常識がないでしょ! あたしがいなきゃ何をするかわかったもんじゃないわ!」
えぇぇ……。
「いやだって――」
「連れてかないってんならあたしも偶然メルサスに行くことにするわ!」
「……強引だな。まあ、別にいいけど」
準備をしていると、今度はエリナにも見つかってしまう。
今日もうさ耳がぴょこぴょこ元気にしている。
「アサヒ様、本日はどうされたのですか?」
「ん? ちょっとメサルスに行ってこようと思ってて、準備してるの」
「メサルスに? ミリーさんと二人でですか!?」
「え? あ、う、うん。来んなって念押ししたんだけど、絶対ついてく――」
「私もご一緒させて頂きますね」
「え? いや、でもエリナには――」
「私もご一緒させて頂きますね」
「あ、あのねエリナ、遊びに行くわけじゃ――」
「私もご一緒させて頂きますね」
「……」
なんだろう。
エリナが何だか怖いんだけど……。
「あー……。うん。もういいよ。ついてきな」
「はいっ! ミリーさんも、よろしくおねがいいたしますね♪」
二人ともなぜだか笑顔で睨み合いをしていた。
こうして俺は、仕方なくミリーとエリナを連れてメサルスを目指すこととなったのである。
*
いくつかの村を経由して、三日間の馬車移動を終えた俺らはようやくメサルスへと到着した。
この街はミストラルバースオンラインにおいて二番目の拠点となる場所で、ゲームの自由度が一気に広がる場所でもある。
このゲームに存在する物質はほとんどが現実世界のものと同じであり、それらを科学と物理の知識で加工していくことも可能であった。
俺がプレイしていたころは、どんなにやってもライフルドマスケット銃あたりが創り出せる武器の限界だったが、それでも様々なものを創り出せるというのは楽しくて仕方がなかったものだ。
この二番目の拠点メサルスではそのチュートリアルとも言える、ものづくりの基本に関するクエがいろいろと揃っているのである。
中でも、鍛冶師を仲間にできるであろうと睨んでいるのはピカクエ。
頭頂部のテカリ具合から、遠くにいても一目でわかるおっさん、通称ピカール(本名は覚えていない)の依頼をクリアしていくことである。
管理地には『専門職枠』というものがあり、その枠に特定の役職の者を就けることで、村の生産能力をあげることができるようになっていた。
ロド村の専門職枠は元々ゼロとなっていたはずだが、俺の予想通りであれば、枠の数が増えているのではないかと睨んでいる。
というのも、専門職枠は任意生産物と同様、村の人口と発展度合いに応じて増える仕様になっていたからだ。
現在のロド村は人口が元の八倍近くになっており、おまけに文明レベルも向上している。
専門職枠がゼロから増えていてもおかしくはない。
そして、ピカクエのクリア報酬はピカールを含む鍛冶師集団となっていたので、このクエをクリアして鍛冶師をロド村に招くという算段である。
「よし、そしたらまずは遠目でも一発でわかるピッカピカの禿を探してくれ。人間の皮膚であの反射率を出すためにはどうやらなければならないかを真面目に考えるレベルの禿だから、見れば一発でわかるよ」
「ず、ずいぶんな言い様ね……」
「う、薄毛の方を探せばよいのですね」
手分けして探してみたところ――、
「た、たぶん、あの御方ではないでしょうか?」
エリナがものの十分も経たないうちに見つけて来たのである。
そこには遠目でも一発でわかるぴっかぴかの禿がいた。
そのままその男のところへと歩んでいく。
「ん? おう、いらっしゃい。冒険者だな? 武器のオーダーメイドの依頼か?」
「ギルドで人探しの依頼の張り紙を見て来たんだけど」
ミリーとエリナが「え??」という顔となる。
というのも、俺らはギルドになんて寄ってないためどんな依頼が張り出されているかを本来であれば知らないはず。
だが、この世界がミストラルバースオンライン通りであるのなら、依頼は間違いなく掲示板に張り出されているはずだ。
その内容はピカールの一人娘であるカシュアを探してきて欲しいというものである。
「おお! 助けてくれんのか! ありがとう、助かるぜ」
「うん。じゃあ行ってくるね」
「おい! 早とちりすんな! お前娘の容貌を知らねぇだろ! 背が低くて、茶髪のセミショートの女の子で、歳はそっちの嬢ちゃんらとだいたい同じだ。名前はカシュアっていう」
ゲームで何度も見たため知っているが、それは俺しか知りえない情報だ。
「オッケー。んじゃあ、さっそく探してくるわ」
「おう頼むぜ」
*
「ねぇアサヒ、どこ向かってるの?」
「ん? 西の洞窟だよ。」
「なんで西の洞窟に向かってんの?」
「ピカールの娘が西の洞窟にいるから」
そんな風に返してしまったものだから、ミリーから鉛のような視線を返される。
「ア~サ~ヒ~。わかるようにいいなさいよっ!」
「わかるようにもなにも、知ってるだけだよ。ってかこのあと山賊と殺し合いになるからお前らはもう宿に帰れ」
「なんでそんなこと知ってんのよ?」
「秘密」
なんて返したものだから、ミリーに眉はさらにつり上がってしまう。
「あんたねぇ……!」
「まあそう怒んなって人には言えないことがあんだ。というかお前ら宿に帰れって。このあと戦闘になるから」
「まったくもう……。戦うんならなおさら一人で行かせるわけにはいかないわ。あたしも戦うわよ」
「わ、私も魔法を扱えます。アサヒ様の支援をさせていただければと存じますっ」
「……。言っとくけど、お前らが戦うのは原則的に禁止な」
「なんでよ?」
「なんでも。これは村長命令」
「囲まれたりしたらさすがに無理よ?」
「じゃあ帰れ」
ミリーが明らかに不機嫌そうな顔となっていく。
「アサヒ~、あんたさっきからわけわかんないわっ! あたしたちのこともちょっとは頼ってくれたっていいじゃない! 仲間なんでしょ!」
二人して戦う気満々であったため、俺は少しだけ方針を変えることにする。
「……はぁ。仕方ないな。じゃあ……、次の戦闘は相手の無力化に注力することにするから。そもそも戦わなくていいよ」
「お得意の機関銃だのナパーム弾だのは使わないの?」
「ピカールの娘は西の洞窟にいる山賊たちに捕まってんだ。んなことしたら人質ごとおじゃんだぜ」
「……やっぱり気になるんだけど、あんたってなんでそんなことまで知ってんの? おかしいじゃない。あんたこの街に来たばっかでしょ?」
「本当は通常ルートが良かったけど、まあいっか」
「ちょっと! 話聞きなさいよ!」
「いくぞっ! ピカールの娘を救い出すんだっ!」
「あんたねぇ~!!」
ぶーぶー文句を垂れるミリーを無視して、俺らはそのまま西の洞窟へと向かうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます