第8話 電気をつくろう!

「さ、電気を作るぞ」

「いよいよね。あなたの言う電気とやらがどれ程すごいか見せてもらうわ」


 ロド村で今日も文明発展へ勤しんでいると、ミリーが突っかかって来る。


「いや、脳筋思考のミリーからしたら、ミリーの雷魔法のがすごいよ。威力高いし」

「褒めてんだか貶してんだかどっちなのよっ!」


 魔素溜まりのところへ行こうとすると、途中でエリナと出会った。

 今日もうさ耳を元気にぴょこぴょこさせている。


「アサヒ様、おはようございます。本日はどちらに?」

「この村を襲ってきてた魔物の出現ポイントに行くよ。魔素溜まりで電気を作る予定」

「レーメルの丘に行かれるのですね。よろしければ私もご一緒させて頂けないでしょうか?」

「いいけど、あそこになんか用あんの?」

「え!? あっ、いやっ、とくに用は……、えっと、レ、レーメルにはベリーの実がよく成るんです。それを取りに行こうかと思いまして」


 目が踊っている。

 なんか他に隠し事でもあんのか……?

 まあどうでもいいが。


「そうなんだ。よしっ、じゃあ行くか」


  *


「なにつくってんの?」


 現地で早速材料の創造を始めると、ミリーもエリナも二人してこちらの作業を覗き込んでくる。


「材料調達。つっても魔法で作るだけだから簡単だけどね。創造魔法はこの辺り便利だよなぁ。ラフサイズなら思い描いた構造を思い描いた素材で作ってくれるんだもん」

「前から思ってたんだけどさ、あんたのそれって黄金とかもつくれるの?」

「つくれるけど、たくさんはつくれないよ。創造魔法はこの世界の価値に比例して魔素を消費するという性質があるんだ。だから価値のあるものを大量につくることはできない。一方で、この世界にまだ存在しない、『価値の定まっていないもの』はタダ同然で作れるのさ! つまり! これからつくる蒸気タービンも発電機もタダでつくれるんだ! すごいぞ!」

「なんというか……あんたっていっつも楽しそうね。創造魔法で金貨を製造して人を雇えば話が早いって思っただけよ。そしたらネトゲ? とやらもすぐできるんじゃないの?」


 俺はわざとらしくため息をつく。


「あのなぁ……。蛮族ミリーが千人いたって、蒸気タービンの仕組みやらフレミングの法則が発見できるわけじゃねぇんだぜ? 三人寄れば文殊の知恵って言うけど、千人寄っても蛮族は蛮族だよ」


 イラッ!


「い、言っとくけど! あたしこー見えて結構頭いい方なんだからねっ!」

「あーはいはい、すごいすごい。じゃあなんでこの装置が電気を生み出せるかわかる?」


 作りかけの交流発電機を見せる。


「え゛!? いや、それは……、あ、あんたが作ってるもんなんてよくわかんないわよ!」

「中心で回るのが磁石。それを挟むようにあるのは導線コイルね。磁石を回すと導線に電気が生み出される。なんでかわかる?」

「わかるわけないでしょうがっ!」

「だよねー。まあこれは――」


 言いかけたところで、エリナが口を開く。


「磁力と、雷と……あと、回転――いえ、磁力の変化が相互に関係性を持っているということでしょうか?」


 思わず目を見開いて、彼女のことをまじまじと見てしまう。


「……。すごいねエリナ。知ってたの?」

「いえ、何となく……、そうかと思いまして」

「ふーん。エリナはセンスありそうだね」

「あ、ありがとうございます」


 嬉しそうにはにかむエリナと、それを面白くなさそうに見つめるミリー。


「フレミングの法則って言うの。電界と磁界は相互に作用する。だから磁界を変化させることによって電流を誘起するのが発電の原理だよ」

「なんでわざわざ磁界で誘起するのよ。【サンダーボルト】」


 ミリーがこの前のように手のひらの上に魔法で雷弾をつくり出す。


「確かにこの前あなたが言ってた通り、これを制御するのは難しいわ。でも、電気をつくりたいんなら直接電気を作ればいいじゃない」

「うーん、魔素の研究が進めばできるかもね。でも現状だと制御性に乏しい。発電機ってのは電流を常に一定量で流せるところに意味があるんだ。それに魔法だと術者が必要になる。ミリーが不眠不休で二十四時間発電するってわけにはいかんでしょ?」


 ムッとした顔となるも、彼女は反論を飛ばして来ない。


「その点、この装置は磁場の回転によってそれを制御している。回転を一定にする技術はいっぱいあるから制御性が高い。インフラってのは安定的にサービスを提供し続けられるところに価値があるんだ。一発もんのすごい物より、普通のものをずーっと提供できる方がいいんよ」

「むぅー……。まあ何となく言ってることはわかるけど……」

「さすが高校生。フレミングの法則もちゃんと勉強しとけよな! 全員知ってるはずなんだぜっ!」

「あたしはあんたの言う高校生じゃなくて、高等教育を受けた人間なんだけどねっ」

「つまりは蛮族の類だと」

「むきーっ!!! あんたねっ!!」


「ミリー様は高等教育を受けられているんですか!?」


 今にも飛び掛からんとするミリーにエリナから声がかかる。


「え? ええ、まあ、そうよ」

「ミリー様ってもしかして、テレミカルフ家の方なのではないですか?」


 聞き慣れないワードに思わず耳を傾けてしまう。


「あー……、ははっ、バレちゃったか」

「やっぱりそうだったのですね!? 容貌からもしかしたらとは思っていたのですが、やはり」


「テレミカルフ家って?」


 突っ込まないつもりではいたが、興味が湧いてしまったので仕方なく質問していく。


「ペルート国の大貴族です。白銀の髪に碧眼と言えば、テレミカルフ家の有名な見た目の特徴となります。それに、平民はおろか、三流貴族でも高等教育なんて普通は受けられません。それを受けておられたともなれば、よほどの貴族かと……」

「へぇー、ミリーっていいとこのお嬢さんだったんだ」

「う、うん。ま、まあね」


 気恥ずかしそうに顔を赤らめながらモジモジしている。


「そのわりにゃずいぶん乱暴で乱雑な言葉遣いだな」


 イラッ!


「悪かったわね! あんた相手だからそうしてるだけよ!」

「まあなんにしても、とりあえず発電機ができたぜ! 次は蒸気タービンだ!」

「……。あんたはなんであたしが貴族をやめたのかとか、なんで冒険者をやってるのかとかをいちいち聞いてこないのね。まあなんていうか、アサヒらしいけど……」


 三十センチくらいの箱型発電機を慎重に地面へ置く。


「……この鉄の箱が電気をつくるの?」

「うん。ここを回すと電気が作られる。さっき言った通り、回転と磁場で電気を作れんだよ。んまっ、最初は磁束密度もよくわかんない中だし回転速度も制御不足だから、周波数も電圧もぜーんぶ適当だけどね」


 ふーん、と言いながらミリーが試しにその回転棒を掴んで回そうとしたのだが――


 ボキッ!


「「「あっ」」」


 ……。


「ああああああ! 何してくれとんじゃ蛮族がぁぁぁぁ!!」

「あー、は、ははは、ご、ごめんごめん、こんな簡単に壊れると思ってなくて……」

「っていうかステンレスがせん断破砕してるし! お前の体どうなってんだよ!?」

「い、いやほら、アサヒがそこまで言うんなら電気ってのがどれほどのもんかと思って、ちょっと本気で力かけてみただけだよ。は、ははは」

「はははじゃねぇわ! 弁償しろよ!」

「い、いや、だってあたし蛮族なんでしょ? こ、構造とかよくわかんないし、さすがにあたしじゃ直せないかなぁ……」


 明後日の方向を向きながらそんなことを言ってきやがった。

 ので、逃すまいと再びあの十字石碑に壁ドンする。


「あぅ」

「弁償できないんなら体で払ってもらうぜ」

「か、体!? ちょ、ちょっと待って、そういうのはまだ早いって言うか。い、いろいろまだステップ踏んでないし」


 逃げられないようにミリーに顔を突き合わせて、怒りを表明する。

 対するミリーは目をきょろきょろさせていた。


「ステップ踏めねぇのはミリーが悪いからだろ。ちゃんと体で払え」

「あうぅぅぅ。ま、まだそういうのは早いよ。あ、あたしたち、まだ付き合ってもいないわけだし……」

「付き合いならもう三か月もあんだろ。四の五の言わずに人肌脱げや」

「ぬ、脱ぐの!? うぅぅぅ。で、でも、あたし、エ、エリナみたくおっぱいとか大きくないし、そ、それでもいいの?」


 ミリーが期待のこもった上目遣いでこちらを見てくる。


「は? お前何言ってんの?」

「……え?」


 俺は少し離れて、スポーツジムとかに置いてあるケーブルマシンやら自転車やらなにやらを創造魔法で作り出す。


「発電安定性をあげるために、いろんな計測をお前の体でやらせてもらうぞ! 諸々のパラメーターがどんなもんかはわからんし、これらを使ったところでどうせ雑にしかわからんだろうが、それでも多少のことはわかるはず! 今は全てが足りてないから、ミリーと言う蛮族肉体を基準にしていく! お前がSI単位系(脳筋)だぁ!!!」


 …………。


「あー……。うん……。はい」


 その後、ミリーはエリナと目を合わせながらものすんごく気恥ずかしそうな顔をして、なぜか俺を二回殴った後、素直に実験に付き合ってくれるのだった。


  *


「とりあえず、これで動いてるの?」


 目の前では人間大の蒸気タービンが稼働しており、それが発電機に接続されて電気を生み出している。

 と言っても、傍目には湯気が煙突からモクモクと出ていることしかわらかないが。


 結局発電機の方もいろいろといじくって、サイズは蒸気タービンと同じくらいになってしまった。

 今の電力使用量に対しては明らかに無駄だが、魔素は無限に湧き出てくるので今はこれで良しとしよう。


「原理は何となくわかってきたわ。魔素を燃焼させて、それで水を沸騰させて、その蒸気で羽を回すって感じね。発電機? の方は未だによくわかってないけど……」

「俺的には発電機構の方よりも、魔素を一定流量取り出して逆引火しないようにした機構の方を褒めて欲しい……」


 滅茶苦茶難儀だった。

 なんせ魔素は向こうの世界でも扱ったことのない材料。

 すべてが未知数なのである。


「えっと、そしたらこれで魚人族には純水を配れるのかな?」

「まだまだまだまだまだまだまだまだ」

「うわぁ!? 顔怖っ!」

「電気系統の調整を結構しなきゃいけないんだ。純水製造装置に雑な電気なんてぶち込んだら間違いなく壊れる。純水っつってもどの程度のイオンレベルを求められるかもわからんし、そこらへんの机上計算も必要だなぁ。はぁ……道のりは長い……」

「そ、そっか。まあ、元気だしなって」


 項垂れているとエリナが手を握って来る。


「アサヒ様、私でよければ何でも致しますので言ってください! 私、アサヒ様のお役に立ちたいんです!」

「あ、そう? ありがと、必要なら言うよ。エリナはセンスありそうだし」

「はいっ! 私、アサヒ様にもっと興味がわきましたっ!」

「ふーん。……ところで、ベリーはいいの?」

「ベリー?」

「いや、ベリー取りに来たんでしょ?」

「あっ……、あー! そうでした! えーっとたしかこのへんに~」


 その後、ベリーの粒を三粒ほど取ったエリナと一緒に帰るのだった。

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